あなたの未練潰します!

清白瀬見

第一話働かざるもの天使であるべからず

「ようこそ明けの明星へ。ここはあなたの胸中に溜まっているわだかまり、つまり生前の未練を晴らすもとい潰す場所でございます。きっとあなたにとって素晴らしい一時となるでしょう」


俺はそう言って慣れない笑顔とお辞儀を人間…いやお客様にした。


「こら!ルシフ!背筋がピシッとなってない!九十度に腰をまっすぐ曲げろ!」


俺の隣にいる白髪の少女の天使はそう言って飛んで俺の頭を持ち無理やり地面まで下げさせた。


「ぐっふぉぁ!!!!」


なんて理不尽だ…そして厳しすぎる…なんで俺はこんな事をしてるんだ…。少なくとも数時間前まではいつもの日常で幸せだったはずなのに…


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〜数時間前〜


「くっそぉぉぉぉ!!何でこのソシャゲの星五キャラは全然出ねーんだよ!」


俺は手にしてるスマホを思いっきり床に叩きつけた。数分経った後優しく包むようにスマホを拾い机に置いた。


「まだ…石は残ってるはず…」


十数分前まで300と表示されていた場所には0という数字しかなかった。


「もう石無くなったのかよ…」


虚しくなり外を見ると背中に翼が生え、頭の上にリングをつけた天使がせっせと働いていた。


「皆頑張るねぇ。ま、俺は偉い偉い天使長様ですから働かなくてもお金は貰えるんだけどねぇ。さてと、フェス限定のキャラはまた明日狙うとして、別のゲームやりますか……」


スマホから手を離し別のゲームの用意をしていたらスマホからメールのバイブ音が鳴った。


「ん?メール?神?あぁじいちゃんか。珍しいな」


そのメールには『天使長ルシフ。至急ワシの部屋まで来なさい』と書かれていた。


「俺なんかしたっけ?まぁいいや。久しぶりに外に出るか!」


俺は自宅から出て、メールの送信主である神ことじいちゃんの家に向かった。

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「ルシフよ。働け」


「ホワイ?」


神ことじいちゃんの部屋の扉を開けたらじいちゃんは椅子にすわったまま深刻な様子でこちらを見てきた。


「何言ってんの?じいちゃん?もしかしてこの前のゲームのガチャで狙ったキャラが出なかった事でまだイライラしてんの?」


「やかましい!ワシがどんだけあのキャラを待ったのに貯めた石で出なかった時の絶望感よ…分かるか?分かるよなぁルシフよ!?」


じいちゃんは目に涙を貯めながらこっちに迫ってきた。


「ま、まぁ落ち着けよ。冗談はここまでにしといて、俺に働けとは?」


「そうだな」


じいちゃんは再び椅子に戻り深呼吸した後、俺にまぁ座れと言ってきた。


「ルシフよ…気付いてるのか?お前の翼の色」


「ん?俺の翼?あー最近黒く染まってきたんだよね」


本来天使の翼は白であるべきなのに俺の翼は右半分黒に染まっていた。


「まぁいいか、じいちゃんよ。これはこれで俺の翼カッコイイんじゃないの?」


「よくないわ!」


「えぇ…何で…」


「もし両方とも翼の色が黒になった場合お前はここで暮らす権限を失われ天界を追い出される。そして地獄で働かなければいけない」


「まじかよ…年中無休のあそこで働くのかよ…じいちゃんの力で何とかならないかな?」


じいちゃんは首を横に振り、無駄じゃと言ってきた。


「そうか…だから黒から白に戻すために俺に働けと言ってきたのか」


「その通りじゃ。そもそも五大天使長の中で唯一働いてないのはお前だけだからいい機会じゃ」


他の天使長は働いてる。何故働かずともお金は貰えるのに働いているのか理解ができない。正直めんどくさいが仕方がない。地獄に堕ちてしまったらめんどくさいじゃすまなくなってしまう。本当に死んでしまうくらい働かされる。


「で働くって何すればいいのよ?」


「仕事の内容は既に決めておる」


「お?何よ?」


「接客業みたいなもの じゃ。そうだな…転生の門の近くでやっている店にお前が働く事を伝えておこう。あそこなら…」


「転生の門の近くで働く!?冗談じゃない。他の天使長どもになんて言われるか…」


転生の門とはその名の通り死んで天界に来たものが次の世界へと転生するために必ず通らなければいけない門だ。転生の門はこの天界の中で一二を争う重要な施設で天使長が5人中3人がいる。あそこで働けばその内あいつらの耳に入って馬鹿にされるに決まってる。


「ダメじゃ。お前が何と言おうとあそこ以外で働く事は許さん」


「まじかよ…」


「イブリール。来なさい」


じいちゃんが手を叩くと、じいちゃんの隣に少年の天使が現れた。


「お呼びでしょうか。神様」


「ルシフがサボらないよう監視を頼みたい」


「かしこまりました。ルシフ様。これから24時間監視をすることになりました、ジブリールでございます。どうかよろしくお願い致します」


ジブリールはこちらに丁寧にお辞儀をした。


24時間監視か…まぁ見た感じ天使になって100年ってとこくらいの新米っぽいから多少サボれるだろう。てか真面目に働くし!


「あールシフ様は辞めてくれ。せめてルシフさんにしてくれ」


「了解です。よろしくお願いします!ルシフさん!」


頼むからその輝いた目でこちらを見るのをやめてくださいこちらとら数百年ほとんどずっと引きこもってたニートなんです!眩しいって!「天使長だからこの人凄いんだろうなぁ」みたいな眼をしないでぇ!


「あ、あぁよろしくな。イブリール」


「よし。決まったな。ルシフ、ワシの見積もりだと1年真面目に働くとその黒い翼は白に戻るだろう。多分な」


「1年かぁ…まぁ早く戻るように頑張りますよ」


「いいか。ルシフ。お前が堕天してここから追放されたら皆悲しむからな。色んな意味で。きちんとその事を頭の中に入れとけよ」


「はいはい」


「ではルシフさん。行きましょう」


「了解」


俺とジブリールは部屋を出て俺が働く場所とやらに案内してくれる上司との待ち合わせ場所に行く事にした。

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