第31話 チキンステーキ弁当④
「ただいま戻りました――って、カルディナさん大丈夫ですか?」
店に戻った正義を待っていたのは、
「あ、ララーさん。来ていたんですね」
「おはようマサヨシ。新しいメニューができたからって、呼ばれて来てみたらコレよ」
「うう、私今度こそ自信がない……」
「カルディナさん……。でも仕方がないですよ。俺たちにできることを精一杯やるしかないです」
「うん……」
カルディナが沈んでいるのは、先ほどガイウルフから受けた予約注文が原因だ。
ハンバーグ弁当の注文だった。
予約をしてくれることに関しては何も問題がない。
ただ、その注文数がこちらの想定を越えていた。
その数、48個。
国の内外から人が集まる――と言っていたのでそれなりに多いかもと正義も予想はしていたが、まさか40を越えるとは。
これでも商談は例年よりずっと小規模とのこと。
今回はガイウルフのように、珍しい物を扱っている人たちを集めたらしい。
「作ることに関しては問題ないと思う。でも……」
どうしてもできあがりに時間差が生まれてしまうので、持っていくまでに冷めてしまう可能性が高い。
加えて、宅配バイクに載せられる弁当の数にも限度がある。
どんなに積めても、最低でも2往復はしなければいけないだろう。
ガイウルフにもその旨は説明したが、それでも良いと言われてしまった。
既に手当たり次第にコックに連絡をしてきたが、変わりの人員がどうしても見つからないので、あちらも仕方がないと半ば諦めているのだろう。
「冷めたお弁当をそんな大事な日に出すの、やっぱり抵抗があるよ……」
「うーん……」
カルディナの頭を撫でて慰めていたララーの手がそこで止まった。
「仕方ない。その日は私が有給取って手伝うわ」
「え……。でもそんな、さすがに悪いよ――」
「いつも軽々しく呼ぶくせに、今さら遠慮するなんてあんたらしくないじゃない。せっかくの大口注文なんだから成功させましょ。保温なんて私の魔法でちょちょいのちょい、よ」
「ララーのことが女神様に見える……。ブラディアル国の4人目の女神様誕生じゃん。もう拝んじゃう私……」
「や、やめてよねそういうの!? 今回もお酒があったら私は満足なんだから。てなわけでよろしく!」
「もちろん。あっ。できたばかりの新メニュー、チキンステーキ弁当も食べて」
「これだからここに通うのやめられないのよね……」
ニヤリとしながらいそいそと食べる準備を始めるララー。
タダのお酒とご飯ほど美味しいものはない、と小さく呟いた彼女の声を正義は聞き逃さなかった。
「あっ、そうだ。ララーさん、そろそろバイクの燃料が少ないので補充をしてもらいたいです」
「ん、ほーはい。はへほわっはらひへひる」
「だから口の中に入れたまま喋らないの!」
早速口いっぱいにチキンステーキを頬張っていたララーとカルディナの既に何度か見たやり取りに、正義は苦笑してしまうのだった。
ララーは食べ終わると酒を大量に飲んでいた。
やはり彼女には、ドライカレーがちょっと辛かったらしい。
「私だって辛いのも食べられるし? 決して嫌いってわけじゃないのよ」
とちょっと強がっていたのは、カルディナにお酒以外はお子様舌だと
ララーが一息つくのを待ってから、正義はようやく彼女と外に出た。
「ふぅむ……」
宅配バイクを前にして、顎に手を当て小さく唸り声を上げるララー。
彼女の持つ杖から青白い光が放たれ、バイクに注がれ続けている。
「いけそうですか?」
「最初に
「ありがたいです。それにしてもそんな魔法があるなら、宅配バイクも複製できたりします?」
「うーん、無理ね。何せ私には理解できない構造をしているもの。
「そうですか……」
2台目のバイクがあれば新たに人を雇えるかもしれない――とぼんやりと考えていたのだが無理らしい。
パーツをコピーできるだけでも、正義にとって十分に凄いことなのだが。
そのパーツを自らの手で組み立てていかなければならないと考えると、やはり現状では無理という結論になっても致し方ない。
「全部を解析して、個々の繋がりや役割とかも理解できたらいけそうだけど……。何せこのバイクという乗り物、パーツが多すぎるのよ! 本当何コレ? あなたの世界でコレを作った人変態じゃないの? てわけで、私には全部の構造を理解できそうにないから無理! 燃料のガソリン? も複製するので結構いっぱいいっぱいよ。まぁちょっと慣れたから、次からはもう少し早く作れるでしょうけど」
「無理言ってすみません」
「いや。私としては別の世界の面白い物を見せてもらえてるってだけで楽しいからOKなんだけどね。ただ私に理解できないってのが、やっぱりちょっと悔しいのよー!」
子供のように地団駄を踏むララー。
知的好奇心をくすぐられる物体なだけに悔しいのだろう。
そうこうやっているうちに、ララーの杖から光が消えた。
「あ、終わったわよ。またなくなりそうになったら声かけてね。でも空っぽになると複製元がなくなって作れなくなるから、その前によろしく」
「わかりました。気をつけます」
これからはメーターがギリギリにならないくらいで補充をした方が安全だなと、正義は肝に銘じる。
バイクが動かなくなってしまったら、店も終わってしまうだろうから。
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