28話 気遣い
「はぁ…
私も誠司さんもアンの手のひらで転がされてたのね」
「違うわ!失礼ね!
そうなったらどちらも丸く収まるから、そうなるといいなぁ〜って願望だったの。
本当にそうなるかなんてわかるのは神様くらいじゃない」
私を悪女みたいに言うんだから!と、ぷりぷり怒っている。
「そうね、ごめん、機嫌なおして!
ほ、ほら、解呪薬が欲しいんでしょ?
ちょっと待ってて…」
作業部屋から小瓶1本を持ってきてアンに渡す。
「はい、これが欲しかったんでしょ?
どうぞ」
受け取ると、
「そう、これこれ!ありがとう!
おー!
きれいだわ」
暫く眺めていたが、すぐに魔女薬師の顔になり、〔鑑定〕を発動している。
「やっぱり、“
あら?でも、この数値は、“
何かいつもと違ったことあった?」
「ああ、それはね。
〔契約〕で得られた力が凄く魔力制御がしやすくて、いつもは抑制で抑えている魔力も解放して使うことができたの。そのせいだと思うわ」
「え?!何それ!
魔力制御しやすい力なんて、聞いたことも感じたこともないわ!」
「そうだよね…
それもまだ契約中だからかその状態が続いてて、制御しやすい今のうちに少しでも慣れておこうと思って、昔やってた魔力操作の練習やってるの」
そう言いながら魔力で蝶を数匹作り、辺りを舞わせて見せた。
「へぇー、形も精密で凄く安定してるわね。
昔は、なかなか安定しなくて形もぐちゃってなってたのに…」
懐かしそうに蝶を眺めていると、ツピーツピーツピー…♪と鳥の鳴き声がペンダントから流れ出した。
「あー…、もう時間だ…
仕事の途中でこっちに来ちゃったからもう帰らないと。ごめんね。
もう少し居たいけど向こうも立て込んでて…」
「ううん、少しの時間でもアンに会えてよかった。
ありがとう」
「たまには、マリーも王都にも来なさい」
「ええ、わかったわ。
今回の依頼が終わったらハクとゆっくり来るよ」
「そうか…わかった。
王都で待ってるよ。マリー、じゃーね」
手を振りながら、転移魔法を発動させると名残りを残して消えた。
「ハク?近くにいるんでしょ?」
『……ああ』
「アンを呼び寄せたのはあなた?
どうやって連絡したかはわかんないけど」
『……その…なんだ、この間、何かあったら自分を呼べとアンから試作の魔道具を貰っていて…だな…
我では、人の機微の相談役は務まらないため…アンを呼んだのだ』
困り顔のハクで私を見上げる。
『…どうだ?落ち着いたか?』
「うん。
ありがとう、ハク。
お陰で自分の気持ちに気づけたよ」
『そうか。
…あんなに小さかったマリーが、もう番う年になったのだなぁ……』
「番う…って…
いやいや、この先どうなるかなんてわからないよ。私もまだ自分の気持ちに気づいたばかりだし、解呪のこともあるし…」
『そうか…
人は短命なのにまどろっこしいな』
…確かにそうだね。と苦笑いするしかない。
番と言う存在があり、長命なハクからすると理解できないことかもしれない。
しかし、いつも私のことを一番に考えてくれる。
『では、まずはマリーの気持ちをセージに伝える…ことからだろうか?』
「う、うん。そうだね。
…誠司さん、何時に帰ってくるかな?」
早く帰って来てほしいような、ほしくないような複雑な気持ちがモヤモヤとし始めた矢先、バリッという音と共に警告が目の前に現れた。
「ッ!一枚目の結界にヒビが…」
『ああ、…複数いるな。
手練れのようだが、壊すほどの力はない。
だが、目障りだ。脅かしに行くか』
「じゃ、私も。
修復しないといけないし…」
ローブを羽織り、フードを深く被るとハクの背に乗る。
[認識阻害]の結界を施してからは、この森の主をどうこうしようと目論む悪意ある人達は来れなくなったのに…
もしかして、目的は私じゃない…?
この森の特異薬草の採取や魔物狩りが目的なら結界も緩くなる。
とにかく現状の把握はしないといけない。
ヒビが入った場所に移動してる間にも結界への攻撃は続いているし。
結界で阻まれるということは、私に繋がる何かが危機的な状況にあるということだ。
私に繋がる何かなんて…
今、思い当たるのは……
現場に着いてまず見えたのは、顔を隠している黒装束の数名が結界を壊そうと攻撃しているところ。
そして、結界の内側すぐそばで倒れているのは……
「誠司さんっ!」
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