21話 薬の完成


『………。

…気にす……せいではないと……であろう』


「しかし、……………のに。

薬が……てる…でマリーが………なんて…」





少し離れたところで話し声が聞こえる。


(あれ?私、寝てる?

確か、誠司さんの薬を使ってて……完成させたよね??)


意識がだんだんとはっきりしてきて、重たい瞼を上げる。

見回すと、私の部屋のベッドに寝かされているようだ。


「……ハク?…誠司さん?」


話し声の主の2人に声をかける。

私の声を聞くなり、慌てた様子で2人は部屋へ入ってきた。


「マリー!大丈夫?

何処か具合が悪いとかはない?


ごめん…マリー…

俺の薬を作らせたばかりに……」


『誠司、まだ言うのか!

それは違うと言っているではないか!!

マリーは、自らの意思で調薬を行ったのだ。

それは、このようなことも起こりうると言うことも覚悟の上だ!

マリーの薬師としての覚悟を否定して、お主に強要されたような言い方、我は黙ってはいないぞ!!!』


私を見て青ざめてる誠司さんに、誠司さんの言葉にキレちゃって殺気出しまくりのハク…


なかなかカオス……

ここは私がしっかりしなければ…


「ハク。

殺気を治めなさい。

私の為に怒ってくれるのは嬉しいけれど、誠司さんはそんなつもりで言ったのではないわ。

あなただってそんなことわかってるでしょ?


……ごめんね、ハク。

あなたにも心配かけてしまったね」


手を伸ばすと、ハクが気遣わしげに近づき、私の手に擦り寄った。


「誠司さんも心配かけてしまってごめんなさい。

私の見通しが甘かった。

いつもより魔力の制御がしやすくて…

知らぬ間に魔力をたくさん使ってしまって体がびっくりしたみたい」


私は、苦笑いで謝る。


膨大な魔力量と最高峰の“赤”の魔力。

いつも魔力に抑制を掛け、使っても全体の40%ほどしか使っていなかった。

せっかく初代様に引けを取らない力を持っているのに、それを制御出来ない…

抑制をかけることで調薬は出来ているが、行き詰まりをずっと感じていた。

しかし、契約の効果のおかげで魔力を制御しやすくなり、抑制を全て解除して際限無く使ってしまった結果が体に負担が掛かってさっきまでの眠りだ。全身筋肉痛のような痛みと倦怠感がある。

使っていなかったものを急に使ったのだから障りがあるのは当たり前だ。


「…でも、初めて抑制無しの調薬は楽しかった」


ぽろりと本音が漏れた。

思い通りに魔力が制御でき、初代様の薬に近いものが作れた達成感からだ。

今の状態を維持したい!そう強く願ってしまう。しかし、この効果は契約が終了すると切れてしまうと思う。

では、どうしたらいいのか考えないと…




そんなことより薬!


「ねぇ、ハク?

私、薬はちゃんと作ってしまってたのよね?」


『ああ、そうだと思う』


ハクがセージと声を掛けると、はい。と誠司さんは薬瓶を差し出した。

手に置かれた薬瓶を確認する。

出来た直後、眠ってしまう前に確認したように青い液体の中にキラキラと光が見える。


(よかった、夢じゃなかった!)


そう言えば〔鑑定〕してなかったと思い出した。


     “薬神ダクリの導き s級”

  呪いの剥離と体の浄化を促す薬

※与える者の魔力を足すと親和性が高くなり効果が上がる

  薬神ダクリの加護により効果は折り紙付き



(……うん。そんな気がしてた。

勇者様に与える薬だものね。

薬神ダクリ様も力入っちゃうよね。

薬神ダクリ様、ご温情感謝致します)


薬神ダクリ様にお礼のお祈りして、誠司さんへ向き直った。


「誠司さん、この薬の中に誠司さんの魔力を入れてもらえませんか?

そうすると、効果が上がるみたいなんです。

こんな風に指先から落とす感じで……

あ、魔力制御は出来ます?」


指から“赤”い魔力をぽたりと落として見せていたが、その前にこの様な細かい魔力制御は普通は行わないのを思い出し、誠司さんに確認する。


「多少は出来るけど…

そんな繊細なのはしたことが無いかな。

マリーは、どんなイメージでしてるの?」


「私は、水の雫がぽたりと落ちるイメージです。

こんな風に…」


誠司さんの手に私の手を乗せて、誠司の指に私の魔力を流してぽたりと落としてみる。

魔力制御はイメージも大いに重要なのだ。


「どう?わかったかな?」


誠司さんを見ると……

自分の手を凝視して動かない。

誠司さん?と呼びかけると、ギギギギギと音がしそうな不自然な動きで私を見た。


「ごめん、…伝わらなかったかな?

私は、これで教わったんだけど…」


「……いや…、分かりやすかった。

ちょっと…びっくりしてしまって…ね」


ぎこちない笑み。

理解するのと実行するのはまた別問題だものね…

とりあえず、してみてとお願いすると、人差し指に意識を集中している。

初めは、水風船ほどの大きさの魔力の玉だった。これでもかなり凄いのだけれども、それをよりイメージを鮮明にして徐々に小さくしていく。


「針で指を刺した時のぷくっと出た血が、指を下にしたらぽたりと落ちるイメージではどう?」


このイメージで私がすると、なかなか魔力が落ちてこないのだけれど、初心者の誠司さんならこのくらいのイメージが上手くいくかもしれないと思い、そう伝えた。

すると、丁度いいくらいの魔力が落ちた。


「……出来た」


かなり集中していて額に薄っすら汗が浮かんでいた誠司さんは、汗を拭う。


「こんな短時間で出来るなんて凄い!

感覚を忘れないようにもう一度…


よし、大丈夫!

この薬の中に入れてください。

どのくらい入れるといいのかは分からないので、ゆっくりもういいと言うまでお願いします」


薬瓶の蓋を開け、魔力をぽたりぽたりと入れてもらう。

すると、誠司さんの魔力に入るたび淡い発光が起こり、何滴か入れた後、強めの発光が起こったのでストップをかけた。






 

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