支え

勝利だギューちゃん

第1話

「だめ、もう歩けない」

僕はその場に、しゃがみこんだ。


「もう、だらしないな。男の子でしょ?」

「僕は、デリケートなんだ」

「そんなことじゃ、世の中、わたっていけないぞ」

「やかましい」


ただでさえ、消耗した体力が、このやり取りでますます消費する。


そこへ、手が差し伸べられる。

喧嘩の相手の手。


優しく柔らかい。

そして、温かい。


女の子の手が・・・


「君は、まだ立ち上がれる・・・」


ガタンゴトン


「夢か・・・そろそろ着くな」


ローカル線に、僕は今乗っている。

車窓には、青い海が見える。


季節は冬に差しかかる。

誰もいない。


あっ、何人かいた。

地元の人だな。


この時期に、ここに来る観光客はいない。


今、僕がこの列車に乗っているのは、一通の手紙のせいだ。

同窓会の案内。


小学生のころまで、僕は今から向かう村に住んでいた。

海に面した田舎の村。

海の幸だけで有名な村。


ここに住んでいたのは、母の静養のため。

体を壊した母を静養するために、この村に住んでいた。


しかし、蛙の子は蛙なのか・・・

僕も病気がちだった。


ちなみに父は、調理師免許を持っていたので、板前として働いていた。


まあ、身の上話はいい。


母が静養していた隣に住んでいた女の子。

名前は・・・結城真矢。


ただ、とても勝気で男勝りだった。

髪はショートヘアーだった。


よく、僕にちょっかいを出していた。

遊びに連れ出された。


彼女なりの優しさだったとは思うが、小学生には理解が出来ない。

なので、鍛えられる前に、倒れると思っていた。


それでも彼女には、毎日連れ出された。


「他の男の子と遊んだほうがいいだろう?」

「みんな乱暴なんだもの」

「女の子の友達は?」

「いない」


断言していた。


で、それが小学校卒業まで続いたが、それと同時に母の状態もよくなり、

元の・・・今住んでいる街に引っ越しをした。


見送りの日。

彼女は来なかった。


クラス代表で、何人かが(義理で)見送りに来てくれた。

まあ、ありがたい。


で、それから10年。

僕も、晴れて社会人となった。


そこへ、同窓会のハガキが届いた。

クラスのではない。


あの女の子からの、案内のハガキ。


『ふたりだけの、同窓会をしましょう。あの時、見送りに行かなかった理由を話します』


正直、顔は覚えていない。

でも、あの温かな手のぬくもりは、覚えている。


そして、懐かしい駅に降り立った。

正直に言おう。


「全く、変わっていない」


10年も経てば、少しは発展するだろう。

でも、あの時のままだ。


バスもあまり来ない。


仕方なく歩き出した。

待ち合わせの場所は、学校ではなく彼女の家。


僕は方向音痴だが、この村は本当に何もない。

なので、駅を出てすぐに、彼女の家が見える。


迷うことはない。

そう、迷うことは・・・


ただ、体力が持たないと思う。

適度の休息は、何回がいる。


「だめだ。もう、歩けない」

僕は、しゃがみこんだ。


完全に退化しているな・・・


「もう、相変わらず、軟弱だね」

逆光で顔は見えない。


でも、懐かしい声。


変わらないショートヘアーだけは、わかった。


「デリケートと言ってくれ」

「そんなんじゃ。私を守れないよ」

「君は、守る必要ない」

「つれないな・・・でも、そういうところも好きなんだけどね」


手を差し伸べられる。

その手を握る。


あの時と同じように、優しく柔らかく、

そして・・・温かい。


あの時、君が見送りに来なかった理由は・・・

どうでも、よくなった。


「大丈夫。君はまだ、立ち上がれる。もし、だめなら、私が君を支える」






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支え 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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