こちらへおいで。
マフユフミ
第1話
それに気づいたのは、代わり映えのない月曜日。
また一週間が始まることへの軽い絶望感と、気だるい体を引きずって、少女は学校へと続く道を歩いていた。
薄曇りの朝。
週の初めからはっきりしない天気なんて本当についてないな、と少女は思う。
念のためにと自ら手にとった傘さえ、歩いているうちにひどく邪魔に思えるのだからどうしようもない。こんな日は、些細なことでも苛立ちのもとになってしまうものだ、と諦めにも似た気持ちで少女は周囲を見やる。
周りを歩く学生たちを見て、少女は軽くため息をついた。相変わらず気だるいのが半分、少しほっとしたのが半分。
みんな同じようなものなのだろう。集団で笑い合う生徒たちもいるにはいるものの、大多数はうつむき加減で足早に学校へと向かっている。
そうなのだ。何を言ったところで、みんなが一様にダルいと思っている月曜日は必ず来るし、毎日毎日晴れの日ばかりではない。
グダグダと考えたところで、今日がすっきりした天気でもなく、それでも学校には行かなければならないという事実は変わらないのだ。
駄々っ子でもあるまいし、そろそろ気持ちを切り替えよう。少女はそう考えると、改めて足を進めようとした。
そのとき。
「…んっ?」
なんとなく気配を感じて振り返った少女が見たのは、電柱の陰で柔らかく微笑む男の姿。
見たこともない男は、なんの変哲もない地味な濃いグレーのスーツに黒の革靴という出で立ちで立っていた。
そんなどこにでもあるサラリーマンの風体なのに、なぜか気にかかる。
少女は、自分が男に興味を抱いたことを気取られないようそっと、それでもしっかりと男の姿を目に焼き付ける。
「なんなの?あの人…」
見れば見るほど違和感でしかない。
その道は、決められた通学路ではあるものの、細くてどことなく薄暗い、住宅街の裏側にある道だ。
ほかに何があるわけではないその道を利用するのは、同じ学校の生徒しか考えられない。スーツ姿の大人がいるとすれば、きっとその学校の教師や職員だろうが、しかしその男には全く見覚えはなかった。
立ち尽くす、明らかに学校と関係のない男性の存在、客観的に見て非常に異質だった。
「なんか、気味悪いな」
ただ微笑む人に対してどうにも失礼な感想だとは思うが、正直な気持ちだから仕方ない。
少女はそっと目をそらし、重く晴れない気持ちのまま学校へと足を向けた。
そのとき。
「ねぇ、」
不意に少女の耳に飛び込んできたのは、低いわりによく通る、男性の声。
まさかと思い、振り返ることなく足を進める少女の耳を、どこからともなく温かな風が掠めていく。
「ねぇ、」
不思議とその声は、少女以外誰の耳にも届いていないようだった。
たまらず振り返った少女が見たのは、こちらを見つめる地味な男の姿。
これまでどこを見て微笑んでいたのか分からなかったその目が、確実に少女を捉えている。
そして、柔く上がっていた口角ははっきりと動いた。
「こ、ち、ら、へ、お、い、で」
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