セーラーの襟
伴美砂都
セーラーの襟
中学からの帰り道は、背丈ほどもある雑草がわさわさと生い茂る狭い土手の道だった。なぜか帰りだけその道を通った。同じ美術部だった絵理と、帰るのがその道だったのだ。幽霊部員ばかりの美術部で、せっせと部活に通っていた。
コートもマフラーも手袋も、校則で十二月からと決められていた。寒風の吹き始める十一月、それでも私たちは、寒さも理不尽も笑い飛ばすだけの熱量をもっていた。それが若さだということに、大人になってから気付く。
「ひゃ」
すぐ後ろを歩いていた絵理が突然、タタッと足音を響かせたと思うと、私のセーラーの襟と背中の間に、さっと手を突っ込んだ。背の低い絵理は私の背後で少し背伸びするような格好になる。制服のカサカサした布越しに、ムギュッと肩を掴まれる感触。
「なにすんだ」
「ここに手入れるとあったかいんだよ、知ってる?」
なんじゃそりゃ、と今度は私が絵理のセーラーの襟を狙い、やだあ、とぐるぐる回って笑っているうち、どちらの指先もぽかぽかと温かくなっていた。
ひさしぶりに会った絵理はワイン色のVネックを着ていて、あのころのセーラー服ではない。もちろん、私も。あの土手はもう草も刈られて、新しい家が建ち、時代とともに校則も変わったのか、道を歩く中学生はもう色とりどりのマフラーをしたり、パーカーを羽織ったりしてそれぞれ行く。
そちらを見るともなく見ていると、信号待ちで車がとまった。運転席の絵理がぱっとこちらを向き、言った。
「ね、あのころさ、セーラーの襟のさ、」
セーラーの襟 伴美砂都 @misatovan
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