クラスタ潜入捜査
篠浦 知螺
第1話 辞令
栞を挟んだ作品 285作品
お気に入り登録したユーザー 528人
お気に入り登録してくれたユーザー 483人
公開した小説 2作品(合計約14万字)
栞を挟んでくれたユーザー 合計962人
獲得した星の数 合計2871個
SNSで友人登録してくれた人 544人
SNSで友人登録した人 618人
ダイレクトチャットのスクショ枚数 4000枚以上
これが、この半年間に小説投稿サイト・リード&ライト関連で活動した成果だ。
全てをまとめて報告書を作っていると、SNSのスマホアプリの通知が鳴った。
『最後の一押し、評価とレビューをお願いします。今日中にヨロシク!』
評価アップの期待に胸を躍らせている文面に、苦笑いが浮かんでしまう。
「はいはい、評価入れてやるよ……どうせ、お前ら全員アカウントごとBANされるけどな……」
今から半年ほど前、丸山出版グループのライトノベルレーベルで編集者をやっていた俺の所へ出向の辞令が届いた。
その出向先が小説投稿サイト・リード&ライトだった。
リード&ライトは、WEB小説の流行に目をつけた丸山出版グループが、6年前に開設した小説投稿サイトで、会員数も投稿された作品数も順調な伸びを示している。
出版社とタイアップしたコンテストも行われていて、俺が所属していたレーベルも参加していた。
そうした関係で、てっきりコンテスト関連の仕事をさせられるのかと思っていたのだが、待っていたのは全く別の仕事だった。
「クラスタ潜入捜査……ですか?」
「山田君は投稿サイトに小説を掲載したりコンテストに応募してたんだよね。その腕を見込んでお願いしたい」
「確かに小説は書いてましたが、二次選考突破が最高成績で出版には至ってませんよ」
「何も書籍化するような素晴らしい作品を書いてほしい訳じゃないんだ。むしろ箸にも棒にも掛からない駄文を書いてもらいたい」
「駄文……ですか」
クラスタとは集団という意味だが、ネット小説界隈では評価やポイントの不正な操作を行う集団を指す場合が多い。
運営部の課長、児島正蔵の話によれば、リード&ライトでも不正な評価が横行して、ランキングに悪影響が出ているそうだ。
仲間内で互いに評価を入れ合って、新作をランキングの上位に送り込む打ち上げ工作などを行っているらしい。
「通常のランキングに関しても困っているけど、それでもまだ影響は限定的だ。問題はコンテストなんだよ」
「あぁ、ユーザー選考システムですね?」
「そういう事。ユーザー選考を行うコンテストで、上位の作品が軒並み相互にポイントを入れ合っている作品になってしまうと、クズみたいな作品を最終選考に通さなきゃいけなくなっちゃうからね」
「クズみたいって……さすがに言い過ぎじゃないですか?」
「まぁ、それは読んでもらえれば分かると思うよ」
クラスタの存在はコンテストの参加者を始めとしてリード&ライトのユーザーからは酷く嫌われているし、コンテストに参加しているレーベルの担当者からも対策を求められているそうだ。
「それで、俺は何をすれば良いんですか?」
「1人のユーザーとして小説を投稿して、SNSなどを通じてクラスタのメンバーと接触し、規約違反の証拠を掴んでもらいたい」
「証拠と言うと?」
「SNSのダイレクトチャットなどを使って評価依頼を行った画面のスクリーンショットなどだね」
「証拠固めなんかせずに、アカウント停止すれば良いんじゃないですか?」
「いやぁ、そうもいかないんだよ。昨年から始めたプライズ制度の関係で、お金が絡んじゃうからね」
「あぁ、あの広告収入の分配制度ですか」
「勿論、規約違反があればプライズも没収と規約に定めてあるから、アカウントを停止して没収すること自体に問題は無いんだけど……」
「根拠となる証拠を残しておく必要がある……ってことですね?」
「そういう事だ」
かくして俺は、1ユーザーのフリをしてリード&ライトに小説を投稿して、相互クラスタへの潜入を試みることとなった。
期限は、毎年12月から開催されているリード&ライト小説大賞の応募期間終了まで。
その後、一週間ほど継続されるユーザー選考期間が終了すると同時に、クラスタに関わった全員を一斉にアカウント停止、当然コンテストの選考からも除外する。
リード&ライトとして、大鉈を振るう措置だ。
ターゲットは、リード&ライトで最大と目されている
野々坂わたりを中心としたクラスタは、末端の構成員まで含めると数百人規模とも言われていて、ここ数年リード&ライト小説大賞の各部門のユーザー選考で、上位に作品を送り込んでいる。
資料として渡されたURLを辿って、そうした作品のいくつかを読んでみたが、正直に言って魅力に乏しい作品ばかりだ。
編集者視線で読んでみても、とても書籍化の声を掛けようとは思えない。
確かに、こうした作品ばかりがユーザー選考の上位に並んでしまうと、小説賞のレベル自体が疑われてしまうだろう。
本来、もっと評価されるべき作品が沈み、児島いわくクズみたいな作品ばかりが次の選考に残ってしまうようでは、小説賞としての役目を果たせない。
「てか、ユーザー選考なんか止めちまえば良いのに……って訳にも行かないだろうな」
ユーザー選考を行う目的としては、サイトとしてコンテストを盛り上げ、同じサイトから書籍化する作品を応援してやろう、本を買ってやろう……という気になってもらうためという話だが、効果のほどは疑問だし実際の選考はもっとシビアだ。
出版業界では、小説投稿サイト経由の作品の出版ブームが起こっている……というか続いている。
近年は、そうした小説を基にしたコミカライズもブームで、自社でWEBコミックサイトを開設してコミカライズに力を入れている出版社も増えている。
実際、俺が在籍していたレーベルでも、投稿サイトで高ポイントを獲得している作品には、複数巻の刊行とコミカライズの確約をする場合もあった。
だが、そうした状況がいつまで続くかは分からないし、現時点でも下降線を辿り始めていると考える者は少なくない。
コンテストでは、売れると感じる作品を選びたいと出版社が考えるのは当然だ。
これはと思う作品を見つけても、編集会議を通過しなければ受賞には至らない。
同レベルの作品があれば、書籍化実績のある作者の作品を、他の小説サイトでもポイントを稼いでいる作品……となりがちだ。
だからといって、突き抜けるために評価の融通や依頼が許される訳ではない。
「不正をしても、つまらない作品は選ばれないし、面白い作品は、何もしなくたっていずれ芽を出すもんなんだけどなぁ……」
自分の行動が、どれほどの効果をもたらすか疑問に思いつつも、俺は潜入の準備を進めた。
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