10月29日の帰り道にあったこと
大川黒目
黒い羊
夕暮れの空に黒い三角形があった。
目を凝らすとそれは黒色の羊の群れで、その羊たちは一様に首から先の部分が胴の側に裏返って落ちくぼんでいた。
その羊たちはぷかぷかと宙に浮かび、まるで雁の群れのように三角形を作っていた。
私はその三角形に猛烈に腹が立った。羊たちの顔は胴の側にくぼんでいるので下からは見えない。しかしあの三角形は私のことをひどく莫迦にしているに違いないと確信した。
あの三角形はそう言う三角形だ。莫迦にしやがって、莫迦にしやがって。
私は胸のうちでそう呟きながら道を歩いた。
ふと、私は辺りを歩いている人間の顔が一様に後頭部の側に裏返って落ちくぼんでいるのに気が付いた。
わたしは、ああ、そういうものだったかなあと思い人々の顔面を眺めた。
人々の顔はまるでお面を裏側から見ているようだった。椀状の眼球の真ん中についた黒い瞳孔は、どこを見ているのか、何も見えていないのか定かでない。
しかし、その丸く窪んだ眼はどの角度からもこちらを凝視しているようで心地が悪い。
私は周囲から注ぎ込まれる視線の波に耐え切れず、俯いた。するとそこには、黒い羊の身体があった。
私は自分が一匹の顔の裏返った黒い羊であることに気が付いた。
私は顔を上げた。薄墨の空に辛うじて黒い三角形が見えた。
私はあの中に行くべきなのだろう。しかし、いまだあの三角形が私を莫迦にしているという思いは消えていなかった。
どうしたものか。どうしたものか。
私はアスファルトで空回る蹄を削りながら、胸のうちでそう呟いた。
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