第25話 それでも俺はってやつ

「さて行きますか。」


やって参りました昼休みです、私こと津原は戦場に向かうであります。


「で?どこに行くんだ津原。」


「図書室だ。」


「図書室……そういえばあったな。」


「そんな感じで誰も使わない場所、つまりうってつけなのさ。」


「しかし平気なのか、一応学校の管理している一角だろう。」

 

「そこは図書委員様の力を借りるわけ。」


いまいちピンときてない華狼を連れ、目指す安息の地。昨日の出来事を報告するだけなのに、どうしてこうも緊張するのだろうか。

特に邪魔もなくたどり着く図書室、事前に客がいることは伝えてあるから平気だろうが。


「ちわっす。」


「お邪魔する。」


「おお進士!とそっちが証人さんか!」


「急な呼び出しに答えてくれて、感謝する。」


[あんた友達いたんだ。]


「っせえな。」


華狼が何独り言を、と見てくるので朱音からのメッセージを見せる。


「それじゃ軽く紹介する。こいつは昨日同じ班になった華狼颯岔、現場は見てないが一部を目撃してる。」


「華狼颯岔だ。津原からは昨日の事を話してほしいと、頼まれて此処に来ている。初対面だがよろしく頼む。」


「俺は角戸才太!進士とは中学からの付き合いだ!よろしく!」


「佐熊高志だ、同じく中学からの付き合いになる。」


[前嶋朱音。]


「朱音は基本メッセでやり取り、話すのが疲れるらしいぞ。」


「そ、そうか。」


軽く紹介を終わらせ、1つの机に椅子を持ち合い座る。さてここからが本番だなぁ。


「んで、昨日の事だよな。」


「もちろん!それ聞かねえと寝れないっての!」


「それは嘘だろ才太、さっき授業中寝ていたぞ。」


[さっさと言え。]


「なあ津原よ、何か罪を犯したのか?」


「雰囲気は分かるがちげえよ。」


朱音のメッセージを見せるため、スマホは机に隣に華狼。向こう側に3人が座り、こちらをじっと見ている格好になる。


「それじゃあ話しますかね。華狼も橘さんがどんな感じだったかとか、俺が逃げた後の様子とか話してくれ。」


「了解した。」


そうして俺は語り出す。自由時間の開始と共に走り出したあの日を、甘味に溺れ全てを忘れたかったあの日を……そこまで壮大じゃないですねはい。

途中華狼からの援護もありながら、逃げた先で見つかり二人きりになり。そこで謝罪ともう一度の提案、浅原ともあい精算の話をしたと。あれ?まとめると短いな。


「自分と分かれた後、そんなことになっていたのか。」


「橘さんも反省してるんだな!」


[あいつが謝るなんて、槍でも降るんじゃないの。]


「つまり進士。嫌だった二人から謝罪をされ、少しは浮かばれたという事か。」


「浮かばれる……?別に俺、今回の件で特に心動いてないけど。」


「「「[ん?]」」」


「え。」

 

なんだ意外そうな顔するな。それとも何か、これで俺は幸せになるだけ!みたいなENDになるとでも。


「まずスピーカーだけど、別に許した訳じゃねえよ。言ったろ?精算だ。一旦0にしただけ、あいつへの心情は何も変わってねえよ。」


「0になった……そうか!良かったな!」


「脳死で返事するな才太。」


「津原よ、その0はどういう数字だ。」


「0は0、何もない。好きも嫌いも何もない他人だ。正直あいつに毎日絡まれるのも嫌だし、これからずっと嫌な奴だと頭にいるのも嫌だったからな。」


[ただの他人ね。]


「これまでのあいつを考えるなら、うるせえ嫌な奴。俺の幸せの妨害者でうるせえ。考えるだけで腹が立つしうるせえ、でもそれを全部0にする。」


難しい話……になるかもな。目の前の奴らに伝わるよう言ってみるが、1でも関わりや思いがあるからイラつくし嫌になる。もちろん0なんて簡単じゃないさ。


「正直口で言っただけで、まだ時間はかかるがな。でも昨日口にした事で、やれそうな気がしてるんだ。あいつと俺は0、なんでもない赤の他人をスタートしただけ。」


「なんか賢い事言ってるな!」


「だが進士、それは許すと違うのか?」


「許すってのは相手を受け入れて、これからもよろしくって感じじゃね?俺はあいつを許さない、だから思うとこは飲み込んで他人に戻るって訳。許す事は今の俺にゃできねえよ、俺ってば大人だ。」


「それほど遺恨があるのだな。」


[じゃあこれからどうすんの。]


「そりゃ他人だ。まあ同じ学校のよしみ、話しかけられたら反応はするさ、用事があれば話すさ。そんで卒業の時に、あーあんな奴いたなって思えるのがゴール。」


初めまして浅原さん、と初期化したもんだ。これまでの事は忘れちゃいないが、橘さんありきの浅原って見方は止めた。浅原真祐美って奴がいるって認識だな。


「俺は応援するぜ進士!」


「才太……本当に分かってるんだろうな。」


「まあ浅原さんとやらは、津原の中ではもはやどうでもいい存在になった。これで合っているか?」


「そうなるのかぁ。まあ顔を会わせて即喧嘩、にはならないだろうな。向こうは知らんが俺はもう、あいつとの関係は0だ。親しくもなきゃ不快でもない。ただ同年代とすれ違ったなくらい……か。」


[あんた言うは易く、行うは難しよ。できんの?]


「そもそも橘さんとセットだからな。昨日橘さんとは話しつけたし、遭遇率もぐっと減るだろ。んで会わない日数が薄れさせて、気づけばできてると思う。」


「そうかそうか!お前ならできるぞ!」


「はぁ……こいつ。で?橘さんは許したのか。」


「なんで。」


[謝られたんでしょ?これまでごめんって。]

 

「涙を流した様子だった、それほど本気の謝罪だったろうに。」


「いや何も響かなかったよ。そもそも橘さんは、俺が何が嫌だったのか分かってないみたいだし。」


「それはあれだろ!二人きりになれなかった奴!」


「それって浅原が悪いじゃん。」


「色々と比べられて疲れた件か。」

 

「それ浅原。」


[お互いの家を知らないって奴。]


「浅原なんよなぁ。」


「お、おいどういう事だ?全部その浅原さんなら、津原は橘さんの何が嫌だったんだ。」


「確かに橘さんは謝ってた。でも謝るってもふわふわだったぜ?これからはこうしたい、嫌な気持ちにさせてごめん。傷つけてごめんって何が悪いのか、そこが見えなかった。」


「んー!てことはあれか!とりあえず謝ろうと!」


「そうではないだろう。橘さんも色々考え、確かに悪いと思って謝っていたはずだ。」


[何が気にくわなかったの。]


「思うに津原、大事なのは何を謝るかなのか。」


「謝るってことは、自分が何をしてそれで相手がどうなったか。全部分かってる状態でやっと、謝れると思うんだ。」

 

考えたもみろ。怒ってるから謝ろうなんて、そんなの謝られても嬉しくない。何故怒ってるのかを理解して謝る方が、とても大事だと俺は思う。

そんで今回の橘さんは確かに反省とか後悔とか、やっちまったなあを分かってた。でも一番の芯は、俺が何を嫌だったのか。


浅原にも一因あるが、橘さんが気付かないとって部分が俺にはある。

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