鬱々教師と死にたいJK

安部乃刈菜

鬱々教師と日常①

 藤島周吾、27歳。独身、彼女なし。

 職業、公立高校教諭、国語。


 特性①。


 鬱傾向◎


 授業6分の5。すなわち、6時間のコマの内実施授業が5コマ詰まっている状態。

 一時間しか休憩場所がない。しかも6時間目、つまり1から5までぶっ続け。

 辛い。きちい、きびい。

 そう思いながら階段を上る。二階の職員室から四階の一年生教室まで。歩くのが速いせいで元気に見えるらしい、俺。


 笑える。


 教室に入る。


「はーい、始めまーす」


 こう声を掛けてやっと教科書とノートを取りに行く。まあそういうレベルの勤務校で、いわゆる受け皿とか、底辺校とかいうやつ。だいたい就職か専門学校か、みたいな。不良はいないけど髪は気付かないうちに染まってたり、ピアスは隠れて開いてたり。スカート短くて怒られて、直して2分後にすぐ上げる、ネクタイはだるだるに着けるから巻きネクじゃなくワンタッチ式で、でもそれをバラして連結して巻きネク錬金する、みたいな。

 2分して生徒が席に揃う。黙るまで待つ。


「よし、挨拶」

「起立、礼」

「はい、お願いします。出席取ります」


 名前呼んで、出席取って、次は毎回やる漢字の小テスト。


「はい、小テストやるから、直前確認3分」


 3分間の直前確認時間の指示。ここまでルーティーン、自由意思の入り込まない業務。

 そこから解放されて、俺、俺としての第一声。


「もう帰りたい……」


「藤島せんせー、まだ1時間目だよ?」


 廊下側先頭の女子生徒に苦笑される。お前は偉い、これから6時間も授業を受けるっていうのにその前向きな余裕。確実に俺より教師に向いている。今すぐ交代した方がいい。


「いや、帰れなくてもいい。ここにトラックが突然突っ込んできて、冷酷無比な絶対的な力で否応なく人生が終わるなら、それでも全然いい」

「ここ四階だから」

「四階にトラックが突っ込んではいけないという法はない」


 もう、なんて言ったらいいのかという表情の生徒。そうだ、これが大人の姿だ、社会のゴミだ。まさに反面教師。俺のようになるんじゃない。

 こんな生きる気力の欠片も無いクズには……


「あ、せんせーチョコあげるから、頑張りな」


 そう言って、女子生徒が鞄からチョコレートを一個くれる。


「そんな、授業中に食べ物を食べるなんてルールいはん……」


 そう言いながら素早く取って口に放り込む。

 ……あ、中がとろっとしてる。舌触りなめらか、これ、ちょっといいヤツ……


「美味しい!」

「それはよかったね、せんせー」

「この一時間は頑張れる気がする」

「はいはい」

「ありがとう、この恩は二時間くらい忘れない」

「ニワトリなの?」


 特性②


 食べ物に弱い。

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