第46話 レグリア王国術戦部隊ミドガルズ 4

氷弾フリーズバレッド


 空中がキラキラと光ったと思ったら、時間差で何かが放たれた。名前の通り、氷の弾だ。

 至るところからランダムに出現して予測不能な射撃が開始された。放たれるタイミングや場所も違えば、速度も違う。

しかもこのカウローという人、転移層を突破しようとしてる。私の目の前に氷の弾を出現させたからだ。なるほど、外からじゃなくて内側という発想か。


「当たらない……?」

「考えましたね。しかしダメです」

「ダメだと? 並みの魔術師ならば氷速弾≪フリーズバレッド≫一つで一人ずつ殺せる。的確に死角と急所をつくからだ。最大で百人以上は殺せると踏んでいる。だが何故……当たらない?」

「私が並みの魔術師ではないという事になりますね」

「弾が出現するのだ! しているのだ! それなのに……!」


 このカウローという人の魔術式は好きな場所に氷の弾を作り出すから、その時点では私の転移層に引っかからない。

 だけど、それが脅威となった段階で弾く。つまり作り出すだけなら成功して当然だった。


「うーん……。でも、少し改良が必要ですね。魔術式で目の前に攻撃できる物体を用意されてしまうのは困りものです」

「き、貴様、まさか私の魔術式を!?」

「あ、お構いなく」


 魔術式、再構築。その途端に、私の周囲に氷の弾が生成されなくなった。離れたところでは生成されているけど、今はこの範囲でいいか。


「何が起こった!」

「魔術式を作り変えました。あなたのおかげでまた一つ、成長できます」

「魔術式を、作り、変えた? そんな事が簡単に出来るわけがないだろう……」

「簡単ではありませんが出来ました」

「魔術式の書き換えや再構築はそれなりに時間や手間がかかる! 年月をかける場合もあるというのに、この場で出来るものか!」

「と言われましても……」


 カウローが取り乱し始めて、ついに宿全体を覆うように氷の弾を出現させる。

 あの無数の弾を見る限り、たった一人であれだけの魔術師を殺せるんだ。とてつもない。


「俺は無駄というやつが嫌いだ。馬鹿みたいに魔力を使い、馬鹿みたいな威力を出す。派手な演出をすれば強者になった気でいられる。単純すぎて反吐が出るよ。いいか、目標に対して必要なものはそれほどない。一人に対して氷の弾一つ、人間なんぞたったそれだけで殺せるのだ」

「そう仰りながら、この状況は?」

「必要最低限だッ!」


 そう言い切ったところで、無数の弾が宿を攻撃。ドーム状にかき消える弾の数々に対して、宿は静かに守られている。

 後はマーセルと同じだ。無駄が嫌いと言いながら自分もまた感情の激流に負けて押し流されてしまった。


「ありえん……ありえ、な、い……」


 カウローも魔力酔いで力尽きる。さすがにコキュートス隊の人達も動揺してきた。

 何より一番、冷や汗をかいて頭をかきむしっているのがライズという人だ。


「ライズ! 奴の魔術式の解析は済んだか!」

「ダメだ、何だこれは……わからない、見た事もない……」

「ライズ!?」

「魔術の基礎から始まる膨大な式……これは魔術なのか? 魔術ではないのか! 魔術だろう!」


 あの人の場合、解析がメインの魔術式かな。エバインに胸倉を掴まれて揺さぶられるものの、すでに心ここにあらず。ブツブツと何かを呟きながら、意思疎通すら取れなくなっていた。


「わからないわからないわからない微粒子から受け取った極小の情報を統合して結果を出すのが私の魔術式であるからに解析が進まぬのは微粒子そのものに干渉できず」

「ライズ、いい加減にしろッ!」

「解析が不可能であるからにして魔術式にあらずといったあらましで原因は幼少の頃に告白してあの子に振られて以来の傷が魔術の不安定さに影響を」


 エバインに掴まれたまま、ライズはガクンと頭を後ろ倒しにして気を失った。

 そんな部下の異常事態だというのに、エバインは容赦なく突き放す。


「ふざけるなよ、お前達! それでもミドガルズか! このような様だから、ヴァンフレムとかいう小僧にでかい顔をされるのだッ! 次、ケベスッ!」

「お、オレですか!?」

「なんだ、怖気づいたのか?」

「お、お、恐れながら申し上げます! あの少女は未知数です! あれほどの使い手でありながら無名という点も考慮して、撤退を提案します!」

「コキュートスを指揮しているのは私だ。平民上がりにしては、と評価してみればこれか」


 ケベスの足元から氷が這いあがるようにして腰まで覆い始める。頭まで凍りつくのに数秒とかからなかった。あの人も氷の魔術式か。それも部下の魔術師とはレベルが違う。

一連の流れを見て、我慢の限界がきてる。気がつけば私はエバインを睨みつけていた。


「……お前が優れた魔術師だと認めよう。だが、ミドガルズの頂点を知らんだろう? ここで部隊長を張るには一つ条件がある」


 エバインが両手を広げて、腕や腰に光の粒がまとわりつく。それが数を増して全身に巡った時、白く発光した。


「魔術真解……零世界の魔狼フェンリル


 エバインの体が本格的に変化を終えた時、そこには人じゃないものがいた。

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