ラストケース:全ての決着

1. ハイライト? あんなのは飾りです

 温泉街での一幕から一週間が経った。


 デューク兄さんにおみやげを渡し、父さんも俺の嫁が決まったからと、上機嫌で仕事へ行き、アモルとウェイクも元気に学校へ行くという日常が戻ってきた……ハズだった。



 「そうじゃないわアモル。脇を締めて突き出すのよ」


 「はい、お母様!」


 庭では学校から戻ったアモルが母さんに武道の稽古をつけてもらっていた。俺は後から知ったのだが、セルナさんの宿がめちゃくちゃになっていたのはゴロツキが騒いだだけでなく、父さんと母さんが成敗した爪痕でもあったらしい……。


 父さんは剣術の腕前がマスタークラス。母さんに至っては『武王』の称号を持つ最高峰の武闘家だった。アモルとウェイクがそれを見ていて、特にアモルが感動してせがんだ、という訳である。


 「すぐ飽きると思ったんだけどなあ」


 「どうしたウェイク、寂しいのか?」


 「うーん、クリス兄さん命! って時は振り回されてうざいって思ってたけど、いざ無くなると結構寂しいもんだね」


 正直な弟である。


 ウェイクもそうだけど、家族全員が俺を転生者と知っても特に変化が無いのもありがたいことだった。今の会話の通り、ぎくしゃくした感じは一切ない。


 「アモルも母さんの血を引いてるからな……案外最強になったりしてな……」


 「笑えないよそれ……あ、そうだ。セルナさんから手紙が届いていたから渡しておくね。はあ、暇だな……僕も父さんかデューク兄さんに剣術でも習おうかな……」


 ウチは子供の意見を尊重してくれるので無理に剣を教えたり武術を教えたりはしないのだが、頼めば別で、現に母さんは嬉々としてアモルへ教え込んでいたりする。やっぱり子供が受け継いでくれるのは嬉しいんだろうな……。


 子供……子供か……俺も結婚したら作るんだろうな。オルコスのヤツも最近出てこないし、これなら寿命を全うするのはアリだ。セルナさんも知っているしな。


 俺が手紙の封を開けながら廊下を歩いていると、後ろから気配を感じた……。


 「今日もか……」


 ここ数日、クロミアとフィアが影からこそこそと俺をつけてきたりするのだ。フィアはすごい目つきで俺を見てくるので結構怖い。まあ刺された所で死なない訳だが、そもそも何でそうなっているのかが気になる。


 俺は部屋に入るフリをして扉の裏へ隠れると、足音を殺して近づく二人の気配がした。


 「(あの手紙、恐らくセルナからじゃろう……そろそろ迎えに行く時期かのう……)」


 「(多分……)(本当に結婚しちゃうんですかね……私、期待していたのに……)」


 「(あ、戻ったんじゃな)」


 ひそひそと何か話している二人が扉にピタッとくっついたと感じ、俺は勢いよく扉を開ける!


 「そおい!」


 「ひゃあ!?」


 「わ(なになに!? 急に何なの!?)」


 バタバタと倒れ込んでくる二人の前に、腕を組んで見下ろす。バツが悪そうな顔をしているフィアとむくれているクロミアが俺に顔を向けてくる。


 「どうした? 俺の部屋の前で何か用か?」


 するとクロミア、俺の背中に飛び乗ってきて耳元で叫んできた。その目はハイライトがなく濁っている。


 「お主! 死ぬ死ぬ言っておったから我慢しておったのに、結婚するとはどういうことじゃ! だったらわらわと子作りをしても良かろうに!」


 「な、何!?」


 さらにフィアが援護攻撃を仕掛けてくる。やはり目のハイライトは無く、濁っていた。怖いな!?


 「そ、そうです! あの時セルナさんは『大事な人じゃない』とか言っておきながら、即婚約。私、もて遊ばれました!」


 そう言えばそんな事を言った気がする。あの時は急いでたからあまり気にしなかったけど、フィアも俺の事が好きだとか言ってたな……。


 「お、落ち着け。俺もそのつもりは無かったんだけど、親父さんにも言われたし、どうせ結婚するなら転生者かなと思ってな……ほ、ほら! 例の発作、あれを理解してくれる人は貴重だから……」


 「わらわも気にせんぞ!」


 「私も小さい頃から一緒でしたから気にしませんよ!」


 むう、ああ言えばFor you……違った、こういう……しかしもう結婚することは決まっているし、二人の声を採用することはすでに不可能……。


 「残念だけど、もうセルナさんと結婚するのは決まっている。だから諦めてくれ」


 「……く、うう……ポッと出の女に取られるのかや……」


 ポッと出とか言うな、付き合いは確かにあの世から数えても短いが。


 「私は……私は……妾でもいいです!」


 何!? フィアがとんでもない事を言い出したぞ!? あれだろ愛人って感じのポジションだろそれ!?


 「ハッ!? そうか、クリスは貴族……妾の一人や二人……!」


 「待て待て!? そこまでして俺と一緒に居なくてもいいだろ? クロミアは可愛いし、フィアも美人だ。俺じゃなくても引く手あまただろう」


 「弱い男は嫌いじゃ」


 「あまり男性と話す機会が無かったから怖いです……」


 んもうこの子達は!?


 「……ふう、俺が許可しても父さんと母さん、何よりセルナさんが何て言うか……俺の前世の世界は一夫一妻だったから多分嫌がると思う」


 「クッ……ならセルナを殺してでも……」


 「そんなことしたらお前等を一生許さないぞ?」


 「それは嫌です!? ……分かりました……旦那様と奥様には私からお伝えします……」


 「わらわもそうする! 覚えておれよクリス!」


 バタン!


 クロミアがよくわからない捨て台詞を残し部屋から去っていく……まいったな、まさかあいつらがここまで執着してくるとは。


 「まあ、セルナさんからそれは嫌だ、と言われれば諦めもつくだろ……」


 俺は特に気にせず、セルナさんからの手紙を読む事にした。準備は出来たからいつでもいい、か。


 それじゃ、迎えに行きますかね!



 ◆ ◇ ◆



 <あの世>



 <クック……いいですよクリスさん……その調子で結婚を進めるのです。妾、良いじゃありませんか……子が多ければその分私に入る恩恵は多くなる上、クリスさんの子供なら発明が促進するのは目に見えています>


 オルコスは見ていたモニターから目を離し、ポイントで手に入れた豪華なベッドへと寝転がる。


 <今は大人しくしておきましょう、ここでうるさく声をかけて取りやめられても困りますからね……後は私もつがいを見つけねばなりませんね……なあに財産はあるのです……いくらでも……>


 目を瞑ったオルコスはすぐに眠りについた。すぐに幸せな夢を見ているに違いない……が、現実はそうはいかない。今までの報いがオルコスに振りかかる……その時期が迫っていることに彼はまだ気付かない……。



 ◆ ◇ ◆



 ついに最後の扉(結婚)を開いたクリス。


 クロミアとフィアは諦めるのか?


 そして、セルナが出した答えとは。


 次回『セルナ、恐ろしい決断を出す』


 ご期待ください。


 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。

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