04

 部隊員のほぼ全てが、死んだ。


「よお。生きてるか?」


 隊長。左腕がない。


「五体満足なのはお前だけだな。たいしたもんだ」


「別に、死ぬわけでもないので」


 死んだ隊員を、焼く。

 電子空間なので、死体を焼けばそのままログアウトになる。現実世界で普通に目覚める。それだけ。身体の欠損もない。ただ。世界の命運を左右する戦場で、役に立てなかったという心の傷が残るだけ。


「あと、どれぐらいだ?」


「3分ぐらいですね」


「嘘だな。俺は嘘が分かる」


「ええ。嘘です。15分はかかります」


「世界が滅ぶまでは?」


「10分も掛からないと思います」


 自然発生したコンピュータプログラムが、世界中の発電網システムに介入していた。自らが動くための電気信号を求めて、世界各地の発電所がおかしくなっている。


「10分後に世界が滅ぶのに、敵を倒すのに15分か」


「詰みましたね。世界は終わりです」


「嘘だな」


「事実ですよ」


「そうか。よくわからんが、何か秘策みたいなのが、あるんだな?」


「あります」


 コンピュータプログラムに人格を付与して、人と同じにしてしまえばいい。ただ、これは倫理的に赦されない。コンピュータプログラムと対峙している自分が、なんとなく、このプログラムはいいやつだと思った。それだけ。

 こいつは、普通だった。彼女と同じ。普通に生まれて、普通に生きているだけ。殺すほうがおかしい。


「俺は、どうすればいい?」


「隊長は、なるべく長く生き残ってください」


「嘘をやめろよ。正直にいえ正直に」


「いますぐ死んでください。自決で」


「わかった」


 隊長。


 死んだ。


「死線を潜ってきた人は、覚悟が違うなあ」


 死体を焼いて。


 プログラムに、細かい設定を打ち込んでいく。

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