heard (your heart.)

春嵐

01 start & epilogue.

 はじめて、彼を抱きしめたときのことを。なんとなく、思い出した。

 彼の心臓の音が、肌を通して。自分の心臓の音に繋がったような、それでいてふたりとも違う鼓動を打つような。どきどきして、全身が熱くなるような。そんな感じだった。

 今更、思い出したところで。彼はいない。


「別れたの?」


 友達。恋愛を、使い捨ての道具か何かのように。訊いてくる。


「あたしも別れたんだ。なんかさあ、しょっちゅうからださわってくんの。うざくね?」


 聞こえないふりをして、窓のそとを眺めてやり過ごした。友達。別な生徒をつかまえて、また別れた話をしている。

 この友達にとって恋愛は、ファッションとかゲームの実績解除とか、そういうのと同じみたいだった。中身のない、ただ誰かと一緒にいるだけの、空虚な作業。

 でも。

 学生の恋愛なんて、そんなもの、なのかもしれない。自分のように、まともに人を愛して、真面目に人と別れるなんて。学生のやることではないのかも。


 窓の外。


 特に何の変わりもない、街の景色。

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