第2話 私が勇者・・・? 違いますから!

 お屋敷から真っ直ぐ最初の目的地に到着しました。

 ドラゴンの生態と目的地のルート確認が必要です。冒険は冒険者ギルドに聞いて見るのが一番です。


 中に入ると当然ながらメイド服を着た方はおりません。見たこと無いような変顔をした、ゴツゴツした殿方がいますが気にしちゃいけません。真っ直ぐ受付カウンターに向かいます。


「ヴィラクート山の登り方とドラゴンについて教えてください」

「おいおい、譲ちゃんがあの山に登るのか? 怪我するだけだからやめとけ」

「お嬢様の命が危ないんです。教えてください」

「そうは言ってもよ。 譲ちゃんみたいに可愛らしい子には似合わない場所だぜ」

「似合う所を見せれば、教えていただけますか?」

「ああっ、いいぜ」


 部屋の中央の丸テーブルが空いている。そこに移動し、テーブル中央に肘を乗せる。


「私に勝ったらお酒を奢ります。さぁ、私と勝負する方はいませんか?」


 周囲が煩くなる。口笛のようなものも聞こえる。


「いやぁ、酒を奢ってくれるなんて気前がいいな?」


 体格が普通の殿方がテーブルに肘を乗せる。


「手がテーブルについたら負けです」

「いいぜ、ゴー」


 力を込めているようだが、圧は感じられない。

 にっこり微笑みながらゆっくり手を倒す。


「はい、次の方」

「俺が相手だ!」


 笑顔を張り付かせて、手を倒す。


「次」


 ギルド内の注目が一段と高まる。


「ガハハ、譲ちゃん俺と勝負だ」


 骨兜を被った、筋肉隆々の巨漢。

 横の面積は私の3倍近くある。


「よろしくお願い致します」


 私を倒そうと力を込めてくる。あっ、この人強い。


「ほう、これで倒れんか」

「あなたも強いですね」

「ガハハ、力比べなら負けんぞ」


 でも、私を倒す程ではないわね。

 身体を前傾姿勢にしてそのまま押し倒す。


「「ウォォォォ」」」


 周囲がざわめき立つ。


「譲ちゃん強いな!ワシの完敗だ」

「ええ、力だけなら自信あります。私が一番ってことでよいのかしら?」


 周囲を見渡す。異論はない。

 受付のおじさんも口をあんぐり開けている。


「ゴンザレスを倒すとはやるじゃねぇか。俺達もドラゴン退治に向かうんだ。一緒に来ないか?」

「はい、お願いします!」


 渡りに船とはこのことですね。

 何だか強そうだ冒険者に誘われちゃいましたよ。

 これで道案内であったり、ドラゴンの弱点について教えてもらえそうです。


「ガハハ、譲ちゃんよろしくな」

「あらあら、よろしくお願いしますね」

「よろしく」


 先程のゴンザレスさん、他、魔法使いの格好をしたお姉さんと、エルフの女の子から声をかけてもらった。


「よろしくお願いします!」


 お嬢様、私、必ず世界樹の葉をとってきます。


ーーーーー


 早速、冒険者の皆様とドラゴン退治に向かっております。

 パーティーリーダーのレオンさん。ハリネズミみたいに尖った髪の毛が特徴です。

 骨兜を被った、バーサーカーのゴンザレスさん。

 魔法使いのカリンさん。胸がとても豊かです。羨ましいです。

 精霊使いのペルラさん。親近感を覚える胸です。


 皆様とてもフレンドリーで、和気あいあいと向かっております。


「あの、ドラゴンってどんな生き物なんですか?」


 ドラゴンのいる山の麓に向けて移動中です。


「ん、一言で言えば最強のモンスターだな」

「どうして最強なんですか?」

「まず、図体がデカイ。俺達の10倍位はある。あの質量から振り回された攻撃を喰らえば、無事で済む人間はいない。しかも全身が固い鱗に覆われていて、生半可な攻撃は通らない。その上、防御が困難なブレスが吐けて、空を飛んで一方的に攻撃出来るんだ。そりゃ弱いわけねえよ」

「えっ、それどうやって勝つんですか?」

「人間には人間様の戦い方があるって話だよ」


 レオンさんが歩みを止めると岩に剣が刺さっている。

 神官の服を着た、おじいちゃんがいる。


「まずはドラゴンを狩るに相応しい武器の確保ってやつだ。 神官殿、勇者診断をさせてほしい」

「挑戦者はあなたですか」

「いや、別のものだ。2名頼みたい。骨兜とお譲ちゃんだ」

「分かりました、ではお代を頂戴しとうございます」


 小袋を神官に差し出し、懐に収める。


「じゃあ、ゴンザレス、任せたぞ」

「ガハハ、任されたぜ」


 腕をまくりながら岩の前へ向かう。


「あっ、あの、勇者選定ってなんですか?」

「あの剣が抜けたらそいつが勇者様ってことになるんだよ。後、抜けたら武器が貰える。俺達は武器が欲しくて挑戦してるわけだがな」

「私が言うのもなんですが、勇者ってもっとこう、厳かに決まるんじゃないのですか?」

「昔はそうだったらしいぜ。ただ、誰も抜けないから観光名所と化してるわけだ。まずはトップバッターのゴンザレスからだ」


「いくぞ。フンっっっっっ!!!」


 顔を真っ赤にして歯を食いしばっているが、ピクリともしない。プルプル身体が震えている。


「がぁぁぁ、駄目だぁ」

「いやぁ、残念でしたねぇ。またのご来場お待ちしております」


 ゴンザレスさんが膝をつき、肩で呼吸している。


「次、譲ちゃんの番だぜ?」

「ええっ!? 本当に私やるんですか?」

「俺の見立てじゃ、譲ちゃんならいけると思うんだがな。とりあえず試しにやってみな」

「失敗しても、知りませんよ」


 剣の前に立つと、無骨な柄が真っ先に目に止まる。剣はどういうわけか、しっかり岩に食い込んでいる。

 女神様、力をお貸しください。


「メイド服を着た挑戦者は初めてですな」

「私も剣を握るなんて初めてなんです」

「言い伝えによれば、この剣は持ち主を選ぶそうです。新の勇者は力を込めずに抜けるそうです。ささっ、まずはやってみなされ」


 言われるがままに、右手を柄に手を添え、少し引っ張ってみる。ビクリともしない。


「私、勇者じゃないみたいですね。力を込めないと抜けなそうです」

「いやはや残念ですな。では、力を入れてみたらどうなりますか?」


 柄を両手で握り引っ張る。ピクリとしない。

 重心を腰に下げる。力を込めて引っ張ると手応えがある。


「ええええぃぃぃ! あいたっ」


 抜けた。踏ん張りが効かなくなって尻もちついたけど抜けたよ!

 あんぐりと、仰天しながらこちらを見る神官様。


「ゆっ、勇者様の誕生じゃ」

「よっしゃ、ドラゴンスレイヤーゲットだぜ」

「予定通りね」

「まぁっ、すごいわぁ」


 レオンさんと、ペルラさんは、さも当然のように。

 カリンさんはニコニコしながらパチパチしている。

 剣の長さは私の身長程あり、長方形のような形をした重量感のある無骨な剣です。試しに剣をぶんぶん振り回してと、見た目に関して軽い手足のように使える剣です。


「あっ、あの、この剣はどうすればよいかですか」

「勿論、お前のもんだ。ドラゴン退治で使うからもっとけ。文句はないよな?神官様よ」

「えっ、ええ。もちろんですとも。 勇者様、お名前を聞かせていただけませんか」

「え? 私、勇者じゃないですよ。やだなぁ。 暫くこの剣使わせていただきますね。皆さん、さぁ、行きましょう!」


 話が面倒くさくなりそうなので、神官様のお話は聞かなかったことにする。

 手続きも緩かったし、断るのもきっと緩いはずだわ!

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