誰かの名前が呼ばれた日
織香
3月11日
その日は風もなく、暖かかったような気がします。当時私は二人目を妊娠中でつわりが
それは、いつもの日常でした。
「……揺れてる?」
それは体の芯を
最初は、いつもの小さな地震かなと思っていました。横になっていたからいち早く気付いたのでしょう、すぐに収まるだろうと私はまた目を
次の瞬間。
家全体が大きな
台所に洗い、重ねておいたお皿達が
それが音なのか、何なのかは今となっては思い出せません。
つわりなんか、もう一瞬でとんでいきましたね。
震源地を確認しようと
うちは天井が高いため、照明にプロペラがついているのです。それが左右に、まるでブランコのように揺れている。
私はそれを見て我に返りました。
これは、普通じゃない。
「外に出なきゃ……! 長女は!!」
住居は2階部分にありましたので、私はベランダに飛び出します。
うちはオール電化なので、ベランダにはエコキュートが置いてあります。それがまるでオモチャのようにカタンカタンと揺れていました。満タン(お風呂の
揺れがおさまるまで必死で、私よりも高く大きなエコキュートを押さえていました。倒れると危険なのに、その当時は離れるという判断は出来なかったんです。
ふと下の庭を見ると、夫の母が長女を
よかったと胸を撫で下ろした瞬間、『ドォン』という低い音と共に、また大きな揺れがやって来ました。余震、だったのでしょうか。
慌ててもう一度エコキュートを押さえながらも辺りを見渡すと、なんとも不思議な光景が目に飛び込んで来ます。
我が家は自営業。一階部分が作業場で、普通の
初めて見る光景に、呆然としながらもエコキュートを押さえていました。
屋根瓦って一枚いちまいが結構重いんですよ。それがまるでプラスチックの様に軽々と動いている。……とても異様な光景でした。
最初に響いた音の正体は、まわりの家の窓ガラス全てに地震の
私はその姿勢のまま、早く終わってと願っていました。
私は当時も今も、関東圏に在住しています。
いつか来ると言われていた関東大震災が、とうとう来てしまったのだとばかり思っていたのです。それくらい、私の住む地域は揺れました。
やがて揺れがおさまると、夫が2階に上がってきました。家族の顔を見ると、やっぱり安心するんですよね。
一人じゃなくてよかったなぁ、と。
「エコキュートから離れなきゃダメだよ、危ないでしょ。あなた妊娠中なんだから」
「はっ! ……それもそうね」
お互いの無事をからかいで済ませることが出きることが、これ程幸せなのを知ったのは、その後すぐでした。
夫の次の言葉を聞き、私は一気に血の気が引いたのです。
「震源地は東北らしい」
私の母の実家が、福島県いわき市。
海の近くだったのです。
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