~可憐! 不思議なダンジョンRTA~

 黄金城から順番に決められたルートを通って。

 あたし達は不思議なダンジョンの入口、存在しないはずの路までやってきた。

 日出ずる区画。

 本来なら大勢の冒険者や商人で賑わっているはずなのに、周囲に人影はなく、静か。

 すでにこの場所は不思議なダンジョンの中とも言える状況だった。


「さぁ、手を繋ぎましょう」

「はーい」

「了解でござる」


 ハグれたら大変なことになるので、ルビーを真ん中にしてあたし達は手を繋ぐ。あたしは左手をルビーと繋いだ。シュユちゃんは右手を繋いでる。あたしと違って、シュユちゃんは左右どっちでも普通に使えるので、すごい。

 ルビーは両手がふさがってても戦えるので真ん中だ。


「では、参りましょう」

「しゅっぱーつ」

「おーでござる」


 少しだけ小走りになって、あたし達は普段なら存在しない路へ駆け込んだ。

 ずっとまっすぐに続く小径のような、家と家の間を通るような道を走っていくと、すぐに様子が変わっていくのが分かった。

 でも、前に来た時とは明らかに違っている。


「こんなに道幅って狭くなかったよね?」


 前はもっと広がったはず。

 なのに今回は道幅が狭い気がする。


「そんな気もしますが、こんなものだったような気もしますが」

「パルちゃん、ルビーちゃん、さっそく敵でござる」


 あたし達の侵入を拒むみたいに、黒い人型の影が現れた。屋根の上にも何人か見える。

 初めて迷い込んだ時や探索の時とは違って、今回は明らかに黒い人型が出てくるのが早い。

 探索するぞ~、とか、調べるぞ~、じゃなくて。

 攻略するぞ! っていう意識に反応してるのかもしれない。

 エルフさんの姿も見えないし。

 そういう意識が関係しているっぽい。


「ルビー、お願い」

「もちろんです。師匠さんとセツナにお願いされましたもの」


 影には影を、なんて言いながらルビーは足元の影を伸ばすようにして広げていく。そのまま敵の足元から槍のように影を立体化させて、串刺しにしていった。

 一瞬にして周囲の人影が空中に持ち上げられるかのような光景になる。


「うわぁ……」


 周囲は一気にハリツケにされた人間の影ばっかりになっていった。


「地獄絵図でござるな……」


 シュユちゃんの言葉に、うんうん、とあたしはうなづく。

 ジゴ・クエズっていうのは良く知らないけど。

 でもきっと、ルビーの批判に決まっているんだから、うなづいてても間違いじゃない。


「ひどいことをおっしゃいますわね。皆さんのためにやっているのに。ほら、ニンジャ娘。左の屋根に新手ですわ。やっておしまいなさい」

「了解でござる」

「パル。ほら、右から来ましてよ。牽制を」

「はーい」


 ふたりで文句を言ったからなのか、ルビーはあたし達にも仕事を与えてくれる。

 走りながら片手を繋いだ状態でナイフを投擲する。

 でもでも、ちょっと投げにくくて威力に問題があるので……ここは初めての実践投入――必殺技を使ってみよう。


「えい!」


 と、投げた威力の弱いナイフが影人間に刺さる瞬間にマグを発動させる。


「アクティヴァーテ」


 途端にあたしの体は軽くなり、ナイフはググっと重くなって影人間へと刺さった。師匠に教えてもらった、インパクトの瞬間に威力をあげる、というやつ。

 あんまり使う場面がなかったけど、練習通りにできた。

 やったね!


「でも、ナイフが回収できないのがこのダンジョンの酷いところだよね」


 のんびり戦闘してたら、いくらでも影人間が集まってくる。一歩動けば、相手も一歩近づいてくるような感覚だ。

 ナイフなんか回収してたら、あっという間に取り囲まれてしまう。

 上方向――たとえば、屋根の上に逃げたりするのは不可能なので、逃げながら戦うしかない。


「では、これをお使いくださいなパル」

「……どれ?」


 ルビーがそう言ってきたけど、一向に『これ』を出してくれないのであたしは顔をしかめながら聞いた。


「すいません、どこから出していいか迷いまして。仕方がないので口でいいですか?」


 そう言いながら、おえ~、と口から真っ黒な投げナイフを出してきた。


「おふふぁふぃふふぁふぁい」

「やだ」

「わはははふぇふふぁふぇ」

「触るの嫌だもん」


 ごっくん、とルビーは黒ナイフを飲み込んだ。


「すごい……会話が成立してるでござる。何を言っていたのか分かるんでござるかパルちゃん。シュユは分からなかったでござる。なかよし度が足りてない気分でござるよ」

「そんなので落ち込まないでくださいます、ニンジャ小娘。一発でなかよしなる方法がありますわよ」

「どうやるんでござる?」

「ちゅー」

「シュユはルビー殿と一生なかよしになれなくても問題ないでござる。あ、手を離してもらっていいですか?」

「冗談ですわよ!? というか、せめて『ござる』を付けてくださいまし! 本気っぽくて傷つきますわよ!?」


 なんて言いつつも走っていくとマグの効果が戻ってくる。

 一気に体が重くなるのを耐えつつ、屋根から飛び掛かってくる小さな影人間をジャンプキックで撃退した。


「さっきの影ってハーフリングかな」

「どうでもいいですわ。はい、これ」


 ルビーは頭を振るようにして頭の髪の毛から黒ナイフを出す。逆に、頭に刺さってるみたいに思えた。

 それを引き抜くようにして受け取ると、シュユちゃんにも同じように黒クナイを頭から渡した。


「最初っからこうすればいいのに」

「口から渡した方が、こう、がんばってる感じが伝わるかと思いまして……あ、見えましたわね黄金城」


 ルビーが視線で示す。

 どこをどう曲がってきたのか分からなくなってるけど、遠くに黄金城が見えた。


「方向が分かればこちらの物です。影を伸ばしますので一本道ですわ!」


 走っていく方向にびょーんってルビーの影が伸びていく。そのままあらゆる方向に曲がっていったりして、迷路をすべて探っているようだった。

 あたしとシュユちゃんは、ルート探索中のルビーの補助。

 迫ってくる影人間をルビーの頭から引き抜いた黒ナイフを投擲して、牽制しておく。

 ただ、頭から引き抜いても引き抜いても黒ナイフが出てくるのはちょっと面白いので、無駄に投げちゃった気がするけど、不思議なダンジョンのマップ攻略をしてくれてるルビーには申し訳ないので、黙ってよう。

 シュユちゃんも指と指の間に黒ナイフを三本もストックしてるし。

 でもそれ、カッコいいのであたしもやってみたい。


「む」


 意外と厚みがあるので指が痛い。

 なかなか持つの難しい……


「シュユちゃんどうやって持つの?」

「クナイは薄いからできるでござる。パルちゃんもクナイで投擲してみたらいいでござるよ」

「なるほど。ルビー、こっちもクナイで」

「分かりましたから頭叩かないで。ほれ」


 にょきってクナイが生えてくるのが面白い。


「なんでも生えてきそう」

「リクエストにはお応えできますわよ。ちなみにわたしのおススメはおちんち――」

「「ぜったい生やさないで!」」


 あたしとシュユちゃんの声が重なった。


「冗談です。わたしも上手く生やせられる気がしませんでした。観察が足りませんわね。経験値が欲しいです。夜のレベルアップが楽しみですわ」


 なにいってんの、こいつ。

 っていう感じでルビーを見た。

 嬉しそうに目を合わせてくるのが、なんかヤダ。

 スケベ!

 師匠のは絶対に観察させてあげないもん。


「はい、ルート検索終了です。寄り道の必要はなさそうですので、まっすぐ行きましょう」


 変なことは言ってたけど、ちゃんと仕事はしてたみたいで。

 ルビーは手を繋いだまま先導するように走る。

 それに追従する感じで、あっちこっち曲がったりしながら不思議なダンジョンを進んで行った。

 迷路もこうなったら意味がない感じ。

 ホントなら記憶が曖昧になるので、なかなかクリアできないはずの不思議なダンジョンを一気に駆け抜けていく。

 すると、人間の姿だったはずの敵が、段々と姿を変えてモンスターになっていった。見たことある影の形もあれば、ぜんぜん知らない形のモンスターもいる。

 ゴブリンとかコボルトとかはいなくて、ボガートとかオーガとかそういうのばっかり。

 それらをルビーが一撃で倒していきながら、走り続けると――なんかもうモンスターも容赦なくなってきた感じで大きくなっていく気がしないでもない。


「うわぁあぁ、なんだあれ!?」

「飛んでるでござるよ!?」


 もう良く分かんない正方形のダイスみたいなのが宙に浮きながらこっちに向かって光線を発射してきたのは、びっくりした。


「無敵バリアーですわ~!」


 なんか嬉しそうにルビーが目の前に影の盾を顕現してくれる。衝撃で物凄い音をさせながら、それでもルビーはあたし達を引っ張るように前へ走り続けた。


「とう!」


 飛んだ!?

 あたし達も無理やり引っ張られて飛んじゃう。


「乙女も三人寄れば重たいですわよキーック!」


 上から正方形を踏みつけるルビー。あたし達も強制的にキックさせられちゃう。

 ばきゃ、と割っちゃうように敵をやっつけた。

 着地すると、また引っ張られるように走るんだけど……


「シュユは重くないでござる」

「あたしも!」

「シュユっちは重くないことは承知しておりますが、おパルは重いでしょうに!」

「あ、あたしじゃないもん。マグが重いだけだもん!」

「その状態で師匠さんの上に乗っかって何度も、ぐふっ、という声をあげさせてるでしょうに」

「……愛が重いんだよ、愛が」


 そう答えたらルビーが鼻で笑った。


「なんで笑うのよー!」

「小娘らしい愛だったので、つい。大人の恋愛をなさい、大人の」

「大人の恋愛……どういうの?」

「それは決まってますわ。え~っと……その、ほれ、アレですわ、アレ」


 ぶふっ、とシュユちゃんが笑った。


「ルビーもお子様じゃん」

「ちがいますぅ、わたしは大人ですぅ。ぐっちょんぐっちょんのえっちなお付き合いをしてきました。あぁ、ステキでしたわ魔王さま。あの一夜の思い出は忘れられません」

「処女のくせに何言ってんの? じゃぁもう師匠じゃなくて魔王サマに処女あげてきたらいいじゃん。浮気だ浮気!」

「いーやーだー! 師匠さんがいーいー!」


 そんな子どものワガママみたいな声をあげながら、ルビーは上から降ってきた影ドラゴンに突撃していった。

 あたしとシュユちゃんの悲鳴なんて無視して、そのまま体当たりで突き抜ける。


「ふぅ。相手を油断させるケンカ作戦、成功ですわね」

「ルビーのバカ」

「ルビーちゃんの阿保」


 怖かったんだから、というあたしとシュユちゃんの声は無視して、ルビーは笑いました。

 楽しそうなのがムカつく。

 影ドラゴンを倒せば、前方に黄金城が見えてきた。

 周囲の様子も、日出ずる区のような建物じゃなくなって、普通の街みたいな様子になっている。でも、どことなく平面的で建物が壁みたいな感じられた。

 影の敵が途端に消え始め、静かになっていく。

 そのまま黄金城へ向かって走っていくと、大通りのような広さの空間に出た。道幅が急に広がったようになってるけど、すぐに壁のような建物で取り囲まれている。

 まるで四角く切り取られて、用意されたような空間だ。

 道のど真ん中に広場ができたみたい。

 その四角い道の先には、黄金城の門になっていた。

 でも。


「また来たのね。早く帰った方がいいわ。出られなくなるもの」


 その門の前には、エルフさんが待っていた。

 もうすでに敵対してたはずなのに、それでもいつものように帰ることを進めてくる。


「いいえ。鏡を頂きに参りました」

「そう」


 エルフさんはそう言うと、あたし達に敵対するような視線を向けてきた。


「魔法の鍵があれば、私を助けられるわ」

「そういうことですのね」


 何か分かったらしい。


「どういうこ――うわぁ、きた!?」


 答えを訪ねるヒマもなく。

 エルフさんが襲いかかってきた。

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