~卑劣! 黄金城地下ダンジョン7階・その2~ 2
パルのかわいい誘惑にメロメロになった俺は。
ダンジョンの中で結婚式を開くことにしました。
「一生一緒にいてくれ、パル」
「もちろんです、師匠!」
俺たちの冒険はハッピーエンドを迎えたのだった!
「なに馬鹿なこと言ってんだい。旦那、殴って目を覚まさせるのと永遠に眠らせておくの、どっちがいいと思う?」
「できれば殴らずに目を覚まさせてやってくれ」
というわけで、ナユタが殴りかかってきたので俺たちは逃げました。
「逃げ足の早い……いや、速いヤツだねぇ」
カカカと笑うナユタ。
こちらは勇者パーティの最前線でモンスターの攻撃を避け続けてきた実績がある。
そう簡単には当たらないと思ってもらいたい。
「ほらほら、アホなことはそのくらいにしておいて。さっさと先へ進みますわよ~」
いつもは率先してアホなことをしているルビーに言われてしまっては仕方がない。
というわけで、俺たちは大きな音のした方向へと進んだ。
「まぁ、十中八九あの壁だと思うが」
通路の先が行き止まりになっていた場所。
あそこが開いた音だとは思うが……決めつけるのもよろしくないので油断は禁物だ。
更には、罠が追加されている可能性もある。
ひとつ解除して油断しているところへ罠を重ねるのは効果的だ。
落とし穴を飛び越えた先に、床から槍が飛び出してくる罠とかね。
後ろへ避けたらアウト。
前へ飛び込むしかないが、前方にトドメの罠が仕掛けられていたら絶望しかない。
確実に相手を殺しに来ている罠なので、今のところ黄金城にはそのタイプの罠がないが……いよいよ人類未踏の階層が近づいてくる。
何が仕掛けられているか、分かったものじゃないので。
確実に進んで行きたいものだ。
「あ、見えてきましたわね」
行き止まりだった通路に入る。
真っ白なタイルの上をコツンコツンと靴音を鳴らしながら歩いて行くと通路の先に行き止まりが――無かった。
「開いているな」
壁が有った場所まで近づいてみると、壁一枚分の中途半端なタイルが床の一部にあるのを見て取れる。天井も同じように、壁の厚みの分だけの小さなタイルがあった。
どうやら天井方向に壁が収納されたらしい。
「これ、落ちてこないですか、師匠?」
「……確かに落ちてきそうだな」
通りがかった者を上から押し潰す罠。
ね、念のために床や壁に踏んだり触ったりしたらダメな部分を探っておく。
「よし、大丈夫だ」
たぶん。
「では、いざ人類種未踏の地へ。わたしが一番乗りですわ~」
おーっほっほっほ、とルビーは高笑いをあげながら壁の向こう側の地へと歩いた。
それを全員で見送る。
「あら、皆さま来ませんの――って、黙ってわたしを実験にしましたわね!?」
だって怖かったんだもん。
「ごめんなさい」
全員で謝った。
「許す」
寛大な吸血鬼さまの御心に感謝するしかない。
しかも笑顔で許してくださるので、ホント優しい。
「逆にアホに見えますよね、師匠」
「シーッ。聞こえちゃうだろ、パル」
「聞こえていますわよ、アホ師弟。他人の悪口はその人がいないところで言いなさいな」
「ルビーは人じゃないからオッケーだね」
「屁理屈を言うのは、このカワイイお口かしら! 歯を全部抜いて、師匠さんの遊び道具にしてさしあげてもよろしくってよ!」
「ごめんなさいっ! って、それどういうこと? 歯がいらないの?」
「お口に入れるのに歯が邪魔になりまして――あいたー!?」
純粋なお子様になんてことを教えようとしてるんですか、ルビー。
師匠は許しませんからね。
というわけで、思いっきり叩いておいた。
下品禁止。
反省してください。
「大丈夫そうだな」
俺たちが平気で壁の下でわちゃわちゃやってるのを見て、倭国組がこちらへと来る。壁が落ちてくる様子は無かったので、しっかりと固定されているようだ。
「騒がしくてすまん」
「いや、楽しくていいよ。拙者たちでは、こうも賑やかにならん。攻略が進むにつれ、どんどん気が滅入ってしまった可能性もある。エラント殿たちを呼んで正解だった」
そう言ってもらえれば助かる。
まぁ、実際にムードメーカーという存在は重要だ。
暗く神経まですり減らしてしまうような洞窟の奥で、殊更にぎやかに場の雰囲気を整えてくれる存在はありがたい。
マイナス思考をしていると、とことんマイナスで潰れてしまうようなヤツもいるしな。
ちなみに、勇者パーティでは戦士がムードメーカーだった。
勇者もプラス思考だったが、それ以上のプラス思考というかアホの楽天家とでも言うべきか。
俺が追放されるまで勇者パーティにいられたのも、もしかしたら戦士のおかげだったのかもしれないなぁ。
そんな戦士に感謝しつつ、俺は俺の仕事をしなくてはならない。
まだ誰も歩いたことのない道を歩く。
少しの高揚感と共にとてつもないプレッシャーのような物を感じるが、ここで浮かれて死んでは意味がない。
行き止まりだった壁を越え、俺たちはゆっくりと先へ進んでいった。
相変わらず真っ白なタイルの通路。
「ふむ」
先に見えてきたのは……扉だった。
「罠感知する。待っててくれ」
「頼む」
セツナの言葉にうなづき、慎重に扉へと近づく。パルとシュユにも手伝ってもらいながら、罠感知をしていく。
いつもどおりのチェックをして違和感などが無いのを確かめた後、最後にランタンの明かりを掲げた。
「反射におかしなところは――無いな」
「はい」
「問題ないでござる」
よし。
罠は無い。
一応、パルとシュユがここまでの地図を描き加えている間に、ルビーに扉のチェックをしてもらった。
触れても問題なし。
魔力的な罠が発動する様子もなかった。
「大丈夫ですわよ」
ありがとう、とお礼を言ってから俺は本格的に扉に近づく。
扉の向こう側の気配をうかがった。
「……」
恐らく、何かいる。
ドラゴンズ・フューリー……の、可能性は無いか。もしも彼らがいるのなら、もっと複数の気配がしているはず。
だが。
扉の向こうに、そこまで多くの気配は感じられない。
「……」
続けて、聞き耳を立てる。
扉に耳を付けるようにして、音を聞いた。
足音、のような物が聞こえる。
つまり二足歩行をしているのか……しかし、音が異様に軽い。小さな子どもが大股で歩いているような印象を受けるが、どうにもイメージと合わなかった。
ともかく、モンスターがいる。
これは確実だ。
俺は手のひらを開き、合図を送った。
「……」
こくん、とうなづくセツナたちの気配を受け取り、指の数を減らす。
――3、2、1。
ゼロのタイミングで扉を蹴破る。
同時に突撃する前衛組。次いで部屋の中に入るパルとシュユを追って、最後に俺も入る。
中にいたのは――黒くて細いシルエット。
「なんだ?」
見たこともないモンスターだった。
異常に細い手足は黒く、『影』や『霧』と形容できるような姿だ。
おぼろげな印象の姿に、鋭利に尖り突出しているような肩幅。
細い逆三角形を彷彿とさせる姿だった。
地面と平衡にも見える肩に乗っているのは丸いだけの頭。顔のような物はなく、およそ生物とは思えない見た目をしている。
まるで昆虫を思わせるような細く節のある腕。鉤爪のような手が胸に手を当て、慇懃に頭を下げた。
「妖精種ですわ」
ルビーが言う。
妖精種ということは……エルフやドワーフ、ハーフリングと同じような種族……なのか?
「敵なのでござるか?」
クナイをかまえつつシュユが聞く。
「はい、どう考えても敵ですわ。あれ、友好的に見えます?」
ルビーがそう言った瞬間、そいつの顔が割れた。
いや、笑ったと言えるだろうか。
まるで三日月のように口が開く。
ニヤリ、と笑った妖精種はこちらへ向かって魔法を行使した。
「しまった」
あまりにも不気味な存在に先手を取られてしまった。
魔法――魔物種が使うと言われている、人間種にはまだ誰も解析できていないと言われている謎の魔法だ!
「気をつけろ!」
そう警告するしかない。
なにせ、魔法の効果が何か分からないのだ。それが攻撃魔法なのか、補助魔法なのかも判断できない。
先手を取られた痛手。
魔法を使う相手に不意を打たれると、一気に瓦解してしまう。
「ルビー!」
「おまかせを!」
アンブレランスを広げ、ルビーは無理やり前へ突進した。
身を挺して盾になってくれる吸血鬼の献身。
その間に俺たちは散開する。
できればパルのそばにいてやりたいけど、範囲魔法だった場合は巻き添えとなってしまう。
パルにヘイトが集まらないように、俺は七星護剣・火を輝かせた。
後衛を狙うのなら俺だ。
そうアピールするように身構える。
「あら」
盾となったルビーが声をあげた。
魔法を行使され、それが発動した様子だが――相性が『良かった』らしい。言ってしまえば、闇魔法。真っ暗となる煙か霧のようなものがルビーを包み込んだ。
目くらまし、の魔法だろうか。
本来なら前方が何も見えなくなる恐ろしい魔法だ。
だが――相手は吸血鬼さま。
夜の支配者である彼女に闇は効かない。
なにより。
ルビーはすでに、『常闇のヴェール』というマグを装備している状態だ。
闇が効くはずもない。
「あたりを引いたみたいですわね」
振り払うようにアンブレランスで闇を切り裂き、ルビーは妖精種へと肉薄した。
ただし、妖精種も油断などしていない。
まるでレイピアのような細長い物を顕現させ、ルビーへ向かって突きを放つ。
「おっと、当たるものですか」
下から上へと切り払うルビー。
相手の攻撃は防いだが、しかし、足を止められた。
「うりゃ!」
「えいっ!」
その隙を狙って、パルとシュユがナイフとクナイを投擲する。それらの一撃は刺さりはしたのだが――効いている様子はない。
やはり、ここまで来ると生半可な攻撃ではダメージというダメージにはなっていないようだ。
「おっと攻めてきますわ」
怯む様子はなく、妖精種が攻撃を仕掛ける。ルビーはアンブレランスで防ぎながらも下がることはなかった。
助かる。
その間にセツナとナユタが左右に別れて妖精種へと迫った。
「ハッ!」
「おらぁ!」
左右からの同時攻撃。
お互いの踏み込むタイミングは完全に一致していた。
だが、妖精種はそれに反応し、左右からのふたりの攻撃をレイピアのような武器で完全に抑え込む。
「チャンスですわ」
「おぉ!」
ルビーの言葉に答えるように俺は妖精種へと肉薄した。
がら空きになった胴。
それを斬りつけようと七星護剣を振り下ろ――そうとした時、妖精種の体からレイピアのような剣が突き出してきた。
だが――
「読めていた」
盗賊スキル『影走り』。
突き出してきた剣を紙一重で避けつつ、相手の体に魔力糸を巻き付けて無理やりその場でターンする。
足の筋肉を総動員させ、その場に踏みとどまると――
「ふっ」
がら空きになった背中に七星護剣・火を刺し込んだ。
ぼう、と燃え上がる妖精種。
「えーい」
そこを容赦なくルビーがアンブレランスを叩き落とし、妖精種を這いつくばせるように叩き潰した。
「っ、離れろルビー!」
「了解ですわ」
床へと倒れた妖精種。その背中から、まるで無数の針が突き出すようにレイピアの刃が飛び出した。
凶悪な針玉だ。
その場にいたら、確実に体が穴だらけになっていた。
「ふっ」
その針山に向かって、セツナが横一閃。
なんと、妖精種のレイピアを切り裂いてしまった。
「トドメだ!」
その開いた空間に向かって、ナユタが赤の槍を突き刺す。それでも尚のこと妖精種はレイピアを伸ばしてきたので、ナユタは槍を捨てて後ろへ下がった。
見事な判断だ。
よろよろと立ち上がる妖精種。
「まだくたばらないのかい。しぶといねぇ」
しかし、もう倒れる寸前という感じ。
放っておいても、すぐに倒れてしまうだろうが。
「パル。シャイン・ダガーを」
「はい」
パルから受け取ると、それを容赦なく妖精種に投擲した。
どう見ても闇属性のモンスターだ。
光属性は効くはず。
すこん、と頭に刺さったシャイン・ダガー。
妖精種はそのまま仰向けに倒れると……その姿を霧散させていった。
「はぁ~」
なんとかなった。
初見のモンスターの怖さ、恐ろしさをイヤでも思い知らされてしまうなぁ。
特に、相手が不気味で人型をしていると、やっぱり最初は躊躇してしまう。
「師匠」
「なんだ?」
「シャイン・ダガーって投げていいんですか?」
「……あとでラビアンさまに謝っておく」
「あ、はい」
シャイン・ダガーを粗末に扱ってごめんなさい、ラビアンさま。
もちろん。
返事は無かったけどね。
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