~可憐! 隣り合わせの幸運と悪心~
神さまにもらった真っ赤なランドセルを背負って。
ガッシャガッシャ、チャラリチャラチャラと中身の金貨と宝石を鳴らしながら、あたし達は貴族邸が並ぶ第二エリアまで戻ってきた。
「ふへぇ~……お、重かった~……」
宝石の重さは何となく想像通りっていうか見た目通りなんだけど、金貨って見た目以上に重いよね。
遺跡探索で金銀財宝を見つけても、それを持ちだすのってめちゃくちゃ苦労するっていうことが分かった。
むしろ、持ちすぎ危険かも。
今回はパーティメンバーがいっぱいいるので気にしなくても良かったけど。
本当なら、帰りに魔物と出会っちゃうこともあるだろうし。そうなっちゃうと、重い荷物を降ろさないといけないので、一手遅れる。
その一手が余裕のある先手とかだったら大丈夫だけど。不意打ちだったり、曲がり方でばったり魔物と遭遇しちゃうみたいな、場合によっては致命的な失敗につながることもあるだろうから、欲張っちゃうのも危ないんだろうなぁ。
って思った。
「疲れた~、もうダメ~」
「僕も。もう限界」
レーちゃん達もぐったりと座り込む。宝石とか金を手に入れた喜びよりも、疲労のほうが大きいっぽい。
なによりウォーター・ゴーレムとの戦闘に巻き込まれたのが影響してると思う。精神的にヘトヘト状態。
あたしだって、もしも魔王サマと出会ってなかったらゴーレムとあんな風に戦えてなかった。なんだかんだ言って、日々の修行相手をやってくれてるルビーはそんなに怖いことしないし。
あと、師匠はめちゃくちゃ優しいし。
なので、魔王サマに会ったことはぜんぜん無駄じゃなかった。
……って思わないと、つらいだけの記憶になっちゃう。もう絶対に師匠を困らせないようにしないといけない。
うんうん。
「師匠、あたし頑張ります!」
「ん? あぁ、そうだな」
師匠はポンポンと頭を撫でてくれた。
「俺はちょっと交渉してくる。何枚か金貨をもらっていいか?」
師匠はあたしの後ろにまわってランドセルを開く。
あたまの上までびろーんってフタ部分――カブセっていうらしい――が背負ったままでとめくれるのが、ちょっと面白い。
「でもこれ、あたしのじゃなくてレーちゃん達のですよ?」
「あ、そうか。そうだったな。あ~、俺も何枚か持ってきたらよかったなぁ~」
カッコつけるんじゃなかったぁ、と師匠は後悔してる。
失敗してる師匠も可愛くて好きぃ。
「そういうことでしたら、こちらを」
会話に割り込んできたルビーはポケットから金貨を取り出した。ちゃっかり持って帰ってきたみたい。
「珍しいなプルクラ。お金に興味は無いと思っていたのだが」
「ふふ。わたしには無くとも人間にはあります。敵となった人間に金貨をぶつけて驚く様子を確認しようかと思いまして」
性格が最悪な吸血鬼だ。
金貨を武器にしないでください。路地裏で生きてきたあたしが泣いちゃう。
「……貴族には効くかもな」
師匠は目元を隠すように手で覆いながら答えた。
確かに効きそう。なんとなく分かる。
「でしょう。我ながら素晴らしいアイデアです」
理解をもらえたのでルビーは嬉しそうだった。うふふ、とご機嫌に笑っている。
そんなルビーを見ながら師匠はため息。それでも、もらっていくよ、と金貨を何枚か持ってドワーフのいる冒険者パーティに声をかけに行った。
金貨を渡して、ドワーフの人たちに遺跡の入口を補強してもらうんだと思う。今のままだと、魔導書を取っちゃうと遺跡の中に水が入ってきちゃうし、おぼれちゃうかもしれないし。
「それでは私は報告してきます。アルマさまの体も運ぼうと思いますので、もしかしたら遺跡は封鎖されるかもしれません」
ルシェードさんが申し訳なさそうに言った。
「封鎖されるんですか?」
「貴重な遺跡ということで国の管理下に置かれると思います。もちろん私たちが王都へ帰り、詳細な報告をした後での話ですが。おいそれと立ち入ることができないと思いますので」
「それまでに略奪しておけ、という話ですわね」
ルビーの言い方ぁ!
「もっと誤魔化して言ってよ、ぷりゅくりゃ」
「プルクラです。じゃぁ言い変えましょう。それまでにお掃除を済ませておけ、という話ですわね」
「ふふ、そうですね。それでは一旦失礼します」
ルシェードさんは丁寧に頭をさげて、聖骸布に包まれたアルマさまの遺骸を背中に背負って運んでいく。
「まるで誰か死人が出たように見えますわね」
「実際、死人だけど」
「そうでした。上手いこと言いますわね、パル」
「いや、ぜんぜん上手くないよ、サピエンチェ」
「そこは合わせなさいよ」
「あはは」
とかなんとか言ってる内に、あたし達のことを見ていた他の冒険者が情報をもらおうと近寄ってきた。
特に隠すことは魔導書のことだけ。
他は全部話しちゃっていいけど、そこは盗賊。
「えへへ~」
「分かってる分かってる。魚だろ、サティスちゃん」
「あたし、そろそろお肉が食べたいなぁ~」
「くぅ、足元みやがって! 誰か森で狩りをしてなかったか!?」
「向こうのパーティが調達してたはず! 俺ちょっともらってくるわ」
「頼んだ!」
というわけで、あたし達はお肉をいっぱいゲットして、その代わりに祭壇エリアの情報をちゃんとランドセルの中身を見せながら教えてあげた。
「こ、こうしちゃいらんねー!」
「早い物勝ちだぁー!」
第一エリアの装飾を引き剥がしてる場合じゃない、と冒険者たちが奥へ向かってダッシュしていった。
「罠に気を付けてねー! あと、アルマさまに挨拶もー!」
「分かってらぁ!」
みんな慌てて走って行ったので、貴族エリアは静かになっちゃった。
「ようやく落ち着きましたわね。食事の準備でもしましょうか。あ、火を熾すのはわたしに任せてくださいな」
「火を熾すの好きだね、ピリカラ。ちょっと、わらわにとっては火を熾すことなど赤子の手をひねるようなものじゃ、って言ってみて」
「プルクラです。なにそのヘタクソな師匠さんのマネは。こほん。わらわにとって火熾しなど、赤子の手をひねるようなものじゃ。そこで指をくわえて見ておるがいい」
ちゃんとやってくれるのがルビーの良い所だと思う。
しかもアレンジを加えてくれた。
イイ吸血鬼だなぁ。
なんで魔王サマの手下なんてやってるんだろう?
「おっほ」
ルビーのセリフを途中から師匠が聞いていたらしく、なんか気持ち悪い声を出してた。
「おかえりなさい師匠」
「お、おう。とりあえず話は付けてきた。二日か三日もあれば完成するだろ、っていう目算らしい。ドワーフってやつは素人でも恐ろしいな」
「素人なんですか?」
あたしの質問に師匠はうなづく。
「冒険者なんてやってるドワーフは専門家じゃない。俺たちで言うと、そうだな。普通の料理を作る感覚で超高級宮廷料理が作れるようなものか」
「コックさんじゃなくても、凄い料理が作れるってこと?」
それだ、と師匠は苦笑した。
「ところで静かになっているようだが……情報を売ったのか?」
どーんと置いてあるお肉の塊を見ながら師匠は聞いてくる。ちゃんと下処理もしてあって、あとは切り分けて焼いて食べるだけ。美味しそう。うへへ。
「ダメでした?」
「いや、大丈夫だ。俺たちは観察されてたしな。明らかに装備品が増えてるのを見たら、誰だって気付く。むしろ遅かったぐらいだ」
橋エリアや神殿エリアを探索している冒険者パーティがいたけど、その人たちからは何も聞かれなかった。
理由は簡単。
それどころじゃなかったから。
どうやらあたし達に探索漏れがあったみたい。
貴族エリアの奥にある神殿っぽい場所には左右に隠し部屋があって、扉が解放されていた。中は絶賛探索中で、ちょっぴり中を覗くと倉庫みたいな印象だった。
アルマさまの能力のおかげか、まったく埃っぽくなくて。なんか儀式に使うっぽいような色々な物があったっぽい。儀礼用の剣っていうんだっけ。そういうのもあったみたい。
橋エリアの真ん中にあった壁で区切られた部屋には隠し階段があったっぽい。部屋のテーブルの下にぽっかりと穴が空いてるみたいにして階段があった。
降りてないから、その先に何があったのかは知らない。
でも、みんながそっちに夢中っぽいので、あたし達は話を聞いたり聞かれたりすることなくスルーした。
もしもそういう未探索とか未発見の部分が無かったら、今ごろは奥の宝物庫に全員が殺到してると思う。
みんなで遺跡探索する場合、どこを選ぶのかで結果はぜんぜん違うっていうのは難しいところ。
もしかしたら隠し扉の先にもっともっと良いアイテムとかが眠ってるかもしれないし、まだまだ遺跡が続いてる可能性だってある。
新発見の遺跡探索って大変だ。
「魔導書のことは話したか?」
「いえ、ないしょにしました」
「む」
師匠はちょっぴり考え込むようにうつむいた。
「あ、あれ? ダメでした?」
「もしも魔導書を発見された場合、確実に取られるだろ? その場合、危険が伴うからいっそのこと話しておいたほうが安全だったのだが……」
あ、確かに。
師匠も発見できなかった隠し階段とか隠し部屋を発見した人たちがいるんだから、魔導書の部屋もバレちゃうかもしれない。
「プルクラ。ちょっと頼めるか?」
「任せてください。報酬は撫でてくださるだけでオッケーですわ」
「安いな」
「下腹部です」
「高い……ん? いや、むしろ……あ、いや、ん~……?」
師匠が考え込んでしまった。
ルビー、凄い。
「では行ってまいります」
「お、おう」
「師匠ししょう」
「な、なんだ?」
「師匠だったら触っても怒りませんよ?」
「……違うんだ」
「はぁ。なにがですか?」
「一度触ったら、一度でも誘惑に負けてしまったら……俺はもう二度と……二度と我慢ができなくなってしまう。弱いんだ。心が弱い……!」
「ウォーター・ゴーレムを倒した後に、ぺったぺったポーションをぬってもらってましたけど?」
「あれは治療行為だから! ノーカンです!」
「あ、はい」
師匠的にはオッケーみたいです。
じゃ、こうやって徐々に師匠に触ってもらっていけば、いずれベッドの中で……
「ふひひひひ」
「何を考えてるのか分かるので、やめろ」
「師匠のえっち」
「……もう一回言ってくれ」
「師匠のえっち」
「……よし」
なにが!?
え、なにが良しなの!?
「ノーマ、ちょっといいか」
あぁ、師匠! ひとりで満足しないでくださいよぅ!
「なんですか師匠さん」
「レーイたちも聞いてくれ」
「あ、はい」
ヘロヘロに座っていたレーちゃん達が姿勢を正す。そんなレーちゃん達を見て、師匠は苦笑しながら、楽にしてくれと言った。
なんだか貴族っぽい感じで笑っちゃう。
「君たちは大量に宝石と金貨を手に入れた。すでにこの事実は知れ渡っている。そして、君たちの実力もな」
ルーキーが大成功した。
それは誰が見ても明らかな事実。
「つまり、良からぬヤカラに狙われる」
「え!?」
驚くレーちゃん達。
でも、普通に考えたら分かる。商人がどうして護衛を雇うかって言われると、お金をいっぱい持ってて、商品を持ち歩いているから。
だから冒険者っていう護衛を雇って身を守る。
襲ってくるのは魔物だけとは限らない。
あたし達とは違う意味で『盗賊』がいるのだから。
「君たちは、誰かに守ってもらって帰還する必要があるし、帰ってからも油断することができない」
そっか。
ずっと宝石と金貨を持ち歩いている限り、知ってる人に狙われ続けるってことか。
「そのことだけは注意してくれ」
「わ、分かりました」
リーダーであるセルトくんが、新しく手に入れたバックラーを見ながら言った。
「ねぇねぇ師匠、なんとかならないんですか?」
「ん~。俺もなんとかしてやりたいんだけどな。だが、おんぶに抱っこじゃ冒険者として名が廃るだろ。浪漫が無い」
ロマン……
なんだか良く分かんないけど、うんうんうん、と納得するようにレーちゃん以外の男の子たちがうなづいていた。
「分かりました。忠告、ありがとうございます師匠さん」
ノーマくんはそう言って、考え込むように腕を組んだ。これからどうするか、みんなでいろいろと相談するんだと思う。
そういう意味では楽しそうにも思えた。
でも、この感想は他人事だから、なのかな。
路地裏生活を楽しそうだね、なんて言われたら。
あたし、その人に噛みつくと思うし。むしろ、噛みちぎるかもしれない。
「とりあえず、今はゆっくりと休もう。時間はたっぷりある」
師匠はそう言って、火を熾す準備を始めた。
ルビーがやりたがってたけど、まぁいいや。
「お肉お肉~」
「あ、香辛料とか持ってるので私が料理するねサティスちゃん」
……やっぱレーちゃん。
ちょっと良いところのお嬢さまなのでは!?
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