~可憐! 前人未踏の背徳行為に興奮する少女たち~
師匠に秘密って言われてたのに、危うくルビーに聖骸布リボンのことがバレるところだった。
「……」
というか、たぶん、もうバレてる。
ごめんなさい、師匠。
あたしは絶対に喋らないけど、あとは師匠にお任せします。ルビーに話していいのか悪いのか、あたしには判断できないよぅ。
で、あたしのリボンを疑ってたルビーは、森のぜんぜん違う方向を見ていた。
そっか。
いくらホブゴブリンがはぐれゴブリンだからと言って、本当に一体だけとは限らないもんね。
ちゃんと警戒してるなんて、さすが魔王四天王。
冒険者としても一流なのかもしれない。
「あれ?」
でもどうして投げキッス?
なんか吸血鬼の呪い?
乙女のキスには魔除けの効果がある、みたいな話?
「……できた」
ルビーの行動に首を傾げていたあたしの前で、サチがぽつりとつぶやいた。
お鍋を持ったままナーさまに祈り続けてたみたいだけど……ホントにポーションができあがったみたい。
「おぉ~、やったじゃないかサチ! ナー神さまもお疲れさまです。しばらく休んでいて構わないよ」
「……はい」
サチはミーニャ先生にお鍋を渡すと、その場にぺたんと座り込んだ。ちょっとマインドダウンした時に似てる。
「ポーション作りって疲れるの?」
「……そうみたい。……ナーさまも疲れたって」
「神さまも疲れるんだ。それだったら、神殿で作られてるポーションって大量だから神さま達は無理なんじゃないの?」
世界中の神殿でポーションは大量に作られてるわけだから、お鍋いっぱいどころじゃないと思う。
どうなってるんだろう?
「……天使が代行してくれてるって。……天使っていたんだ」
「え、マジ?」
マジマジ、とサチも驚いた顔をしながらうなづいた。サチも知らなかったみたい。
絵本に出てくる天使って、小さな有翼種の子どもみたいな姿で出てくる。なぜか知らないけど、みんな裸で、ちっちゃな羽で空を飛んでることが多い。
天使が主役のおとぎ話なんて無かったし、絵本では良くみるけれど……伝説とか英雄譚には一切出てこない。
だから架空の存在だと思ってたんだけど――
「天使っているんだ~、ほへ~」
世の中、知らないことっていっぱいあるんだなぁ……
いや、当たり前なんだけど、ホントにそう思っちゃったので仕方がない。
学園都市の生徒が興味津々で毎日がお祭り騒ぎなのも、なんとなく理解できた。
だって、ちょっと大声を出してこの事実を誰かに話したい気分だもん。
ねぇねぇ、聞いて!
天使って存在したんだよ!
さっき神さまから直接聞いたんだ!
って、誰かに言いたい気分。
「ミーニャ先生は天使がいるって知って――先生?」
「ふひひひ、ふひひひひひひひひひひ」
ミーニャ先生がお鍋の中にある液体を見ながら不気味に笑ってた。
怖い。
お鍋を見て笑ってるのも怖いし、それがポーションだって分かってても怖い。
なんにしても、怖い。
「よし、さっそく火にかけよう。パルヴァスちゃん、もうちょっと枝を集めてきてくれるかな。サチはそのまま休んでいいからね。クララスちゃんは落ち着いた? ルビーちゃん、服が乾いているかちゃんとチェックしないと風邪ひいちゃうよ。あ、吸血鬼って風邪ひくんだっけ?」
う~ん、テンションがおかしくなってる。
ミーニャ先生も学園都市で生きる生徒のひとり、というのは間違いなさそう。
そもそも先生って呼んでるけど、教える人とかじゃなくて研究者だもんね。先駆者って言うんだっけ。
それだけの話だから、やっぱり学園都市の生徒は変な人、っていう話が固まっちゃった感じがする。
とりあえず、ミーニャ先生にお願いされたので枯れ枝を集めてくる。その間にルビーは装備が乾いたのか、ようやく下着姿から復帰してた。
「生乾きで気持ち悪いですわ」
「もうちょっと乾かしてたらいいのに」
「煙臭くなってしまうので。帰ったら洗濯ですわね」
なんて言いつつ、焚き火の近くで乾いてない部分を乾かしてる。その隣ではサチとミーニャ先生とクララスさんが興味深くお鍋の中のポーションを覗き込んでいた。
「沸騰してきましたよ、ミーニャ先生。ホット・ポーション……なんだか寒い冬に飲んでみたいような名前の響きですね。あ、なるほど。料理は言葉からでも受ける印象がある、と。見た目という課題もありますがネーミングも重要なのかも……」
「おほ、おほほほほ、見てよサチ。ナー神さまの初めて作ったポーションが沸騰してるよ。ひひひひひひ、ひはははははははは。あはははははははは!」
なにがそんなに面白いんだろう……あたしにはさっぱり分からない世界だ。
サチの顔を見たら、どういうこと、なんていう視線を送られてきた。
サチも分からないみたいなので、なんか良かった。
「あぁ、おかえりパルヴァスちゃん。ほらほら、枝を追加して火力をあげよう。ん? 枝を追加すると火力があがるんだったか? それとも風を送れば火力があがるんだったかな。まぁ、いいや。両方やろう」
「ねぇねぇ、ミーニャ先生。ちょっと飲んでいい?」
せっかくなので、ちょっと飲んでみたい。
「ホット・ポーションをかい? いいね、味見くらいはしておこうではないか。初めてナー神さまが作ったポーションでもあるし、ナー神さまの味はちゃんと見ておかないといけないよね。ほらほら、サチもいっしょにどうだい? ナー汁……おっと。ナー神さまのポーションを舐めておかないかい?」
いま、ナー汁って言ったよね?
いま、ナー汁って言ったよね!?
「……はい、ナーさまの汁は飲みたいです」
サチも汁って言った!?
「どういうことなの……」
「ポーションって貝の出汁みたいなものなんでしょうか。神さまがお風呂につかった残り湯のような……」
クララスさんが余計なことを言った。
あたしは頭の中でナーさまがお風呂に入っているのを想像して、そのお湯が空から降ってくるようなのを想像した。
ポーションを飲むのが、ちょっと嫌になりました。
師匠は喜んで飲みそうな気がしたので、もっと嫌になりました。
ともかくとして、サチとミーニャ先生は冒険者セットのスプーンでお鍋の中にぐつぐつ沸騰してるポーションをすくって飲んだ。
「うん。タダのあったかいお湯だね」
「……熱いポーション」
味に変化とかは無いみたい。
ちょっとガッカリしてるミーニャ先生をよそに、あたしもサチからスプーンを受け取ってホット・ポーションを舐めてみた。
「お湯だ。でも、ちょっと元気になる感じがする」
さっきホブゴブリンと戦った疲れというか、減った体力が回復した感じ。きっとスタミナ・ポーションだと、分かりやすかったのかも?
クララスさんもミーニャ先生からスプーンを受け取って舐めてみてるけど、感想は同じっぽい。
熱いだけのポーション。
「料理にいれても味が変わらないのが強みですよね」
そういう意見になっちゃうんだ。
「ルビーは飲む?」
「逆に呪われそうなので、遠慮しておきます」
と、背中の濡れてる部分を乾かしてるルビー。
なんとなくお婆ちゃんっぽい。
あ、でも年齢的にはお婆ちゃんなんだっけ?
「ねぇねぇルビー。はぁ~、あったかいね~。って言ってみて」
「はぁ~、あったかいね~……って、わたしはお婆ちゃまではありませんわ」
「あ、なんだっけ。師匠が良く言わせてるやつ」
「えっと、わらわは火にあたるのが大好きなのじゃ~、かしら」
「それそれ。そんなふうに喋ればいいのに」
「逆に不自然ですわ」
今でも、なんか丁寧語とお嬢様言葉が混じってる変な喋り方だと思うけど。
というのは黙っておいた。
そんな感じでポーションを似ている間、焚き火場所を拠点としてクララスさんと野草と薬草を採りに行ったり、ルビーといっしょに師匠を探したり、持って帰って売る用の魚を捕まえたりしつつ、お鍋が空っぽになるまで沸騰させ続けた結果――
「おぉ!」
というミーニャ先生の感嘆の声が。
森の中に響くのだった。
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