~可憐! あわあわ泡風呂~
水風呂ですっかり身体の熱が取れたので。
「ねぇねぇ、サチ。今度は泡風呂に行ってみようよ」
「……先に身体洗わないの?」
と、サチに言われてあたしは少しだけ首をかしげた。
「泡っていうんだから、石鹸の泡があるんじゃないの? そっちで洗ったほうが早いと思うよ」
「……わたしの想像だと、お風呂のお湯がぽこぽこ泡が出てる感じ」
「それって沸騰してるんじゃ……」
お鍋でお湯を沸かす時に、ぽこぽこ泡が出てる。
もしかして、種族によってはあの温度に耐えられるとか!?
そういえば、さっきドワーフの人たちがサウナで平気そうな顔をしてた。
「ドワーフ専用風呂?」
沸騰してぽこぽこ泡が出てるお風呂。
泡風呂。
人間は入れません。
そんな、お風呂?
「……そうかも?」
「でも、それはそれで見てみたい!」
「……パルヴァスはそういうところあるよね」
「えへへ~」
「……わたしも見てみたいし、行くわ」
なにが正解か分からないけど、見てみないことには始まらない。
というわけで、廊下に出て改めて左側へと進む。
やっぱり、きゃっきゃと騒ぐ声が聞こえてくるので、子どもが多いのかもしれない。
「もしくは子どもが悲鳴を上げてる声だったとか?
ちょっとだけサチが嫌そうな顔をしてたけど、まぁどう聞いても喜んでいる声なので、地獄絵図ではないと思う。
うん。
もし、本当にそうだったとしても、見るだけぐらいなら問題ないよね。
「わぁ!」
「……あら。すごいわね」
泡風呂の入口である扉を開けて、あたしとサチは声をあげた。
さて――あたしとサチ、どっちが正解だったか?
「すっごい泡!」
正解したのは、あたしだった!
その部屋は、なんか白くてふんわりとしたモコモコの泡で満たされていたのだ!
しかも、湯舟とかがあるんじゃなくて、部屋全体が泡でいっぱいになってる。広さはそこそこ広く、真ん中の普通のお風呂と同じくらいの広さがある。
結構広い空間に泡がもこもこと溢れているので、なんていうか、こう、ものすっごくワクワクするよね。
泡の高さはあたしの胸のあたり。小さい子だったら泡の中に沈んじゃいそうなほど、あわあわな部屋だった。
「この部屋にいるだけで、全身綺麗になりそう」
「……そうね。石鹸をこする必要は無さそう」
部屋の中に入ると、足首あたりまではお湯があるのが分かった。お湯の上にきめ細かい泡が浮かんでる感じかな~。
ちょっとテンションが上がっちゃうのも分かる。あたしぐらいの年齢の女の子たちがきゃっきゃと騒いでるのも理解できるし、大人の女の人も楽しそうに歩いていた。
どうやら部屋の中で身体を洗うんじゃなくて、歩き回るのが泡風呂の入り方っぽい。
みんな、ぐるぐるとお風呂の中を円を描くようにまわっていて、泡を全身に感じてる。
「……背中洗ってあげるわ」
「あ、うんうん。ありがとう、サチ」
「……どういたしまして」
あたしとサチも縦に並んで、部屋の中を歩いていく。あたしが前を歩いて、もこもこの泡をすくったりして歩く。で、後ろでサチがあたしの背中を泡を使って撫でてくれた。
んふふ~。
これは楽しい。
お風呂は気持ちいいものだと思ってたけど、楽しいお風呂っていうのも存在するんだね。
歩きながら綺麗になるっていうのを考えた人は天才じゃないかな。
そう思う。
って、ご機嫌にあたしは歩いていると、ぞわりと背中が震えた。
「ひゃぅ!? も、もう、サチぃ。おしりは自分で洗うよ?」
腰のあたりを撫でられて、ぞわぞわっと震える。
背中とかお腹とか足とかはサチに良く洗ってもらってたけど、おしりは初めてかもしれない。
「……せっかくだから洗ってあげる」
「サチって身体洗ってくれるの好きだよねぇ」
「……女の子は安全だから」
「そんなもん?」
「……パルヴァスは子どもだし?」
「まぁ、子どもだけどさぁ。でもいいもん。師匠に大人にしてもらうから」
ってあたしが言ったらサチが、ふふ、と笑った。
「なによぅ? ホントなんだからね」
「……分かってるわ。師匠さんは立派な大人よ」
むぅ~。
なんか含みのある言い方だな~。
まるで師匠があたしを適当にあしらってるみたいな感じ。
師匠はロリコンなんだからね!
あたしが大きくなっちゃう前に手を出してくれるに決まって――
「ん?」
「……どうしたの、パルヴァス?」
あたしが少しだけ反応を示したのを、サチは気付いた。
だから、あたしは立ち止まらずにそのまま前を歩きながらサチに伝える。
「サチ、交代こうたい。次はあたしが洗ってあげる」
「……えぇ」
あたしの意図を理解してくれたみたいで、サチはあたしの前に移動した。そのまま歩きながら、サチの耳に口を近づけて静かに伝える。
「サチ、あそこにいる赤毛の女の人」
「……んひゅ」
んひゅ?
「……ごめんなさい。続けて」
「あ、うん。あの赤毛のおっぱいの大きい人、盗賊だ」
壁にもたれるように、瞳を閉じて泡風呂を楽しんでいる風の女性がいた。赤く、ふわふわとウェーブのついた長い髪を束ねもしないでお風呂に入ってる。
特徴的なのは、胸の大きさかな。
黄金の鐘亭のリンリーさんよりは小さいかもだけど、それでもすっごく大きい。特徴的な赤い髪よりも、更に目立つ感じのおっぱいの大きさ。
そんな女性が泡風呂のすみっこで、眠るように立っていた。
伏し目がち、っていうのかな。
気持ちよさそうに、泡をすくったりして身体を洗ってる。
でも。
時折――
ちくり、と刺さるような視線が彼女から飛んできた。ほんの一瞬だけ、時間にしたらまばたき一回分もない程のわずかな間だけ向けられる視線が、赤毛巨乳のお姉さんから感じられた。
覚えがある。
その視線は、同じだ。
師匠と同じ種類の視線なんだ。
あの日、師匠がジックス街に入ってきた時にあたしを見た種類の視線。
それがあの女の人からも感じられた。
瞳を閉じているようにも見える。
こっちをいつ見たかも分からない。
でも。
分かる。
理解できた。
あの女の人は、盗賊だ。
「もしかして、あの人がスリなのかな……?」
と、あたしは真面目にサチに伝えたんだけど。
「……ふあ、あひゅ」
と、サチはなぜか自分の身体を抱きしめるように腕をまわして、震えていた。
「え~……」
ときどき、サチが分からなくなる。
うん。
神さま神さま。あ、サチの信仰してる神さまです。光の精霊女王ラビアンさまじゃなくって、サチの方の神さま。
この子、ちょっと変ですよー!
なんとかしてくださーい!
と、祈ってみたけれど。
残念ながら返事は無かった。
神さまも、サチはこのままでイイみたい。
う~ん?
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