~卑劣! 真夜中の訪問者~
異常性愛、もしくは特殊性愛を根幹にして情報収集に当たったのだが――
やはり満足のいく情報は得られなかった。
「まぁ、当たり前か」
見ず知らずの人間から、おまえロリコンか?
と質問されてハイと答える者が何人いるだろう。
少なくとも俺は、首を縦には振らない。
他人にロリコンだと看破されて良いことなど、ひとつもないのだから。
ただでさえ卑劣と言われる盗賊だ。
これ以上マイナスなイメージを増やす必要もないだろう。
加えて、エルフやドワーフにその質問をしたところでマトモな答えが得られるはずがない。
年齢を理由に好きな人間を語るのならば、エルフにしてみればほとんどロリコンだ。
見た目を理由に好きな同族を語るのならば、ドワーフにしてみれば、種族そのものがロリコンとなる。
同じく小人族のハーフリングなんぞ言わずもがな。
そういう意味では、あのハーフリング専門店に情報の聞き込みをしたのは正解っちゃぁ正解なのだが――
「遊んでくれなきゃ情報は売らないぞッ! ほらほら、お兄さん。いやさ、お兄ちゃん。兄様でもにぃにでもいいからさ。イケない遊びをしましょ? ねぇねぇ、ねぇねぇねぇ、好きですよね、兄ちゃま?」
「……断る。あえてもう一度言おう。断る!」
「なんでさ!?」
「なんでもだ!」
「ケチ! この貧乏人!」
「金ならある! その遊びの倍の金を払うので情報をくれ」
「嫌だ。売らん。ぜったいに遊ぶ。遊ばない限り、ぜったいに情報はあげない」
「なぜだ。美味しい話だと思うのだが……?」
「兄クンに嫌がらせするのが楽しい」
「……はぁ~」
と、盛大にため息を吐くことになった。
そもそもイタズラ好きのハーフリングという種族に情報を期待するのも間違ってるし、ああいった専門店に客の情報を聞き込みするのも間違ってる。
まかりまちがって貴族の名前なんて出てきてみろ。
下手をすれば次の日にはあのハーフリングの娘たちの死体が転がっている可能性すらある。
そうなると、俺の命が狙われてることになり、早々と遠くの国に逃げ出すしかない。
「そういう意味では、守ってくれたのかねぇ」
ワザと俺に情報を掴ませないように。
そういう対処をしてくれた可能性が小指の爪先ほどは有りそうな気がする。
なんにしても、そう簡単に掴める情報ではないってことだ。
「はぁ~」
結局、得られた情報はゼロに等しい。
ため息を吐きながら『黄金の鐘亭』に帰ってくると、看板娘たる巨乳のリンリーがいつも通りに入口近くのエントランスで案内の仕事をしていた。
もうすっかり日が落ちているっていうのに、仕事熱心なことだ。
「おかえりなさい、エラントさん」
「ただいま……」
リンリーは俺をみて、あら、と声をあげた。
「お疲れのようですね。仕事がうまくいかなかった、とか?」
「まぁ、そんな感じだな」
「パルちゃんを放っておくからですよ。もう! いつになったら帰ってくるのです?」
「このままじゃ、まだまだ時間が掛かりそうだ」
え~、とリンリーは抗議するように声をあげた。
「頑張ってくださいよ、師匠なんでしょ?」
「そうだが……ふ~む」
俺はリンリーの巨乳に注目する。
これもこれで特殊性癖……とは言えない、のか?
大きな胸は俺的にまったく魅力的には見えないのだが、一般的な男が好むのはこういう巨乳らしい。
しかし、ノーマルではない、だろう。
平均的な人間の女性に比べて、リンリーの胸はかなり大きな部類になる。
確実に普通とは言い切れないので、やはり巨乳も特殊性癖なのではないだろうか?
俺はそう思うのだが……
「な、なんですか? エ、エラントさんはそんな人じゃないと思ってたのにぃ」
俺の視線から自分の胸を守るように、リンリーは自分の身体を抱きしめるように腕を組んだ。
「あぁ、すまん。仕事関係で気になっていることがあってな。つい見てしまった。申し訳ない。というか、視線を読めるんだなリンリー」
「この距離だとバレバレですぅ。っていうかエラントさんの仕事って、その、もしかして色街関係、とか? パ、パ、パルちゃんを調教して、あんなことやこんなことを……ハッ、そういえば縄で縛ってた!」
「おーい、やめろ。声がデカいぞ、リンリー嬢」
「嬢って呼ばないでください!」
「あ、はい」
やはり色街に何かトラウマでもあるのだろうか?
いや、ありそうだな……危ないので触れないようにしておこう。
宿を追い出されたら大変だし。
ジロジロと周辺の客から睨まれ始めたので、退散しておく。
ただでさえリンリーの人気は高いので、あまり仲良くしてしまうと余計な恨みを勝手に買ってしまいそうだ。
看板娘の地位だけでなく、その本人にも魅力があるので仕方がない。
競争率は激しく高そうな娘さまだ。
「おやすみ、リンリー。早く解決できるように祈っててくれ」
「あ、はい。おやすみなさい、エラントさん」
手をヒラヒラとさせて俺は部屋へと戻る。
そのまま風呂に入って適度に疲れを飛ばすとすぐにベッドに入った。
睡眠は重要だ。
なにより野宿の際は満足に睡眠時間が取れないことが多い。より短い時間で効率的に脳を休める必要があるために、睡眠導入は大事だ。
頭の中に今日得た情報がぐるぐるとまわっているが、それを一旦置いておいて、俺はさっさと睡眠状態に入る。
考え事をしているといつまで経っても寝られないので。
暗闇に溶けていくように。
また、身体の力を全て抜いて、す~っと眠りに落ちていく。
で――
「ッ!?」
俺は部屋の中に侵入してきた気配に跳び起きてナイフを構えた。
眠ってからそれなりの時間が経っているらしく、今は真夜中だった。
正確な時間を知ることは重要だが、それ以上に部屋の中に侵入してきた存在に警戒しなければならない。
いや、より正確に言い表すならば『侵入』ではない。
いきなり具現化したかのような、突然そこに湧いて出たかのような。
そんな気配が、部屋の中に出現した。
ベッドの上に立ち、ナイフを気配に向けて身体の側面を向ける。相手に対して被弾面積を小さくする構えだが――
果たして、目の前には何も無かった。
「いや――」
いる。
そこに、見えないながらも……いる。
しかしながら、その気配は襲ってくるわけでも、移動するわけでもない。
ただただ、そこにいるだけ。
「……もしかして」
俺には、その気配に覚えがあった。
富裕区の最奥にあった聖印。
そこで出会った神さまの気配と同じ。
つまり――
「なにかあったのか!?」
こくり、と何も無い空間で、誰かがうなづいたのが分かった。
それだけで充分だった。
充分に理解できた。
パルと同じパーティにいる少女、サチ。
彼女が信仰する神さまが、俺に神託を授けた。
いや、神託なんて大層なものじゃない。
ただのお願いだ。
命令ではなく、ただのお願い。
言葉は一切として紡がず、その意図だけを把握した。
神さまのお告げ以下の、お願い。
「分かった!」
それは、なによりの証明のようなものだった。
神さまが、俺に伝えることなんて、ひとつしかない。
言葉が聞こえなくたって分かる。
理解できる。
「今すぐ助けてやるからな、パル!」
サチが危ないっていうこと。
それは、すなわち――
同時にパルも危険に陥っているということだ。
俺はすぐさま部屋を飛び出し、廊下の窓から外へと飛び出した。
聖骸布が伝えてくるパルの位置は街の外。
「もっと親バカになるべきだったか――!」
初めての冒険者らしい仕事に、もたついてしまったか。
なんて思っていたのが間違いだった。
何か、あったのだ。
それが盗賊ギルドから依頼されている事件との関係はまだ分からない。
だがしかし。
冒険者には失敗がつきまとう。
それが、どんな理由であれ、だ。
「待ってろよ、パル」
真夜中の街を全力疾走し。
俺はパルの元へと急ぐのだった。
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