卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!
久我拓人
~卑劣! 勇者パーティからの追放~
「あなたのような卑劣な手を使う者は、勇者さまのパーティにふさわしくありません」
それが俺にかけられた言葉だと気づくのには、少しばかり時間が必要だった。
卑劣。
俺の使う盗賊スキルのことか。
光の精霊女王に仕える神官の言葉としては、聞きたくもなかったものだが……残念ながら俺の耳に届いたものは真実らしい。
もっとも――神官の言うことは間違いではない。
俺の盗賊スキルは……あまり褒められたものではない。他人から物を盗んだり、後ろから刺したり、動きを封じ込めたり。
卑怯や卑劣と言われれば、ひとつも否定できなかった。
「これをお持ちになって、さっさと消えてください」
そう言って賢者が、俺の前に大量の金塊や宝石を亜空間から取り出して落としていく。地面に投げ出される金銀財宝がむなしい程に月明かりを反射していた。
「……」
いわゆる手切れ金、というやつか。
どう考えてもひとりで持ち切れる量ではない。
むしろ嫌がらせと思ったほうがしっくりとくる。
「あいつは……勇者は何て言ってる……?」
幼馴染のあいつは、俺と同じ孤児院で育ち、光の精霊女王の祝福を受けて勇者になった。今までずっと、それこそ生まれてからずっと一緒にやってきた。
ここから先は魔王領とも言える危険地帯だ。ほとんどの村や街は魔物に支配されてしまっているだろう。
無事な集落があるかもしれないが、それも時間の問題だ。
まともに歩ける保障なんてない。
まともに休める場所もない。
そんな場所に、俺はあいつと共に行くことを拒絶させられたのか……?
「勇者さまは何もおっしゃっていません。それが何よりの答えですわ」
神官が言う。
賢者がうなづいた。
「そうか……」
だったら、俺が直接聞くしかない。
あいつは……今も俺に背中を向けていた。小さいころからずっと一緒だったあいつの背中は、俺なんかよりも、ずっと立派になっている。
それこそ、勇者らしい姿になっていた。
「――なぁ、俺は必要ないのか?」
すがるように。
みじめにも、泣き出しそうな声になってしまった。
賢者と神官が俺を笑う。
それでも、あいつは俺を笑わなかった。
「ここから先は、おまえは足手まといだ」
……短くそう言って。
あいつは――
勇者さまは、こちらを振り向かなかった。
「……そうか。分かったよ」
理解した。
分かったよ。
確かに、俺は足手まといだ。
力は弱いし、剣も振れない。盾を持てるほど丈夫でもなく、魔法も使えない。ましてや知識がある訳でもなく、アイテムを作れる訳でもない。
できることは、盗賊の真似事だけだ。
「これは、おまえにやる」
俺は口元を覆っていた真っ黒な布を外した。途端に真っ赤に変化した布を見て、賢者と神官は驚いている。
そういえば、ふたりは知らなかったな。
この布のこと……
素顔をさらしたのも、これが初めてか。そういう意味では、まったくもって仲間になりきれてなかったのかもしれない。
「いや、おまえが持ってろ。おまえには必要だろ」
勇者はそう答えた。
……分かった。
「そうか。じゃぁな。死ぬんじゃねーぞ」
俺はみじめにも足元に散らばる金塊や宝石を集めてバックパックに詰める。アホみたいに重くて、腰が砕けるかと思ったが、なんとか持ち上げることができた。
でもここで弱音なんて吐いてやらねぇ。絶対に神官と賢者には聞かせない。ポーカーフェイスは昔から得意なんだ。ポーカーなんてやったこともないけど。
それにしても重い……もし、途中で魔物やモンスターに襲われれば確実に死ぬな。
「――……くっ」
そんなことを思いながら、俺はフラフラと勇者たちから離れるように歩いていく。
「さぁ、参りましょう勇者さま」
「足手まといはもういません。人々を救うために急がなくては」
そんな言葉を背中で聞きながら。
俺は、勇者パーティを後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます