第四章

「しっかし、相変わらず凄いメンツでの下校だわよね」

 本日の授業が終わり疾風高校の正門を抜けた委員長は、後ろに続く二人を見て半ば呆れたように言う。

 ゴツ、カシャン、ゴツ、カシャンと重厚な歩行音を奏でながら歩く機械な(奇怪な?)女の子に、自分の身長と同じくらいある大振りな得物を携えた水上保安庁の制服姿の女の子。

 これだけ特徴的な面子を揃えていれば他人ひとの目が気になって仕方ないと思うが、意外にも目立っていないのは、機械神やら水の魔物やらなんらやが跋扈するご時世だからだろうか。

「委員長もバッグを開けたら中身がバールとか中々よ」

「……それも含めてのメンツってことよ」

 一番まともそうに見える委員長ですらそれである。

 委員長が今の状態で一人で歩いていたら巡回中の陸上保安庁の隊員に呼び止められたら言い訳のしようがないが、とりあえず委員長が首から下げてる公認魔法少女としての許可証を見せれば素通りで大丈夫なのは良いのか悪いのか。

 委員長が魔法少女であることは学校関係者も含め、近隣住民にも知られているのだが、それでも女子高生が大バールを剥き身のまま持ち歩くのも色々と無理があるので、普段は隠して持ち歩いている。

 あれから一週間、スズを中心とした世界はごく平穏に過ぎて行っていた。


「また襲われたのスズ!?」

 蛸型怪生物の強襲をなんとか撃退した二人は、一旦学校に戻ってお互いこなすべきことを済ませると、いま一度寮へと向かった。

 往復の途上で再び襲われる可能性もあったが、学校に戻った際に怪生物出現の報告は入れているので、今は陸保の後詰の戦車隊が警戒に走り回っている状態であり、さすがに再強襲はないまま無事に戻れた。

 そうしてようやく帰ってきた(何しろ二人は日中は第弍海堡にいたのだ)スズと龍雅を迎え入れた委員長が、説明を聞いた第一声がそれである。

「もう、心配させないでよ」

「ご心配をおかけしました。体に特に破損箇所はありません」

「……まぁ無事だったのは何よりなんだけど……ていうかなんで村雨さんがいるの?」

 とりあえずスズが無事で安堵した委員長だったが、安心したら安心したでなんで隣に水保の出向守衛がいるのか気になってしまった。彼女の任務日は確か明日ではなかったか?

「明日は任務日で今日がシフト上の休日だったので『今日から行ってくれば』とムムさんが言ってくれたので」

「ああ、そういうこと」

「リュウナさんの操縦する戦車に乗せてもらいました」

「そうなの? なんか良いなぁ~、スズってば行きは疾風弾の専用機で飛んでったし、すごい色々体験してんじゃない、お世辞抜きで羨ましいな」

「でもスズは帰りも空路を使えばそのまま安全に帰ってこれたとは思う。スズを危険に晒してしまったのはわたしの責任」

 頭を軽く下げたままにして、申し訳なさそうな口調で言う龍那。自分が一緒にと誘わなければこんなことにはならなかったのかも知れない。

「そう? でも相手も実は空が飛べたりして、ヘリくらいだったら軽く落とせるくらいだったのかも知れないよ。空の上だと逃げようがないし」

 沈んだ顔を見せる龍雅に、委員長がそんな風に言って励ました。

「……その可能性もあることはあるけど」

 龍那が難しい顔のまま応答する。

 スズの乗った機体を海上で撃墜し、落ちてきたスズだけを回収する。委員長が指摘するようにそんなことが出来る相手だったのかも知れない。

 スズも単体で飛べるのだが、現状では数秒が限度。本当にスズが狙いであるなら、撃墜して後の回収は確かに良い手だ。実は水路と陸路を併用して帰ってきたからこそ、この程度で済んだのかも知れないと考えると、何が一番の判断だったのか良く分からなくなってきてしまう。

「まぁ二人とも無事だったんだからもう良いじゃない。村雨さんも明日は学校でしょ? ご飯食べてお風呂入って、今日はもうゆっくりしなよ」

 委員長が委員長らしくまとめ役的に気遣った台詞を龍那に言い、龍那も「ありがとね」と答える。

「でも明日一日だけとかもったいないよね。でもそれが水保の仕来たりなんだから仕方ないか」

「実は明日以降もしばらくはこちらにお世話になるのよ」

「へ? そうなの? なんでまた?」

「さっき水保の方に連絡を入れた際に、スズの護衛役を仰せ付かりました」

「リュウナさんが護衛になってくれるんですか」

「うん、ムムさんの方にも辞令が来たようで、そう説明されたよ」

 それを聞いたスズは、雪火が色々手を回してくれたのだろうと思考する。顔見知りであり臨時とはいえ登校する学校の守衛なので適任といえば適任である。しかも一番の問題になる強さにしても先ほど証明されたので、これ程うってつけの人物は早々見つからないだろう。

「というわけなので、今回の一件が収束するまではスズの傍にいるので、わたしもしばらくは寮でご厄介になる。寝泊まりは職員枠の部屋になるけどね」

「そうなんだ、ちょっと楽しくなるね」

 それを聞いて委員長が少し心躍らせる顔になる。女子とは何時いかなる時も、同性の友達が増える時は妙に嬉しくなるものだ。

「いやー、それにしても水上保安庁の現職隊員がいてくれるなんて心強いね。スズのお母さんは良い人だ!」

「はい」

「……えーとね、スズさん」

 なんの躊躇いもなく「はい」と答えたスズに、少しガックリ来た様子の委員長。

「はい?」

「あなたの同部屋の人は、一応魔法少女っていうそれなりに強いお人なんですよ。だから『委員長さんが居てくれるから大丈夫ですよ』とか、お世辞のひとつぐらい良いかなーって」

「ああ、そうでした――委員長さんが居てくれるから大丈」

「いや、コピペは良いから」

 うな垂れる委員長。

「……っていうか魔法少女で思い出したけど、やっぱりスズが私たちの仲間の一人だと思い込んで、一人でいる所を狙ってどうにかしようとしたのかな」

 姿勢を元に戻した委員長が、スズと龍那の方を交互に見ながら言う。相手はスズのことを連れ去ろうとしていたのだ。

「スズのことを連れ去って人質として使う……アナログな手だけど、そういうことをするような敵なのかな」

 大変なことになってきたと腕組みして考える委員長。

「ごめん、私がスズのことを連れ出したばっかりに、こんなことに」

「いえ、一緒に連れて行って欲しいと願ったのは私の方ですし」

「……」

 両者ともに責はあるが、まさかこんな事態に発展するとは思わなかったので、どちらが悪かったとも決定付けられない状況でもある。

「いい?」

 それまで黙っていた龍那が口を開いた。

「はい、村雨さん」

 それを聞いて委員長がまるで学級会ホームルームのように名を呼ぶ。

「わたしは、相手がスズそのものを狙っているのではないかと思うの」

「スズそのものが狙い?」

 龍那の意見を聞いて、委員長が当惑するように言う。

「私ですか」

「うん。スズは疾風弾はやてひき重工の最新鋭の試作品……それは他の者にとっては超越技術オーバーテクノロジーの塊ともいえる。だからその技術を手に入れようと」

 龍那は「疾風弾重工の最新鋭の試作品」と言う時に、目配せするようにスズの硝子の瞳を見た。龍那はスズの出自を聞いたのだ。その意見も加味されている彼女の考えなのだろう。そしてそれはもう一人ここいる委員長はまだ知らないことであり、知らせるべきではないことかも知れない。だから龍那はこの場では言葉を濁したのだが、スズもそれで構いませんという風に頭部を少しだけ上下させた。

 機械神から落ちてきた稼動する個体。彼女の希少性を知っているのならば、彼女の捕獲を目的にして狙ってくるのも分からないでもない。

「だからスズの体に詰ってる超技術を手に入れようと? スズを使ってゴーレムでも作ろうってのかね?」

 スズが二回も襲われたのは偶然ではなく、最初から疾風弾重工製自動人形の捕獲が目的であったのか?

 しかし龍那の予想(自分はスズが機械神から落ちてきた者だと知らないことを除いても)だけでは、その目的がいまいち分からず、委員長が首を捻る。

 疾風引重工の最新試作品(厳密には違うが)と、魔術を操る負の魔法生物。なにか繋がらないような気もする。

「私も、素材としては自動人形の私などよりも、精錬された鉄ですとか希少金属レアメタルの方が良いと思うのですが」

「だよね」

 スズも自分が襲われるのであれば、その目的が何なのか判断つきかねているらしい。魔術の触媒にするのなら、自分はあまりにも科学技術が詰りすぎているので、反発反応が起きてしまうのではなかろうかと思考する。

 進みすぎた科学は魔術と同義というならば、高度な科学技術の塊へと魔術を侵食させるのは高度な魔術が必要である筈で、それができるのならば魔術のみで目的のものを作り出した方が効率が良いのではないのか?

「まぁそれはそうとして、スズが狙いなんだったらこんなところにいるのは危ないんじゃないの? もっと疾風弾重工の奥の方でかくまってもらってた方が良いんじゃ?」

 本当にスズの捕獲が目的であるのならば、こんな場所に居て良いのかと、委員長はごく当たり前に考える。

「そのためにリュウナさんが護衛に来てくれましたので」

 しかし水保からの守り手である彼女が居れば大丈夫とスズは言う。

「村雨さんってば、実は超強いの?」

「超強いですよ」

 自動人形から称嘆の声が上がる。自分を守るために使ったあの力の発現をスズは実際に見ているので、その意見は揺るがない。

「……超強いかどうかはわからないけど、今回は遅れをとっちゃったけどさすがに同じ手を二度は受けないわ。それは約束できる」

 龍那がそう答える。

「えーと、詳しく聞いてなかったけど、今回現れた負の怪生物は村雨さんが倒したんだよねぇ? どうやって倒したの?」

「……まぁ、ギリギリのだったから普段はあまり使いこなせていない電磁誘導と重力制御が使えるようになって、その二つの組み合わせで怪生物の組織を内圧で吹き飛ばしたりとか、でもいつもそれが出来るかというとちょっと……」

「なんぞそれ!?」

 あまりの言葉の羅列に委員長も言葉使いが少しおかしくなった。

 戦いに身を投じるようになって電磁がどうのとか重力がどうのとかは学んできたので、その意味は判る。そして人間業じゃないのも。

「え? 村雨さんって魔法少女なの? 母さん以外にも居たってこと?」

「ううん、私の場合は魔力ではなくて自分の体から直接発現させているので魔法少女ではないよ。魔女の知り合いはいるけど」

「うちの母さんなんて37歳まで現役魔法少女だったわよ! そっちの方が問題多いわよ!」

 問題が多すぎて龍那の最後の言葉はスルーされた。

「というかその電磁なんたらとか重力なんたらとかって、練習すれば使えるようになるもんなの? 私も魔法少女なんだからちょっとは普通の人とは違うし、使えるんだったらさっさと覚えてあのロクデナシ無しでいいように独り立ちしたいんだけど!」

「さぁ? わたしのは生まれつきだし。それに委員長はせっかく魔法少女なんだから、もっと魔術の方を覚えた方が良いと思うけど」

「私はどうですか?」

 スズが自分の機体構造でも出来るものなのだろうかと訊いてきた。

「スズの場合は電磁誘導も重力制御も練習したら使えるよね。わたしの育親も使うし」

「とにかく一晩じっくり聞こうじゃないの! 夜は長いわ!」

「消灯時間がありますが」

「電気消して喋ってる分には怒られないわよ!」

「わたしは職員用の部屋だけど」

「村雨さんはスズの護衛でしょ! 何なら今日から三人部屋でも良いわよ!」


 そんなこんなで新たに村雨龍那という仲間が一時的に増え、新たな一週間が始まったのだが、スズを連続して付け狙ってきた怪生物はそれ以降現れることがなく、平和な空気のまま時が過ぎていっていた。

 変わったことといえば水曜日に身体測定があったことくらいだろうか。

「ああそうだ二人とも、身体測定があるのって知ってた?」

 火曜日の放課後を過ぎて全員が落ち着いた時を過ごしている時間帯。

 寮の部屋の中でテーブルを囲んでコップで水を飲んでいたスズと龍那は「はい?」と同時に振り向いた。ちなみにここはスズと委員長が生活している部屋なのだが、龍那もスズの護衛任務があるので、自分の部屋のごとく顔を出している。

「しっかしそうやって二人して同じ水を飲んでるのも凄い光景だわね」

 スズは口部から冷却水を補給することが出来るので、寮にいる時間はそこから体内に水を入れている。龍那もジュースやお茶などには特にこだわりがないみたいなので、スズの使っているボトルから少し別けてもらって一緒に飲んでいた。ちなみに入っているのはただの水道水(@神無川県)である。スズにとっては天然水などよりも浄化槽で殺菌された水が一番良いらしいのでこれである。

 自動人形が冷却水用に補給している水を、人間である龍那が特に気にせず同じ物を飲んでいる。冷静に考えてみれば確かに凄い光景である。

「そういうわけだから、明日は身体測定だから体操着忘れないようにね。忘れたら下着でうろつく羽目になるわよ」

「あの、私は下着でも全裸でも構わないのですが、体の計測自体は疾風弾重工の方で、各部位の採寸をミクロン単位で行ってもらっているのですが」

 スズの複製品(妹たち)を作る上でもそれは重要なことなので、頭頂高に全備重量も含めてかなり詳しく計測されている。

「わたしは守衛って職員なんだけど、わたしも身体測定やるの?」

 龍那の方もまた別の意味で、身体測定は第弍海堡に来たときにドック並みに詳しく行われたので当分必要ないのであるが。

「二人とも別の所で身体測定は済んでるかもしれないけど、今は疾風高校の生徒でしょ! 生徒なら生徒らしく校則に従いなさい!」

 煮え切らない二人に、委員長が委員長パワーを持って言いつける。

「はい」

「わたしは生徒じゃないんだけど」

「村雨さんはスズの傍にいなきゃいけないんだから一緒に受けるの!」

「はい」

 それはもっともな意見だと、二人とも委員長のご威光に頭を下げる。しかし龍那はともかくとして、スズの場合は再計測してもどこか変化している部位など全く無いのだが。いや、二回も戦闘に遭遇しているので、体のどこかが少しは削れているのかも知れないが。

「しかしこうやって見てると、二人はどことなく似てるっぽい雰囲気はあるよね」

「そう?」

「?」

 軽くしょんぼりしている二人を見て委員長がそんな感想を持った。そういわれたスズと龍那はお互い顔を見合わせる。

「姉妹……というよりも従姉妹いとこっぽい雰囲気を感じるね」

「そうみえる?」

「さぁ」

 一方は自動人形で一方は人間であり、顔の造作(スズの場合は造形)も違うのだが、それでも似ていると思われるのは、そういう雰囲気だからだろうか。

「村雨さんのお母さんと、スズたち自動人形オートマータの開発者が実は姉妹とかね」

「ああ、それだと本当に従姉妹ね」

 委員長はスズの本当の出自をまだ知らないのだが、かなり良いところを言い得てると二人も思ってしまう。

 数千年前か数万年前かも不明な自動人形オートマータが作られた頃の設計者と、龍那の実母とが姉妹であるのは普通はありえないのだが、妙に納得してしまう意見だ。

「千年くらい前に会っていたかもしれないっていう第一印象は、結構合っているのかもしれませんね」

「そうね」

 スズと龍那がそう改めて言い合う。


 そんなほのぼの(?)した雰囲気で過ごした翌日、三人の所属するクラスは身体測定を迎える。

「さぁ、行くわよ!」

 普段はベッドが数個置かれているだけの保健室に、女子たちの熱気が満ちる。

 今日のために体を磨いてきた女戦士たちの前で、統率者たる委員長が雄々しく号令をかける。眼鏡のレンズがきらーんと光った。

「おう!」

 体操着を脱ぎ捨て、中身を曝け出し決戦の装束となった戦士たちが、掛け声勇ましく応える。

「――」

「……」

 そんな身体測定に望むクラスメイトたちから少しはなれたところで、スズと龍雅がその光景をぽかーんと見つめていた。龍那はさすがにスズの護衛があるのでジャージ(室内の隅に艦颶槌が転がっている)、スズは体操着の下は何も着用していないので自動人形の基本状態すっぱだかである。

「体を計測するだけなのに、なぜ他の人間の皆さんはそんなに気合が入っているのですか?」

 至極真っ当な問答をスズが言う。

「まぁ体重というのは女の子にとっては永遠の悩みなので」

 その女の子の一人であるはずの龍那が、まるで他人事のようにこの異様な光景の説明をする。

「体重? 全備重量のことですか?」

「人間は衣服をパージできるので、船でいうところの基準排水量みたいなもの」

 龍那も龍那でなにか説明がズレている部分もあるが、彼女は現時点では水上保安庁所属なので、そっち方面の知識で語っている……ということにしておこう。

「その、重量がどうなると良いのでしょうか?」

「前回の測定時よりも軽いと嬉しくなります」

「軽いと、嬉しい?」

 人間とは軽量化されると嬉しいらしい。増加ユニットを装着して重量が増えた方が相対的に攻撃力が上がる自動人形オートマータにとっては、軽量化という概念は無く、またそれで嬉しくなるというのも分からない。

「つまり人間とはほんのちょっとでも軽くなっている方が強い?」

「強い弱いで説明するのも変だけど、その論法でいくと確かに強いわね、特に女の子の場合は」

 体重が軽くなった優越感に浸れるわけだから、確かに強弱で言えば強である。

 基本的には重量級の戦闘兵器の方が、軽量級兵器よりも強力である方が多いのだが、人間はその逆であるらしい。

「リュウナさんは普通の人間ですけど体重とかは気にしないのですか」

「わたしは体重を気にすると言うよりも、日々の体調を気にする方が大きいのよ」

 手袋を嵌めたままの右手をぎゅっと握りながら龍那が答える。

「体重が重くても前の日よりも良く動けるのであれば、わたしにとってはそれが普通」

 自分のことをそんな風に客観的に見つめていられる処は、自動人形自分たちの行動に似ているなとスズは思った。いや、あれだけの強い力の能力者なのだから、自分を外から見られる力は重要な要素なのかも知れないが。

「そういうところが委員長さんがいった私たちは似てるという意味なんですかね」

「そうかもね」

 しかしスズはそれとは別に、女の子らしく行動するのはどういうことなのだろうとも考えていた。

「――」

「では始めましょうか。秋山さんからどうぞ」

 養護教諭が身体測定の開始を告げた。凄まじい威圧感を放つ悪魔の機械――体重計がその中心にある。全ての事柄を破壊する破壊神のように、それは女子生徒の目には映った。

「はい……」

 スズが見ている前で、死地へとおもむくかのような悲壮な表情で出席番号一番の女生徒が呼ばれる。彼女は体重計にゆっくりと両足を乗せる。そして――

「えーと、秋山さん、57キロ」

「ぐはぁっ!?」

 その数値を伝えられた瞬間、秋山氏が吐血した。

「あきやまーっ!」

 体重計から転げ落ちるようにくず折れる秋山氏の周りにクラスメイトが集まって助け起こす。

「……おかしいな……昨日まで豆腐ダイエットで、体しぼってきたのに……」

「秋山……豆腐は大豆食品だから、意外に高カロリー食品よ」

「……まじで」

 その衝撃の真実を知った秋山氏の首がカクンと折れた。

「あきやまーっ!」

 こと切れた(注、死んでません)秋山氏の周りにみんな集まり、華々しく(?)散っていった仲間に涙する。

「秋山の死(注、死んでません)を無駄にするな! 次、荒巻!」

 眼鏡を上げて涙を拭っている(ホントに泣いてる)委員長が、次なる戦士の名を告げた。

「いってきます!」

 みんなから「がんばって!」「お前ならだいじょうぶ!」などと声援を送られながら、荒巻氏は意を決して体重計に乗る。そして――

「えーと、荒巻さん、59キロ」

「ぼふぉっ!?」

 養護教諭の無常な(事実を冷静に語っているだけなのだが)報告に、第二の戦士が散っていった。

「あらまきーっ!」

 そして、やはり同じように散っていった荒巻氏の周りにみんな集まり、また全員で涙する。

 そんな目の前で物凄い大スペクタクルドラマが展開されているのを、やはりスズと龍那がぽかーんと見つめていた。

「あの、秋山さんも荒巻さんも、過度に肥満であるとか過度に虚弱である体型には見受けられないのですが」

「さっきも説明したとおり、体重とは女の子が永遠に戦う相手なの」

 冷静なスズの問い掛けに、龍那も冷静に返している。ちなみに最初に散った秋山氏は既に復活しており「今日は腹いっぱいケーキ食っちゃるぜー」と、最大の難関である体重測定を終えて、安堵した顔を見せていたりする。そこがまたスズには良く分からない。

「――ならば私もダイエットというものをしてみた方が良いのでしょうか」

 スズが小さく呟く。

 観測してわからないなら実践あるのみ。なんでもやってみなさいとは母さんからもいわれているのだし。

「ちょっと私も強化対策をしてみようかと思います」

「はい?」

 スズはそう告げると、三番目の戦士がやっぱり敗れ去り阿鼻叫喚に包まれている保健室を一時去った。


「次、疾風弾はやてひきさん」

「はい」

 再び保健室へと戻ってきたスズは、自分の名が呼ばれたので一歩前へ出た。

 今まで体重計を前にして散っていった戦士たちとは、また違う意味で注目が集まる。

 スズの体重(重量)はクラスメイトのほぼ全員が知っているのではあるが(転校初日に椅子を壊すほどであったので)、そのスズが乗ったら体重計が一体どうなるのかということに、興味津々のようである。

「いきます」

 一応自分も気合を乗せた風な口調でスズが悪魔の機械(体重計)へと挑む。

 まずは左足を乗せてある程度バランスを取って体を固定させた後に、義足である右足を乗せる。

 スズが全重量を乗せた瞬間、物凄い勢いで針が回った。クラスメイト全員から「おお」とどよめきが起こる。

 このクラスにもぽっちゃりとした女の子は数人いるが、彼女たちが乗ったときよりも凄い勢いで針が回ったので、ふとましい彼女たちはその光景を見てなんだか安心した。この機械の彼女とは生涯に渡っての親友になれそうな安寧を得た。彼女とは是非とも焼肉屋巡りをしてみたいと思う。行ったら行ったでスズは水しか飲めないのだが。

「えーと、疾風弾さん、149.5キロ」

 あくまで生徒のただの一人として、養護教諭がその数値を簡潔に告げるが、改めて告げられた数値はやはり凄い。

「やりました、500グラムダイエットできました」

 しかし続いて飛び出したスズのその言葉に全員が度肝を抜かれた。

「スズちゃんってばダイエットとかできんの!?」

「いや、始めて挑戦してみたんですけど、やればでき――」

 スズがそこまで口にした時、突然バランスを崩して体重計から滑り、床に落ちた。保健室が揺れ、女子生徒たちがいっせいにタタラを踏む。

「うわっ」

「きゃぁっ」

「スズ!?」

「スズ!」

 とりあえず仰向けに転がったスズの下に委員長と龍那が駆け寄る。

「スズいったいどうし、熱ぅ!?」

 とりあえず胸部辺りを触ってみた委員長が、そのあまりの熱さに思わず手を離した。

「スズの表面装甲が異常加熱をおこしているね」

 指先で軽くスズの各部を触れて確かめながら、龍那が診断した。

「冷却水が不足しているように思うけど」

 戦車のエンジンや各部モーター部分も回し続ければ過熱を起こし、上手く動作しなくなる。スズはこの異常加熱によって関節が上手く動作しなくなってバランスが取れなくなり倒れたのだろうと。

「内蔵の水タンクが破損した? その割には液漏れは見受けられないけど」

 護衛役になるに際してスズの体の構造はある程度説明されたのか、龍雅が現状態を観て訊く。

「いえ、ダイエットのために内部の水を抜いてみました」

「だいえっと!?」

 その場にいる全員が驚きに声を合わせる。

「なに莫迦なことしてんのよ! 無茶なダイエットが一番体に毒なのよ!」

 それを聞いて、スズは自動人形とかそういうのは関係なく、無謀な行いに走った一人の女の子として、スズのことを委員長は叱った。

「でもみなさん体重のことを気にして」

「倒れちゃ意味が無いでしょ!」

 後ろで聞いている生徒の中の数人の中に、自分にいわれたような申し訳ない顔になっている子もいる。激しい減量を強いて今のスズのように倒れ、迷惑をかけた過去があるのだろう。

 委員長は扇動するようなことを最初はやっていたが、普段から減量しろとクラスメイトに進めているわけでもない。最後のこの瞬間に体重計に乗る勇気を搾り出すため、あのようなことをしているだけだ。

「先生水ありますか!」

「ここに水差しが」

 委員長が早急に冷却水の補給をしてやらないとと養護教諭に訊くと、机の上においてあった水差しを手渡された。病人に薬を飲ませる用に、わりと普段から保健室には飲料水が置いてある。

 水差しの注ぎ口をスズの口部にあて、中に水を流しこもうとするが、殆ど零れてしまった。

「もうちょっと口大きく開けられないの!?」

「無理です」

「しょうがない私が口移しで」

「それは大変有り難いのですが、私が委員長さんの初接吻ファーストキスの相手になるのは非常に申し訳ないのですが」

「なんでそんなこと知ってんのよ!」

「スズ、お腹の方に本来の給水口あるよね?」

 慌てる委員長の隣りで、龍那が冷静にスズの機体構造を示した。

 スズは腹部の辺りに手を持っていくと、そこにある表層の一部を開く。車の給油口を極小化させたような部位が露出する。

「ちっちゃっ、これじゃ口の大きさと対して変わらないじゃない!」

「普段は専用の器具で水を入れますし」

「先生、漏斗じょうごみたいのありますか」

 それでも口部よりはましなのでここから入れようと思うが、しかしまだ小さいので液体を瓶に詰めるあの道具があればと養護教諭に訊くと

「あるわよ」

 養護教諭は硝子棚の方に行くとそこに置いてあった小さめの漏斗を取ってきて渡した。液薬を混ぜたりするのに必要なので置いてあるのだろう。それにしても何でも置いてあるんですね保健室って。スズの関節用のオイルなども訊いたらすぐ出てきそうな勢いである。

 委員長は漏斗の口をスズの給水口に刺すと、水差しの水をゆっくりと入れ始めた。後ろの女生徒たちが固唾を呑んでそれを見守る。容器には結構な量が入っていたが、全部スズの体の中に入ってしまう。入れた直後から冷却に使って消費しているのだろう。機体の奥から水が蒸発するような音も微かに聞こえる。

「だいじょうぶ?」

「はい、過熱した間接も冷却が終わりましたので通常機動なら問題なく可能です」

 スズはそれを証明するように、漏斗を取ってもらうと給水口を閉めて上半身を起こした。確かに異常な動きは見られない。

「まだ装甲表面には熱が残っていますが放熱も兼ねているのでお気になさらずに」

 難しい言葉の羅列に多くの女の子は「???」だったが、スズがもう大丈夫といってるのはわかるので、全員が胸を撫で下ろした。

 その皆の心から安心したといった表情を見て、スズがまた分からなくなる。自分は自動人形であるから、人間ではない。その一体が機能不全になり、それが修復しただけで、何故人間はそんな顔になるのか。

「そんなに心配していただかなくとも、私は――」

「ともだちのことを心配するのは当たり前でしょ!」

 私は機械ですから。そうスズが続けようと思った処を、委員長が遮った。

「……ともだち」

 委員長の口から出てきた言葉を、スズも口にする。

「あなたはもう、うちのクラスの大切な一員の一人よ。それはもうともだちってことなの、ね?」

 委員長が後ろに振り向くと、クラスの他の女の子たちも全員が大きく頷いた。

「?」 

 スズがみんなの方に顔を向けても、全く異議なしという表情をしている。

「――」

 スズが今度は龍那の方に顔を向けると、自分もその同意を表すように微笑んだ。それに元々彼女は、スズと同じ水を飲んでいたり、スズと従姉妹といわれても変な顔をしなかったわけなので。

「――」

 既に計測が終わっている自分の体の採寸を測るだけという簡単な行事であったはずなのに、スズの記憶回路にはまた理解の難しい問題が追加されることとなってしまった。

「――ともだち」


 そんなこんなで一週間が過ぎ、また土曜日授業が終わって、スズたちにはまた休日が訪れていた。

「よいしょ」

 寮の玄関に入ると、スズはまず足を洗う準備をする。庭にある水道でまずはバケツに水を汲んできたスズは、廊下の端に座ってそこで足と義足を洗い、左足にはスリッパ、義足にはカバーをつけてようやく中に入る。中に入っても洗った水を洗い場で捨てたりとまだやることはある。

「しかしそうして足を洗っているのを見ると、毎回難儀なことをしているように見えるわね」

 一足先に下駄箱に自分の靴を放り込んだ委員長が、バケツの水で左足を洗っているスズの仕草を見ながら言う。もちろん龍那はスズの護衛役であるから委員長の隣で静かに待っている。一度スズのことを手伝おうとしたが「毎日のことなので」とスズに言われたので、自分がいる時だけ手を出しても拙いのだろうと、無防備な常態のスズを静観する護衛役に徹することにしている。

「私にとっては必要なことですので」

 機械神の中で動き回るのが主目的である自動人形オートマータにとっては、土足禁止の場所に入り込むなど設計段階には盛り込まれていない稼動状況なので仕方ない。

 しかし床に直接腰掛けてそういうことをしているのを見ると、やはり大変だなと思ってしまう。スズは義足でもあるので。

「椅子とかあったらまだ楽になるのかな?」

「椅子は――私には壊した経験がありますので、ちょっと」

「でも椅子とかに座れば腰の位置が高くなるんだから、少し楽になるんじゃ?」

「そうですね、今よりは素早く作業を終えられるのは確実だと思います」

「あの、椅子がだめなら箱みたいなものを作ったらいいんじゃ?」

 それまで黙っていた龍那が提案した。

「箱?」

「座って休息する用途じゃなくて、腰掛けて短時間の作業に用いるのが主目的なら、別に椅子のような座り心地はいらなくて頑丈さを優先すれば良いんじゃない?」

「それだ!」

 とてつもないアイデアを思いついたように、委員長がうなった。

「それに村雨さんがいうように、椅子とかめんどくさい作りじゃなくて箱とか簡単なものなら私たちでも作れるんじゃないの?」

「!」

 なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだろうと、スズも思う。自分の記憶領域にある事柄を組み合わせれば、作業時間短縮を図れる道具の作成などは、考え付けるはずなのにである。

「そうと決まれば善は急げ! 二人とも町に繰り出すわよ!」

「今からですか?」

 折角足を洗浄して室内歩行装備仕様となったのにとスズは思考したが、仕方ない。

「そうよ、善は急げっていったでしょ。村雨さんも良いわね?」

「わたしはスズの護衛だからスズが行くところにはどこへでも行くよ」

 そうやって任務を最優先にする風に言う龍那だが、どことなく嬉しそうな顔をしている。

「よし、みんな着替えたら駅の方にあるストアに木とか買いに行こう。まずは材料集めね」

 さっそく委員長が今後の予定を大まかに立てた。

「あとなんか必要なものあるかな」

「金槌や鋸は寮にもあるだろうからあとは釘ね。紙やすりもあった方が良いかも。金槌と鋸がここに無い場合は戦車備え付けのものをわたしが取ってくるわ」

「さすが村雨さん、頼りになるぅ~」

「あの、私はこの制服しか着るものがないんですけど、このままで良いでしょうか」

 委員長が「着替えたら」と言うのだが、自分には今のところこの制服しか用意されていないので着替えられない。他には夜着くらいしかない。

 スズにとっては別に衣服など保護カバー程度の意味しかないので装甲表面剥き出しでも構わないのだが、それでは大騒ぎになるのはちゃんと知っている。

「あ、そうだったね。じゃあついでだからスズの服も見に行こうよ」

 そんな風にスズが言うと、委員長の方から意外な提案が追加された。

「い、いえ、私は服など別に――」

「ああ、お金の心配? なんなら私がプレゼントしてあげるよ」

 スズの戸惑いが金銭面であると勘違いした委員長がそう言う。

「こう見えても政府公認の魔法少女だからね。水の魔物を倒した時はちゃんとお給料が出るのよ」

「だったらわたしも半分出すよ」

 護衛な彼女の方からも声が上がった。

「今までは限られた旅費支給しかなかったけど、水保の臨時隊員になったらお給料もらえるようになったんで結構余裕あるのよ。普段は使うあてが無いんで預金残高が凄いことになってるし」

「そういうことなら私ら二人で半分こずつ出し合ってスズにプレゼントってことにしよう」

「良いね~」

「――」

 金銭に関して言えば、養母である疾風団雪火の方から『必要な物を買う場合があったらこれを使いなさい』と、真っ黒いカードを一枚渡されていた。限度額無制限のアレである。スズはその気になったら空母一隻とか買えてしまう訳である。疾風弾の名とはそれ程のもの。

 しかしそれと同時に『でもね、あなたに何か贈り物をくれるって誰かがいって、その人が本当に好意的にしてくれていると感じれたのなら、それは素直に受け取りなさい』ともいわれていた。雪火も雪火なりに養女の健やかな情緒成長は願っている。

 スズがその過程で欠損している記憶を修正できたら、機械神の中への帰還を最優先させて姿を消してしまうかも知れないが、それを邪魔したいとは思わないほどに、雪火の中でもスズの存在は「娘」として大きくなってきているのだろう。そしてその養母の感覚が、更に人間が持つ感情というものを、自動人形スズの中で分からなくさせる。

「――」

 そして今目の前にいる二人は、大変嬉しそうな顔をしていた。自分の保有する金銭を自分以外の事で消費すると言うのに。

「――」

 多分それが好意というものなのだろうとスズもここでは判断して、自分が持っている真っ黒いカードのことは黙っていた。


 夕暮れを過ごしすぎて宵の口になった頃、三人は再び寮へと帰ってきた。

「本来の目的を忘れてしまっていたわ」

 私服姿の委員長が、今日二度目に寮の玄関を抜けて疲れたように言う。

 まずは駅前のストアに向かい箱制作のための材料を入手した一行は、そのまま洋服店へと直行する。まるでそちらの方が主目的のように。

 そうしてスズをマネキン代わりにしてあれこれ選んでいたら、日が暮れてしまっていたのだった。

「――」

 足を綺麗にして上り框に上がり室内歩行仕様となったスズは、今の自分の姿を見下ろしてみる。

 秋らしい落ち着いた色合いのワンピース。熱さや寒さからの保護があまり必要が無い自分にとっては、ただの埃カバーにしかならないのが申し訳ないくらいの一品。

 そうして両脚にはオーバーニーソックス。

 スズは右脚の義足は元より、左足から下も人間とは違って常に固定されているので普通の状態では履けないのだが、ダメ元で裾上げをしてもらえるかと頼むと「できますよ」といわれたので両脚分を加工してもらった。

 ロングパンツの裾上げの要領で短くしてもらった太ももと膝しか覆わないオーバーニーソックスをスズは右脚に履いている。左の方は足首から下を切って短くしてもらった。なんだか両脚ともレッグウォーマーのようになってしまったが、スズの脚部に履かせるのだから仕方ない。

 そんな風に三人で服選びを満喫してしまっていたら、あっという間に夕方の時刻となってしまい、本日中の箱制作はできなくなってしまった。まぁ、楽しい時とは過ぎるのが早いものなので、仕方ない。

「明日は一日休みだし、いっか」

 廊下に上がり自室に戻ってきた委員長が、買ってきた材料を降ろしながら言う。

「三人がかりで作ればすぐにできるよ」

 とりあえず部屋までついてきた龍那が長袋に収めた艦颶槌を床に置きながら言う。今の彼女はスズの護衛なのでこれを常に持ったままなのは仕方ない。何か言われても彼女は水上保安庁の臨時隊員であり、疾風弾重工の新型試作機(表向きはそうである)の直衛と言う任務実行中なので問題は無いはずなのだが、女性が長重武器を持ち歩いているという物騒な絵図らはどうにもならない。

「そうよね。三人寄れば文殊の知恵ってね」

「三本の矢じゃなかったっけ?」

「三匹の子豚?」

「まぁ三人寄ればなんとかなるってことよ!」


 明けて翌日。

 朝食を済ませた三人――スズは相変わらず水のみだが――は、午前中の早い時間帯から寮の庭に集合していた。スズと委員長は丸首シャツにハーフパンツの体操着姿、龍那はいつものもっさりジャージスタイル。スズの場合は実は素っ裸の方がこの手の作業では効率が良いのだが(元々その用途で作られているものであるし)こういうのは何ごとも形から入るものである。

 ちなみに疾風高校は実はハーフパンツとブルマが選択式だったりするのだが(ハーフパンツだと日焼け跡が格好悪いと過去に女生徒から猛抗議があったため)二人とも普通にハーフパンツである。

「道具OK?」

「いつでも」

 龍那が寮備え付けのもの(ちゃんと揃っていた)を借りてきた大工道具一式が準備万端であることを告げる。

「材料OK?」

「こちらもいつでも」

 昨日買ってきた板や太い角材や釘もちゃんと揃っていることをスズが告げる。

「じゃあ、作業開始!」


「作業終了! ……あれ?」

 まだまだお昼にも程遠い、本物の大工であれば午前中の休憩時間くらいなのではないかという時間に、30立方センチほどの正方形の箱ができてしまっていた。

「……というかなんでこんなに早くできちゃうの?」

 使いかけの紙やすりを掴んだまま、唖然とした顔で委員長が言う。

「元々私はこの手の工作作業を行うために作られた自動人形ものですし」

 余った材料を片付けながら、なんでそんなに不思議そうな顔をしているのですかといった風にスズが言う。彼女の場合、機械神の中ではその多くが鉄を加工する仕事なのだろうから、自動人形オートマータの作業能力であれば木工など一瞬で終わってしまうだろう。

「わたしも戦車の整備をいつもしてるから、この手の作業も慣れちゃった」

 龍那も龍那で今は戦車乗りなのだから整備はお手の物であり、修理用の代替品をその場にある材料で作ったりと、簡単な工作も普通にこなせる。

「……あの、今日一日かけてキャッキャウフフって感じに仲良く手作りするんじゃないの?」

 仲の良い三人が寮の庭に集まった日曜日。そこで楽しくお喋りしながらの外での作業。

 穏やかな秋の休日を過ごすには絶好の予定であったと思ったのに、自分以外の他二名が女の子が普通苦手とする工作能力に長けた者たちだとは迂闊であった。三人寄ればなんとかなったが、なんとかなりすぎである。

「じゃあ今から戦車の木模型ソリッドモデルでも作る? わたしの乗ってるいつもの車両でよければ図面引くよ、何分の一が良い?」

「いや、もういいです……」

 それを聞いて工作が続くのであれば任せろと言わんばかりに、鋸などの用意を再び始めたスズの姿を見て「こんなの女の子の過ごす休日じゃない」とガックリ来てしまった委員長は、もう今日は解散で良いやと思ってしまった。

「まぁとりあえずできたこれを設置してみるか、玄関に」

「そうね」

 三人は道具と材料まとめて邪魔にならない場所に置くと、そのまま寮の玄関へと向かった。完成品はこれから毎日使うことになるスズが持っている。龍那が途中でバケツに水を汲んで後に続く。

「どこに置く?」

「下駄箱と上り框の間に少し隙間が開いてるよね」

 前はここに壺型の傘立てがあったらしいのだが、以前誰かが割ってしまったので空白のスペースとなっている。

「そこで良いんじゃない?」

「ではさっそく」

 スズは身をかがめると、上り框と下駄箱の間の小さいスペースにそれを置いた。三人共同制作による箱は若干の余裕をもってそこにはまった。

「ぴったりね」

 自分で作った物でもあるのだけれど、それでも感心するように龍那が言う。

「じゃあさっそく使ってみなよスズ」

「了解です」

 スズは上り框と下駄箱の間に置いた箱の上に静かに腰を降ろした。野太い木材を選んで支柱にしているので破損はないと思うが、それでもいきなり壊しては面目ないので慎重だ。

「良い感じです」

「どう? ぐらぐらしたりとかしない?」

「それも大丈夫です」

 使い込んだらどこかがズレてくるのは仕方ないが、完成直後のこれにそれが無いのであれば当分は大丈夫。

 手製の箱の強度を試したスズに「どうぞ」と水入りのバケツを龍那が手渡す。スズは「ありがとうございます」と受け取り、いつものように足と義足を洗い始めた。

「どう、スズ?」

「凄い楽です。作業がかなり迅速になります」

 洗ったらそのまま上り框の方に綺麗になった足を乗せられるので非常に効率が良い。箱一つでこんなにも作業能率が変わるのだから不思議なものだなとスズも思考する。

 通常の倍以上の速さを持って左足と義足を綺麗にしたスズは、床を傷つけないようにゆっくりと板の間の廊下に上がった。

「スリッパとカバーは?」

「すみません、試用だけだと思っていたので庭の方です」

「……考えてみたらスズにも下駄箱は必要だよね」

「そうよね」

 委員長と龍那が顔を見合わせる。二人とも同じ意見だ。

 スズは靴を履かない(履けない)ので、下駄箱の使用は必要ないとこの女子寮では今まで与えられていなかったのだが、考えてみたらスズの場合は皆のように外履き用では無く、スリッパと義足カバーを入れておく上履き用の物が必要である。

「じゃあ残った片付けが全部終わったら、その辺りのことも寮母さんのところへお願いに行こう」

「そうね」

「何から何まですみません」

「いいっていいって。困った時はお互い様よ。私たちともだちでしょ」

「――」

 委員長は隣の龍那に庭を全部片付けて来ようと促すと、二人で玄関を出ようとした。

「だったら私も」

 そんな二人にスズも着いていこうするが

「せっかく足を洗ったばっかりなんだからスズはいいってば。そのまま先に部屋に戻ってな。ゆっくり歩いてけばカバー無しでも床も傷つかないでしょ」

 委員長はそういうと龍那を連れて、最終的な片付けのために庭の方に戻った。

「――」

 しかし一人で戻る動作には移りたくないと思考したスズは、二人が戻ってくるまでこの玄関先で時を過ごすことにした。

 上り框と下駄箱の間に置いた箱。

 自分たち三人――ともだちと呼んでもらえた仲間と一緒に作った小さな作品を、スズはいつまでも見ていたい気分だった。

「これが嬉しい、という気持ちなんでしょうね……」


 その日の夜更けになり、雪火の空いている時間に合わせて迎えに来たパワードリフト機に乗り込んだスズは、第弍海堡を訪れていた。

 この機体には移動中に護衛をする者が乗り込んでいるので、龍那は寮の方で休んでいる。こういう機会にでもちゃんと休ませておかなければ、いざと言う時に疲弊していてはどうにもならないので、その辺りはちゃんと交代要員が配置されている。

「お帰り、我が娘よ」

 雪火は今回は機械使徒の格納庫で待っていたので長い通路と昇降機エレベーターを一人で進んで、ここまで辿り着いた。

「ただいま戻りました」

 雪火に迎え入れられたその場所では、スズの複製品たちの動作試験が行われていて、雪火はそれを視察していたらしい。

「私の妹達は動くようになったのですか?」

「簡単な歩行とかはできるようになったけど、あなたみたいに複雑な動きは全然駄目ね。敵をぶん殴るとか単純な動きだったら大丈夫みたいだけど、それじゃ意味が無いし」

 スズが蛸型怪生物との戦いで発揮した戦闘記録も、この複製品たちには既に反映されているのだろう。しかしあくまで彼女たちは機械使徒を動かすための作業機械なので、戦闘人形として配備可能となっても本来の必要用途からは逸れてしまう。

 作業員が制御盤コンソールに入力するごとに複製品たちが何がしかの動きを見せるのだが、やはりそれが工場に設置されている自動製造マシン以上の動きをしていないのはスズにも分かる。

「どう、学校生活は?」

 そんな、全く進展の見られない疾風弾重工製自動人形の製造風景の視察に飽きたのか、雪火がスズをここまで呼び寄せた本来の目的を振った。

 スズは水曜日にあった身体測定での失敗や、今日三人で作った箱など、今まで雪火が忙しくて会えなかった時間に起こったことを、包み隠さず全部報告していく。

「というかあなたがダイエットって……なんか良い感じに毒されてきてない、みんなに?」

 その水曜日の一件を聞いて、さしもの疾風弾財団総帥も呆れ顔を隠せない。

「それとあなたは貴重な稼動状態にある自動人形の一体なんだから、そんな無茶しちゃ駄目でしょ」

「すみません」

「まぁ私の言いつけを守って色んなことにチャレンジしてくれるのはありがたいけど、あなたが破損しない程度にほどほどにね」

「了解です」

 今スズは雪火から減量のことを厳しく注意されたのだが、以前にもっと危険な状態にあった怪生物との戦闘の時より厳重に注意されたような気がしていた。

 注意に要する危険度がまるで反比例しているとスズは思考するのだが、なぜ逆なのだろと更に沈思する。

「そういえば母さん、私始めてプレゼントというものをいただきました」

 しかし報告するべきことはまだあるので、スズは答えの分からない思考を途中で打ち切り、次の話題へ切り替えた。

「え? マジで!? なに男の子から? 告られた?」

「同じ部屋の委員長さんと、護衛をしてくれているリュウナさんからです」

 養母からの矢継ぎ早の質問を、養女はあまりにも鮮やかにかわす。

「なんだいつものメンツか……でも、その二人からプレゼントってのも良い話だわね。なにもらったの?」

「服を」

「マジで!?」

 そういえば自分からはスズには私服というものを用意してあげることが無かった事実に(寝巻きは寮母が用意してくれたらしい)、雪火は二人に先を越された悔しさを少し覚えたが、スズと一番仲良くしてくれる二人からのものであるから悪い気はしない。娘を嫁に盗られたような良い意味の悔しさだ。

「でも今日はその二人がくれたプレゼントを着てきてくれたわけじゃないんだ……」

「学生は制服が礼服だと記憶領域にありますので、それに従ったまでなのですが」

「あ、そっか。じゃあ何か私用で機会があればちゃんと着てきてよね、母さんも見たいから」

「はい、お約束します」


「ただいま戻りました」

 本日の授業を終えてスズが寮へと帰ってきた。

 ここへは委員長ともちろん護衛の龍那と一緒に帰ってきたのであるが、直前になって「ちょっとやることがあるので」と二人してどこかに行ってしまったので、今はスズ一人である。

 右手の鞄、左手に水の入ったバケツといつもの帰宅スタイルで玄関のドアを通り抜けたスズは、自分用の箱の前に辿り着いた時、自分の予測範囲外の光景に遭遇し、思わず停止してしまった。

「――」

「スズお待たせ……って、あれ?」

 下駄箱と上り框の間のスペースを見下ろしたまま固まっているスズを発見して何かあったのかと龍那も隣に立つが

「どうしたのスズ――」

 龍那もそこまで言って動きが止まってしまった。

「――」

「……」

「いやーお待たせお待たせ……って、ふたりともどしたの?」

 下駄箱と上り框の間のスペースを見下ろしたまま二人して固まっている姿を見て、何があったのかと委員長も近づいてくる。

「……あ」

 二人の間から顔を出すようにした委員長は、何故二人が固まったままなのかという理由を発見した。

「猫?」

 スズが足を洗う時に腰掛けるように作った箱の上に、猫が一匹気持ち良さそうに丸くなっていた。

「あらま、スズの箱を取られちゃってたのね」

 委員長はその事実に苦笑する。スズは眠っている猫を相手にどうしようかと考えていたらしい。追いついた龍那も護衛の対象がそんなだから、一緒に待っている様子。

 しかし穏やかな午後の日差しを浴びて温まっていたスズの箱は最高の寝床であるらしく、目を瞑っている猫が起きる気配は全く無い。

「まぁ猫を起こすのが申し訳ないってんなら、いつもみたいに上り框に直接座って足洗ったら?」

 委員長はそういいながら少し後ろに下がった。

「どうしました委員長さん? 猫は苦手ですか?」

 そうやって猫から少し逃げる素振りを見せている委員長に、スズが尋ねた。

「苦手じゃなくて大好きよ。でも……」

「でも?」

「私……動物アレルギーなのよ……ふぁ、ふぁ」

 言ってるそばから委員長は鼻をひくひくさせ

「……ぶぁゃあぁっくしょっぉん!」

 花の女子高生が発したとはとても思えないような爆音が轟いた。眠っていた猫はその瞬間飛び上がるように目を覚まし、そのままの勢いで箱から飛び降りて三人の間をすり抜けて逃げてしまった。

「……ごめんなさい」

 鼻をずびずびさせながら、委員長が申し訳なさそうに言う。龍那はその後ろで小さく苦笑していた。

「――」

 こうやって友達と呼べる存在と、何気ない日常を過ごしていく行為に、安心というものが含まれているのがスズには分かりかけていた。

 これがしあわせというものなのだろうかと。

 こんな日々がずっと続くのなら、平穏な時間の中にいつまでもいてみたいと感知する。それが人の心なのだろうか? スズにはまだ分からない。

 自分は機械神から落ちてきたものだ。だから機械神の中へ戻り、その中での作業機器としての生活に復帰することが、自分にとっての安心ではないのだろうか?

 でも、もし……落ちてきたことに何か目的があったのだとしたら?

 自分がここに居ることに何か意味があるのだとしたら?

「――いえ、おかげで箱が使えるようになりましたので」

 自分の中に生まれた不可解な感覚を払拭するようにスズがそう言いながらバケツを置いて箱に腰掛けようとした。――その時、

 町中に設置されたスピーカーというスピーカーから緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いた。

「!?」

「な、なに?」

 それと同時に電話のベルが鳴る。寮の中で電話があるのは寮母室だけだ。ベルの音がすぐに消えたのでちょうど在室中だった寮母が受け答えをしているらしい。

 そしてしばらく経った直後、血相を変えた寮母が部屋を飛び出してきた。

「寮母さん! 一体何が!?」

「委員長さん!? あ、スズさんにリュウナさんも、ちょうど良かったわ!」

 委員長の呼びかけに寮母が振り向くと、そこにスズと龍那の姿も発見して駆け寄ってくる。

「一番に知らせなきゃいけない子たちがすぐ近くにいてくれて助かったわ」

「いったい何が? サイレンもすっごい鳴ってるし」

「町の中に水の魔物に似て非なる負の魔法生物かもしれない何かが現れたって連絡が」

「!?」

 委員長と龍那の顔色が変わる。スズの表情が変わることは無いが、不穏な空気は感じている。

 そして更に寮母が付け加えた言葉に、三人は戦慄する。

「しかもその発見された数が、6体」

「6体!?」

 委員長が思わず叫ぶ。龍那も動揺しているのは隠せない。スズも、それがあまりにも危険な知らせであるのは理解できる。

 寮母は伝えるべきことを三人に伝えると「私は寮の他の子たちに知らせないといけないから!」と、廊下を駆けていった。

「6体って……もしかして一日1体ずつ作り貯めをしていたって?」

 とんでもないことが起こり始めているこの状況に、龍那が務めて冷静に状況を判断しようとする。

「でもそうなのだとしたら、あれから一週間でしょ。1体足らなくない?」

 龍那に指摘されて冷静さを取り戻した委員長が、自分の考えを付け加える。

「じゃあその最後の1体が」

「スズを狙ってくる……ってのは、今一番に考えないといけないことよね」

 委員長が重い表情で語る。

「それに、町中で暴れてる6体が全部だとしても、それの他に負の魔法生物は必ず一体はいるってことになる」

 フード付きマントに身を包む相手は、写真鑑定で先代魔法少女により正体が発見された後にその存在が水保や陸保にも知らされたが、やはりその隠伏能力により所在が掴めないらしい。だが、この町にこんな混乱を巻き起こしたのはこの負の魔法生物に違いなく、どこかに隠れて機会を窺っているのは容易に想像できる。

「私やスズも含めた魔法少女を中心とした戦闘ユニットの殲滅が目的であるなら、それだけいっぱい作った怪生物を全部私たちに差し向けるのが一番効率が良いはず」

「でも、現状ではそれをしていない、ということよね」

「そうよ」

「――」

 全ての持ち駒で一気に強襲しないでわざわざ分散して放ったのは、別の目的があるからだ。

 別の目的。

 町中に放たれた怪生物は、水保と陸保の全駆逐部隊をこの町に集結させても、その全ての駆逐には一晩かかるだろう。つまりその間、他の場所で誰かが同種の危険に犯されても、誰も助けに来ない。

 つまりこれは陽動。

 負の魔法生物と水の魔物系への防衛手段を飽和させ、本隊は目的のものへと向かう。

 そしてその目的のものとは、自動人形スズ

「――」

 スズもなんでこうまでして自分自身を狙ってくるのか分析できないが、そこまでして超越技術オーバーテクノロジーの塊を奪取しようと画策する者がいるのは事実。ここに来て遂に、一連の怪生物関係の騒動は、スズの奪取が目的であるのが判明した。

「多分増援を完全に断つ作戦なんだろうね、これだけの数の怪生物を解き放ったということは」

「決戦をしかけてきたってことか……向こうから」

「多分水保にも陸保にも応援を頼んでも来てくれない」

 龍那が自分たちが今置かれている状況を判断する。

 多量の刺客を町中にばら撒いて、その手の怪しいものの駆逐組織である水上保安庁や陸上保安庁の手を全て使い切りさせ、本来の目標を狙う。敵の意図はそれに違いない。だから頼れるのは自分たちの力のみ。

「なぁに、魔法少女に水保の女戦士に戦闘もいける自動人形オートマータっていう結構なメンツが揃ってるのよ? 大概の敵は倒せるわよ」

「風使いもおりますぞ」

 そう言いながら玄関口から一体のカカシが中に飛び込んできた。

「ゼファー……」

 そう、すっかり忘れていたが、魔法少女である委員長のお供には、大魔導師級の魔力を秘めた風使いがいるのだ。

「普段のアンタは薪にするしか利用価値がないけど、今日ばかりはアンタが居てくれて良かったと思うことはないわ」

「お褒めにあずかり恐悦至極」

 中身はド変態であるが頼りになるのは間違いない。これだけのメンバーが揃えば、結構な強敵であっても退けられるだろう。

「娘殿が今度ブルマ姿で一日我輩の前をうろうろしてくれましたらそれで十分ですぞ」

「……全員何事もなく無事にここに帰ってこれたらそれぐらいしてあげるわよ」

「ぶかぶかではなくてちゃんとおヒップにピッタリのサイズでお願いしますぞ」

「わかってるわよ! ハミケツするぐらいの穿いてやるわよ! でもその時は……」

 委員長がそこで龍那の方に顔を向ける。

「水保って火炎放射戦車あるでしょ。あれ今度貸して、コイツ丸焼きにするから」

「了解よ」

 龍那は委員長の頼みを一も二もなく請け負った。彼女もさすがにゼファーは最後は薪にしなければならないと認識しているらしい。

「さて、ここでじっとしていたら、寮が巻き込まれるわね」

 敵の目標がスズと分かった以上、こちらも迎え撃つ準備ができるのは良いのだが、それでもこの場所に留まり続けるわけにはいかない。

「どこか広い場所とかが良いね、遮蔽物の無い」

「鉄岸の方まで行く?」

「でもそれですと、周りの砂は首都内湾の砂でもありますからな。相手に有効なフィールドとなってしまうやも知れません」

「そうなると内陸……結局あそこか」

「やっぱりそうなるわね」

「決戦場はやはりあそこになりますかな」

「――」

 そうやって作戦を立てていく三人の姿を、スズはどうしても理解できないまま見ていた。

 何故みなさんはこんなにも、私を必死に守ろうとしてくれるのでしょう。

 ともだちという理由だけでこんなにも必死に、それも命懸けで守ろうとしてくれようとしている。

 作り物でしかない私を。

 それがスズの分かりかけていた人の気持ちというものを、振り出しに戻すかのように更に不可解にさせる。

「――」

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