第2話 お姉ちゃん

「あんた、良く似合ってるわ!」

母が僕の格好を見てそう言った。

でも僕は素直に喜べない。


なぜなら……

「お、お兄ちゃん?」

リビングに入ってきた妹が僕の格好を見て驚いた様子で僕の方に寄ってきた。


そらそうだろうな。

だって今、僕は”女の子”の格好をしているんだからな。


「お兄ちゃんじゃないわよ。」

その様子を見ていた母がなぜか満足げな顔で否定をする。


妹に何をいうつもりだ母よ。


「今日からは、”みくりお姉ちゃん”よ!」

僕の格好とかけていったんだろうがなんもうまくないからな!

ドヤ顔で笑えない冗談を言った母を尻目に妹の行動に僕は驚いた。


「み、みくりお姉ちゃ~ん。」

そう言って妹が僕に向かって抱き着いてきた。


そんなバカな。

と僕は心の中で思った。


中学生になった妹がまさか母の冗談を真に受けるとは……


そんな妹に僕は、間違ってる、僕はお兄ちゃんだぞと言おうと思ったが言えなかった。


なぜなら、今まで妹に抱き着かれたことなどなかったからだ。

お姉ちゃん(仮)になった瞬間こんなに妹から好かれるのならもうお姉ちゃんでいいんじゃないかと思い始めてしまったからだ。


そんな妹の行動を見た母はこういった。


「千穂はお姉ちゃんが欲しいって昔から言ってたもんね。」

「うん!」


その会話を聞いた僕は複雑な心境だった。


今までの僕がかわいそうに思えてきて涙が出てきそうだった。


「みくりよかったじゃない。」

母が突然僕に言ってきた。


「女の子になったとたん千穂に好かれ、高校にも通えて。」

母が言った言葉に何も言えなかった。

だってその通りだったからだ。



そんなこんなしているとそろそろ出発の時間が来てしまった。

そう、今日は僕がこれから通う女子高の入学式だ。


「みくりお姉ちゃん大丈夫だよ。女の子ぽくて可愛いよ。」

「そうよ、みくり。あなたは今日から女の子なんだからね、しっかりやるのよ。」

母と妹の励ましの言葉を聞いたが、不安しかない。


てか、妹よ。

もう、お兄ちゃんとは呼んでくれないんだね……


僕は今までの自分に別れを告げて新たな一歩を踏み出す。

重い玄関の扉をを開けた。


「行ってきます。」

まるでこれから戦場いくような勇ましい声で言った。


しかし、妹が僕の方をジト目で見てくる。


「そんな男の人の声で言ったらだめだよ。」

妹の指摘に、そうだったなと思い、言い直した。


「行ってきます。」

今度は普通に女の子ぽく言った。


腕を組んでふんふんと妹がうなずいた。

それを見て僕は扉を閉めた。


はぁ~

扉を閉めた瞬間からため息が出た。

これからの高校生活を考えると体が重い。

不安ながらも僕は体を学校への道へ向けて進み始めた。

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