乙女ゲーの攻略対象に転生した僕は悪役令嬢に恋をする

ゆーき

第一章

第1話

1. ある種の目覚め

 僕が状況を理解したのは、王立学園の入学式、その日の朝のことだった。


 校門から続く桜の並木道、そこで向かい合う、二人の美少女。


 一人は小柄。

 毛先が僅かに内側にカールしたミディアムヘアーは、上品に淹れた紅茶色。健康的な頬の肌色、ぱっちりとした瞳、柔らかいつぼみのようなピンクの唇。スリムな肩周りと、禁欲的ストイックなデザインの制服でも隠しきれない細い腰は、思わず守ってあげたくなるような華奢な印象だが、膝丈のスカートから伸びるのはやはり健康的な脚線美。その足を止めた、立ち振る舞いから庶民であろうとわかる彼女は、不安げな表情で、正面前方に立つもう一人に戸惑い気味の視線を向ける。


 その相手、もう一方の少女は、対象的に長身。

 物腰から、ひと目見て貴族だとわかる。身につけているのは同じ制服だが、体格のせいか印象は全く違う。きっちりと着こなしていても、見事に発達した胸部はそのラインを押し上げ、対象的に引き締まったウエスト、ヒザ下丈のスカートでも隠しきれないヒップラインと、そこから伸びる見事なふくらはぎが、彼女の芸術的な輪郭を容易に想像させる。

 豪奢な金髪は艶やかなマーメイドウェーブ。透き通りそうな白い肌。整った鼻梁と肉感的な唇はセクシーだが、今はその口元を、憎々しげに歪めている。何よりも彼女の印象を台無しにしているのは、吊り上がった切れ長の瞳――形はとても整った、美しいブルーの瞳だが、不快感を隠そうともせずその眉間にシワを寄せているせいで、せっかくの整った顔の作りが、まったく逆効果の、恐れすら抱かせてしまう印象を与えてしまっている。


 そういう彼女が立ちはだかり、両肘を抱えて睨みつけてくるのだ。その迫力はなかなかのもので、それに対峙する小柄な少女は、まるで見えない壁に阻まられているかのようだ。


 もちろん、貴族の令嬢は、ただ視線と態度だけで彼女を押しとどめているのではない。一人で校門をくぐり、歩いて来た彼女の、その前に立ちふさがり、そして言ったのだ。


「お待ちなさい」

 そして見下すような目で彼女を見据え、続けた。

貴女あなた、本当に、由緒正しいこの王立学園の門をくぐるおつもりですの?」


 強い風が、木々を、そして二人の髪を揺らす。

 桜の花びらが舞い散る中で、対峙する二人の、対称的な美少女の姿。

 それを見て、僕は思い出していた。


 僕は、この場面を知っている。


 いや、場面だけではない。彼女二人のことも、そして、この世界のことも。

 思い出したのだ。記憶を。


 前世の記憶だ。


 僕が理解した状況、それは、僕が転生したということ。

 それもよりにもよって、乙女ゲームの世界……


 あろうことか、一度もプレイしたことがない乙女ゲームの世界だ!

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