作品02

成谷

第1話 秘密の部屋

 閃光が走った。


 暗闇に火花が散り、長年使われずに埃だらけのその場所を一瞬照らす。


 ばら撒かれた紙、倒れた棚、割れた食器……。そのどれをとってもここを廃墟と呼ぶには十分な説得力があった。


 また、閃光が走った。


 全く変化を感じさせない空間に、放電のような音と光が駆け巡る。先程よりも光は強く、部屋の奥まで光が届いた。


 部屋の奥。そこには、布のようなものを被せられた大きな物体が壁に立て掛けられるように鎮座していた。直方体の形状で、人ひとりをすっぽりと覆うことのできる大きさのそれには、太さも長さも異なる無数のケーブルが繋がれていた。


 ケーブルは部屋の壁まで張り巡らされていて、火花は壁に埋まったケーブルの一つが衝撃を受けたことによるものだった。その衝撃が繋がれた物体に伝わったのだろうか。物体は〈プシュー〉と空気の抜けるような音を立てた。


 部屋の外からの衝撃は、まだ続いている。断続的に部屋が照らされる。


 空気が揺れ、天井から埃が降ってくる。


 振動で物体を覆っていた布がゆっくりと落ちた。隠されていた正面が露わになった。物体の側面は黒く不透明だったが、正面は透明になっていて、物体の内部を見ることができた。


 物体の中には、少女が眠っていた。あどけなさの残る顔に、新雪のような純白の髪が肩まで伸びている。たおやかに手を組むその姿は、まるで精巧な人形のようであった。


 少女の目元がぴくりと動いた。直後、物体の透明な面が横にずれて外れた。少女はゆっくりと目を開けると、物体から押し出されるように埃だらけの部屋に降り立った。


「お……さ……」


 少女は朦朧とした意識のなか何かを呟きながら、よたよたと歩きだした。その顔は火花の散る場所に向いていた。


 天井からは小石ほどの大きさのものも降ってくるようになっていた。まるで支えを失ったかのように、崩壊が加速度的に進んでいく。


〈ガンッ〉


 一際大きな火花が散って、壁に穴が空いた。その音と衝撃に気を取られて少女は床に散らばっていた本に躓いてしまった。転んでへたりこんだ少女が前を向くと、壁の向こうから人影が見えた。


 少女の手は、自然とその人影に向かって伸びていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る