紙一重お兄ちゃん

涼。

第1話『引っ越し?お兄ちゃん』

私は16歳、普通の女子高生と言いたいところですが、極めて普通ではありません。

3つ歳上のお兄ちゃんと2人暮らしをしているのです。

私たちには両親は居ません…私が小学5年生の時、家族旅行先での交通事故で

前に乗っていた両親を亡くし、後ろにいた私とお兄ちゃんは重症ながらも助かりました。

その時とその直後の記憶が私にはまったく無く、

子供が居なかった母親方の叔父さんに引き取られ、中学2年生までお世話になりました。

それが今、何故、お兄ちゃんと2人暮らしなのかが極めて普通ではないのです…。


1話・『引っ越し?お兄ちゃん』


事故の後、入院していた私とお兄ちゃん。私は両足の骨折と脳震とう、お兄ちゃんは左手の骨折と同じく脳震とうだったと聞いています。私は少し記憶喪失になり、気が付いた頃には

もう、叔父さんの家にいた感じでした。

「おーい、清志ちょっと来なさい」

〈やれやれ、またか…〉

清志(きよし)というのがお兄ちゃん、このところ叔父さんと何だか進学の事でもめている。

というか、お兄ちゃんは叔父さんに相談もせず、学校も高校にも行かず働くと決めたのです。

「お兄ちゃん、本当に学校に行かないで働くの?」

〈真央(まお)は心配しなくていい、後1年ぐらい待っていろ、ここを出て2人で暮らすぞ〉

「お兄ちゃんと2人だけで?」

事故以来、お兄ちゃんは変わった様な気がします。

以前はわんぱくガキ大将って感じだったのに…。

〈真央は嫌か?〉

「嫌じゃないけど…」

そんな事が本当に現実になるとは思っていなかったし、1年後には忘れていました。

〈準備が整ったぞ、真央。引っ越しするぞ!〉

お兄ちゃんは忙しいと、家に居なかったし、話すのも久々だった。

「えっ?」

〈今晩、叔父さんと叔母さんに話をする、もう家も決まっているし、

心配することは一切ない〉

「あっ、うん…でも、私の学校とかは?」

〈そんなものどうにでもなる、お兄ちゃんに任せとけ〉

そんなものって…あれ?お兄ちゃん…ちょっとおかしい?

それが、ちょっとどころではありませんでした…。

「馬鹿も大概にしろ!」

叔父さんの怒鳴り声、私はこっそり一部始終を見てしまった…。

〈冗談ではないです〉

「お前だけなら何とかなるかもしらないが、真央も一緒に連れて行くって、お前が

ちゃんと学校に行かせられるとでも言うのか?何をするにもお金がいるんだぞ」

〈それなら大丈夫です。これまでのお礼も用意しました〉

と、お兄ちゃんはカバンから札束を出し、叔父さんの前に積み重ねた…。

1、2、3…計10束!

「お、お前これ…一体どうしたんだ…」

本当だよ…お兄ちゃん…。

〈ただ、IT会社を立ち上げただけです、これでは足りませんか?〉

「お前…それが本当だとしてもだな…」

更に札束を出す、お兄ちゃん…会社を立ち上げたって?お兄ちゃんが会社を作った?

「…分かった、分かった…もう好きにしろ」

〈はい、ありがとうございます〉

話は終わった?お金で解決?…私は慌てて部屋に戻った。

えぇ…お兄ちゃんって一体…。

〈真央、話はついたぞ、明日の午後4時に引っ越しな〉

と、私の頭を撫で、ほほ笑んだ。

「えっ!明日?そんなに急に?何の準備もしてないよ…」

心の準備も!

〈準備なんてしなくていい、全部置いていけばいい、明日、叔父さんと叔母さんに挨拶して、

あと友達にもな〉

「そりゃ、挨拶はするけど…何よ…相談もしてくれないし、

ずっとかまってくれなかったのに…」

〈まぁ、そう言うな、お兄ちゃんは誰よりも、いつも真央のこと考えている、

今日は久々に一緒に寝ような…〉

そう言って、胸に抱き寄せた…。

なになにこれ…いつの間にこんなに頼れる感じになったの?

こんなにカッコいいお兄ちゃんに…。

「うん…」

しかし、お兄ちゃんはぶっ飛んでいた…。

次の日、叔父さんと叔母さんにお兄ちゃんに付いて行くことを告げ、挨拶をして、友達にはメールでお別れを言った。そして、午後4時…。

ボーーーーッ!突然、地響きするような大きな音、家の外を見ると…!

〈真央!コンボイだぞ!コンボイ!〉

「え?うん…何?」

〈コンボイだぞ、小さい頃、一緒に見ただろ?トランスフォーマー〉

えっと…見たけど…。

〈トランスフォームはしないけどな〉

そりゃそうでしょ…でも、あんな大きなトラック…私、荷物って…。

「もしかしてだけど…アレが引っ越しトラック?」

〈そうだ!今日の為にアメリカから輸入したんだ、やっぱり本物はカッコいいなぁ…

馬力2000hp以上だって、凄いな!コンボイ!〉

と、お兄ちゃんは目をキラキラさせながら運転手に手を振った。

2000hp?全く分からないよ?見た目で凄いのは分かるけど…

それより、お兄ちゃんは凄いの?紙一重…。

すると、コンボイの助手席から2人、降りて家に入ってきた。

〔岡田様、お荷物は?〕

〈真央、荷物は?〉

「…えっと…このボストンバッグ1つだけなんですけど…」

〔承知いたしました。お預かりさせてもらいます〕

えぇ…そんな普通の対応なの?

と、小さなボストンバッグ1つをコンボイの大きな荷台に乗せた。

そして、ボーーーーッ!と大きな音と共に走り去って行った…。

「お兄ちゃん、アレ、本当にこれだけの為に?」

〈そうだ、引っ越しもイベントみたいなものだろ?それじゃあ俺たちも行くか〉

えぇ…何、考えてんのよ…。

「…うん」

私たちは叔父さんと叔母さんに挨拶をして、外に出た。

ポツンと私たちの自転車…。

「私たち、自転車で行くの?」

〈お兄ちゃんが乗り物嫌いなの知ってるだろ?〉

そうだった、あの事故からお兄ちゃんは乗り物嫌いだった…と、いっても…。

「引っ越し先、近いの?」

〈大丈夫だ、お兄ちゃんがスーパーアシストスーパー電動スーパー自転車に改造した、

時速40キロは出るぞ!出さないけどな!危険だからな!たぶん1時間半ほどで着くぞ〉

お兄ちゃん…とりあえず、スーパーは1つでいいと思うよ?

とにかくそのスーパーになった自転車に乗って私たちは出発した。

そして、約1時間半、閑静な住宅街に着くと、お兄ちゃんは止まった。

〈真央、着いたぞ!今日からここがお兄ちゃんと真央の家だ!〉

それは、庭付きの大きな平屋、一軒家だった。

「え?この家が?…」

〈2人だから十分だろ?〉

2人だからこそ十分過ぎない?

〈ちなみに、左隣の家は家の形をしたお兄ちゃんのスーパーコンピュータで、右隣の家はお兄ちゃんの研究室&工房だ、ついでに道を挟んで向かい合う3軒も買っておいた〉

「えっ?何?どういう事?」

〈ん?もう1回言うか?右隣の…〉

もう1回言うとかの問題じゃないんだけど?色々、分からないけど6軒、

お兄ちゃんが買ったのね…。

「いいよ、とりあえず、ここが私とお兄ちゃんの家なのね」

〈そうだ!〉

色々、考えるのは後にしよう…。

「じゃあ、入ろう~中も見た~い」

〈そうだな!〉

そうして、庭にスーパーな自転車を置き、玄関に向かった。


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