わたくしごと

mono黒

衝撃的な「ポーの一族」との出会い

 私がまだ小学校の頃だったと思います。私の母の友人宅に母は私を連れて遊びに行ったんです。そのお宅には私より年上の多分中学生くらいのお姉さんがおりまして、母達の話の邪魔になると思ったのか顔見知りでも友達でも無い年上のお姉さんの部屋に、いきなり放り込まれたのです。

 当然向こうもこっちも気まずい空気が漂って来まして、きっと向こうもそんな空気に耐えられなかったのでしょう。

漫画いっぱいあるから読んで良いよと本棚の前に連れてこられました。

 信じられない事に、昔は漫画は悪書と呼ばれ読むと、ろくな大人にならないと言われた時代があったのです!

我が家は特にそういう面で厳しい家庭で、テレビはNHK。御飯時にテレビはもってのほかと言う厳格と言えば聞こえは良いですが、いわゆる堅苦しい家風だったので、余り漫画と言う物に触れさせては貰えなかったのです。

 せいぜいスヌーピーの漫画なら許されていました。しかも英語版!

読めるはずもありませんが(当時和訳はありませんでした)それでも何となく楽しく読んで満足していたのです。

 ところがです。この日お姉さんに見て良いよと言われた本棚を見てびっくり仰天するのです!いわゆる少女漫画と言われるものがズラリと揃っていたのです!読み方を教えて貰い(右から左、上から下)

適当に可愛いと思った表紙から手に取って読み始めました。

 そのとき何故その本に目が止まったのか分かりませんが、沢山の可愛い絵を差し置いて、少し怖い妖しげな表紙に目が止まりました。

二人の男の子らしき少年の絵でした。後にこれが主人公のエドガーとアランと言うバンパネラ(吸血鬼)の二人だと知るのですが、この先ずっと影響をうける事になる萩尾望都先生の「ポーの一族」と言う作品でした。衝撃的な出会いでしたね。

 さっきまで読んでいたふんわりした少女漫画とは全く違う世界観。妖しく美しい繊細なタッチの絵柄。女の子みたいに美しい男の子。

古い時代の異国の雰囲気。全てに魅了されてしまいました。

 1回目読んだ時は話の内容は正直ちゃんと理解していませんでしたが、何度も読んで理解しました。

ポーの一族と呼ばれるバンパネラのエドガーと普通の人間だったアランが主人公です。バンパネラというのは歳をとらないので、子供サイズのエドガーは長く同じ所にいられません。一家で転々としているある日、鼻持ちならない金持ちの坊ちゃんのアランと互いに違う悲しみを共有します。友情にも似ていますがそんな関係ではないと私は思います。うっかりしたことから両親(養父母)と妹がバンパネラと気付かれて殺されてしまい、我が身の危険を察知して、この地を去っていこうとするのですが、家庭内で様々に孤独と絶望を食んでいたアランをエドガーは吸血によって、同じバンパネラにして時の旅人の道連れにしてしまうのです。世紀を跨いで二人で生きて行くその先々で様々な人の心や記憶に爪痕を残して行くと言うドラマチックなお話なのですが、何度読んでもその時々で違う感想を持つ深いお話です。

 ともかく、私は一気にたった1日で少女漫画。しかも「ポーの一族」の虜になってしまったのです!

 そこからです。母との壮絶なバトルが始まるのは。

当時、お小遣い制だった私は月に800円ほど貰っていました。そこから鉛筆や消しゴムなどを捻出するといくらも手元に残りません。お年玉やらせっせと貯めて、隠れて漫画本を買うようになったのです。

そうやって「ポーの一族」を5巻まで買いました。隠れてこそこそ夜中に読んだり、まるでエロ本扱いです。

 そんなこんなで隠れた楽しみを見つけた私ですが、やはりと言うべきか、とうとう母親に見つかってしまいました!学校から帰ってきて、いつもの隠し場所から本を取り出してさあいざ読もうと思った時、あるはずの愛しい5巻が無いのです!ああヤラれたんだなと思いました。捨てられたのです。

もうショックでショックで泣き崩れました。

ところが私はめげる事なく、また5巻揃えました。そしてまた捨てられたのです。

 そんな母との攻防はかなり長く続きましたが、中学に入る頃は他にも好きな漫画が出来、どんどん増えていく漫画本に母が追いつけなくなりました。ようやく勝利です。

 その当時、読んでいたのは同じく萩尾望都先生の「トーマの心臓」「11人いる!」竹宮惠子先生の「風時の詩」「地球へ」などでした。

その当時から少しづつ、今で言うBL畑を歩んでいました。

 「トーマの心臓」はドイツのギムナジウムと言う全寮制の男子校が舞台で、その中で青春や性の悩みに直面しながら少年から大人へと成長していく過程の美しく切なく残酷なお話で、本当に心躍る作品でした。

 「11人いる!」はSFとしてとても秀逸な作品でした。宇宙大学に入る為の宇宙空間での実地試験は10人一組のグループになって、一つの宇宙船を決められた期間を過ごし、無事に期間を終えれば合格すると言うものでした。ところが最初から試験はつまずくのです。10人の筈なのに11人いるのです。

 どんな妨害かと皆は疑心暗鬼になり、色々なトラブルが起きるのです。色々な人種、様々な理念。そして主人公のタダとフロルのラブストーリーがうまく絡み合って行きます。

 このフロルと言うのがシーメールと言って最初から無性別の存在として描かれています。好きになったのが男なら女に女なら男に変化すると言う不思議な存在です。それがまた当時BL心をくすぐる存在でした(BLでは無いのですが)。金髪の巻毛で跳ねっ返りのキャラに萌えました。

 そして「風と木の詩」の登場です。はっきり言ってこの作品が無ければ今のBLはありませんでした。もうこの作品はジルベールと言うカリスマ美少年の魅力が際立った作品でした。

 ジプシーとの混血児セルジュが全寮制の学校に転校してくるところから始まるのです。同室のジルベールは学校でも異質な存在で、人とは馴染まず、プライドが高く、そして何と言っても絶世の美少年。

転校生が同室になることを知り、それに反発して上級生の不良に自分の身体を代償にして、彼を追い出そうとします。何かをお願いする時、ジルベールはそのプライドゆえに必ず代償を支払おうとしますが、同室のセルジュは彼と正反対の価値観の持ち主でした。育ちのせいなのですが背徳に塗れたジルベールとは対照的に真っ直ぐで正しい心を持とうとするセルジュがどんどんジルベールにハマっていくのです。もう背徳の匂いがぷんぷんするでしょ?この時主人公達は十四歳ですよ?同じような年頃で身体を代償にとか、衝撃的でした。

十四歳ってやはり何かが変わる時期なのでしょうか。「ポーの一族」の二人も十四歳でした。

 そして満を辞してあの伝説の日本初のBL雑誌「June」が降臨するのです。

この頃になると私は読む方から描く側へと移行して行きました。

のっけからBLでした。男女の恋愛ものなど目もくれずにです!

 最初の「ポーの一族」が私の全てを作ったと言っても過言ではありません。そうして私は今も背徳の香りにずっと囚われたままなのです!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る