第23話文化祭 夢2
どこまでも気に入らなかった。
手を抜かれて勝つ。
それは負ける事よりも辛い。
ここまで感情を公の場で見出したことはないだろう。
そして場をわしゃの部屋に移した。
「何がよろしくお願いしますじゃ!貴様は自分が何をしたのかわかっておるのか?」
「勿論です。ですが貴方を多くの人間が見ている場で負けさせてくなかったのです」
「おぬしはわしゃの力を下に見ておるのか?」
「そのようなことは……貴方はこの世の光なのです」
「そんな事は関係なかろう!」
「とにかく貴方の為です」
これまでは違う強い口調に何か一瞬だが黒いものを感じた気がした。
殺気と言うにはあまりに弱々しく悪意と言うにはあまりに強い。
そんな不思議な気配がしたのだ。
気のせいかもしれない。
「わしゃの弟子になってどうしたい?」
「貴方のお側にいたいと思うものは沢山おります。僕もその一人です」
「おぬしほどの者に師などいらんだろう」
「まだまだ僕も未熟な身。よろしくお願い致します」
頭を深く下げる蘆屋道満からは弱々しさをしっかりと感じた。
さっきのはやはり気のせいだろうか。
そんな事を考えていると道満が訪ねてきた。
「師匠!僕は何をすればよろしいですか?」
こんなにむず痒い言葉は久しぶりだ。
もともと雑で適当でフラフラとしているわしゃにこんな言葉は似合わない。
自分で言っていて少し悲しくなった。
わしゃいいとこないじゃん……
「その呼び方はやめてくれ!晴明でいい」
「ならば僕のことも弟子で大丈夫です!」
無邪気に答えているが何も変わってない。
おい弟子!なんて言った暁には自分で酷く落ち込むことは目に見えている。
それにしても蘆屋道満は天性のものなのか人の内側に深く入り込んでくるな。
わしゃよりよっぽど人に好かれる英雄に成れるだろうに。
羨ましくは思わないが。
この日からわしゃの生活が激変した。
弟子というより友人が毎日のようにわしゃのの家を訪れてきた感覚。
部屋からは話し声が頻繁に漏れるようになった。
そのせいでわしゃのイメージが変わったのか声をかけられる事が増えた。
正直悪くない。
仕事以外の話をして笑う。
何気ない幸せな時間だ。
道満に稽古はつけなかった。
もともと実力もわしゃ以上に高く人当たりも遥かに良い。
つけなかったというよりつけることが無かった。
友人との日々を楽しくつなぐ。
そんな充実した日々を送っていた。
蹴鞠や詩を読んだり。
心のうちでは望んでいたが目指す事の無かった日々。
そんなある日、一人の天真爛漫な女がわしゃと道満の間に現れた。
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