第9話 対峙
「それで、この石は何なんだ?」
家に着き、晴明が持ち帰ってきた石について尋ねた。
「日が沈んだら分かる それまでわしゃ、寝る!」
「寝かすかよ!」
猫用のおもちゃを晴明に向ける。
そうすると、丸くなっていた晴明が飛び跳ねだした。
ちょろいな。
「や、やめるんじゃ! わかった!話すから、話すから! やめてくれぇ~」
もう少し、続けたくなる衝動を抑え晴明を、前に置いた。
「それで、これは何なんだ?」
「これは、おぬしの記憶じゃよ~」
息をまだ切らしている。
「記憶?」
「かつての、おぬしの悲しい記憶をこの妖が溜め込んでしまっていたのじゃ」
「これは、妖だったのか」
その妖、というか石を持ち上げ観察するがやはりただの石だ。
「正しくは、石じゃったがおぬしの負の感情で妖になったのじゃがな」
「それで、こいつは悪い奴なのか?」
「人の不幸を吸い寄せる。即ち、あの店に不幸をもたらすかもしれぬ」
「そっか。 なんか罪悪感が凄いな……」
「そうじゃろう! だから、持って帰ってきたのじゃ!」
「助かるよ。 それでこいつどうする?」
「ハンマーで砕くのが最善手じゃろう」
「かなり、暴力的だな」
「封印も考えたわんじゃが、この重き石の中にある記憶が無くなってしまうかもしれん」
「それでも構わないよ」
「いいのか? さっきの店主との思い出が消えてしまうかもしれないんじゃぞ?」
「それは……」
「安心せい! 砕いてもこの妖が死ぬわけではない。力を分散し不幸を吸い込めなくするだけじゃ」
「それなら、砕くのがいいかもな」
しかし、なんだろう。自分の記憶を砕く。
そんな複雑な気分だ。
辛い記憶に並行している温かい記憶。
いや、それだけじゃない。
もしかしたら、俺のせいでおばちゃんのご主人が亡くなってしまったのではないか。
俺のせいで……
「隆、どうかしたのか?」
「おばちゃんのご主人が亡くなったのは俺のせいかもしれないと思って……」
もしそうなら、俺はどう謝ればいいんだろう。
俺は、人を殺したのと同義だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「深く、考え過ぎじゃ。この妖にそのような力は無い!」
「本当か?本当?」
「ただの、石のような妖じゃぞ?」
「でも……」
「あぁ、もう面倒くさい! よいか? そうやって、悲観的になってしまった結果がこの重き石と言う妖の姿じゃ! それなら、人を信じこんな珍妙な妖が現れぬようにするべきではないのか!」
「!!」
そうだ、その通りだ。
今は、ただ晴明を信じ前を向こう。
これからも、あの店に行ったら笑顔でおばちゃんと話す。
今まで、お世話になったことを返せるわけではない。
でも、一番の感謝の形だ。
罪悪感が消えることは無い。
それも含めて、前を向くんだ。
「少しは、落ち着いたのか?」
「あぁ! もう大丈夫だ!」
「うむ! それでは、庭に出るかのう~」
「そうだな~」
「隆! ハンマーを持ってきてくれ!」
「もう持ってるよ! それじゃ、やるぞ!」
カンーー
そう高らかな音を奏でて、石は砕けた。
その瞬間、過去の記憶が俺の頭の中に流れ込んだ。
冷たく、悲しく、温かい。
逃げてきた過去とやっと、向き合えた気がする。
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