第8話 記憶
夢のような出来事。
藁人形の顔は、あまりにも恐ろしく忘れることは二度と無いだろう。
人の恨みの形の一つなのだろう。
悪い気により、体調が戻るまで一週間寝たきりだった。
目を閉じれば、悪夢が俺を襲う。
起きる頃には疲れ果て、また目を閉じる。
そんな悪循環を何クールも繰り返した。
あまり、覚えてはいないが菫が見舞いに来てくれたそうだ。
恐らく、直接見ていないおかげで、マシだったのだろう。
それにしても、何で俺の家を知っているのだろうか。
そして、体調が戻った翌日。
俺は、晴明と共に御香宮の空と雪を訪ねた。
「久しぶり! 天狗に会ってきたよ!」
「そっか! 良かった。住所不明だから、しっかりと会えて」
空が、安堵の溜息をした。
「天狗って、住所不明だったのか……よく会えたな」
「天狗様は、すべてに秀でておられるのであんまり心配はしていなかったよ」
雪は、にっこりと笑っていたが、秀でていることと会えることは関係があるのだろうか?
鳥と話せるだけでも、十分捜索能力は高いか。
間違っている気がする、自問自答を何故かしてしまった。
「それにしても、天狗のあの趣味はびっくりしたな~」
「あのおっさんの趣味な~ どうにもならないんだよな~」
「空、天狗様は命の恩人だろ~ おっさん呼びは申し訳ないよ」
「まぁ、そうだけど…… 縁も深いし、いいだろう」
「全く空は。親しき中にも礼儀ありだよ」
「雪達も、助けられたのか~」
「貴船に昔、住んでて藁人形の化け物に襲われたときに」
「先日、俺達も襲われて…… 天狗に助けてもらったよ」
「奇遇ですね。そんな度々、出るもんじゃないんですが」
「お互い、無事でよかった!」
無事だといえるのか、疑問が残るところだが。
五体満足だから、構わないだろう。
「そう考えたら、雪はよく襲われるな~」
「空に比べて遅くまで、買い物とかしてることが多いからな」
「これからは、一層気を付けないと」
「隆も、気を付けるんだぞ! 猫だけじゃ、頼りないからな」
空が、意地悪い笑みを蝶と戯れる晴明を見て浮かべた。
「確かにそうだな~ それじゃ、買い物頼まれてるから帰るよ!」
「そっか! また来いよ!」
「次は、ゆっくり遊びに来てね!」
二人に見送られ、御香宮を後にする。
正直、体力が戻り切っておらずかなり疲れた。
しかし、久しぶりの外の空気は体に足りないかったものを満たしてくれたように感じる。
「疲れたから、そのまま帰るぞ~」
「それじゃ、おぬしに連れて来られたメリットが無いではないか!」
「あ~ それなら、転輪焼き買ってやるよ」
「さっすが、隆じゃ~」
「病人をもう少し労われよ!」
「まぁ、そう固いこと言うにゃよ!」
商店街の人混みを進む。
今日は、やけに人が多い。スーパーで安売りでもしているのだろうか。
「いらっしゃいませ!」
居酒屋が多いこともあり、そこらで活気の良い掛け声が響いている。
声を出している人は、基本若い。
アルバイトだろうか。
もう何年かしたら、こうやってアルバイトしていると思うと少し嫌だ。
働くことには抵抗は無いが、多くの人間と関わりを持ってしまう事が怖い。
菫のように、好奇心だとしても理解をしてくれる人がいてくれる可能性。それは、はたしてどの位だろう。
「おい、通り過ぎておるぞ!」
「ごめん 考え事してて!」
晴明が知らせてくれなければ、商店街が終わっていたところだった。
「いらっしゃい! 隆君じゃない! 今日は、何にする?」
「こんにちわ! おばさん、今日は粒餡の転輪焼きで!」
この、転輪焼きのお店は昔から鈴子とよく来ていた。
おばさんの名前は未だに知らないが、ご主人が無くなられてから一人でお店を経営している。
小さい頃、同級生に嫌がらせされて泣いていた。
そんな時に、おばさんは優しく話を聞いてくれて、転輪焼きを食べさせてくれた。
昔から、大好きな場所だ。
「最近、学校はどう?」
「頑張ってますよ! 最近は、人間関係も順調です!」
「あら、そう! 良かった~」
「はい! 心配してくださってありがとうございます!」
「なんかあったら、いつでもおいで! はい、転輪焼き。一個サービスしておいたから!」
「うわ! ありがとうございます! また来ますね!」
「ありがとうございました! また、お越しください!」
いつもの笑顔で見送ってくれる。
その姿が、店内に消えていった。
そういや、晴明。さっきから何をしているのだろう。
小さい石を咥えて、俺の横を歩いている。
どこから、これを持ってきたのだろう。
晴明が、この石を咥えている意味を俺は分からなかった。
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