現幻

神無月 皐月

第1話プロローグ

世界には善霊と分類される霊と壊霊と分類される霊が存在する。

善霊とは、人々との生活に馴染んで悪事を働くことはない。

しかし、善霊が壊霊になることはある。

壊霊に喰われたときだ。


善霊と壊霊は遭遇することは滅多にない。

善霊は、昼間ほのぼのと町を徘徊しており人間と同じように生活を送っているのだ。

その一方で、空が黄昏色になると壊霊は動き始める。

活動し始めた壊霊は、守護地帯である神社や寺院に入らず町を徘徊し続ける善霊を探し襲う。

そして善霊を襲うとき人間を巻き込み、傷つける。


その被害は事故としてのみ処理される。

人類の大半が霊を見ることができないからだ。


そんな中、霊を見ることのできる人間も存在する。

京都市の伏水ふしみに住む俺、高校2年 勝村 かつむら たかしもその一人だ。


京都かつて鬼や妖怪が蔓延っていた都。

そんな中、陰陽師たちがこれらの悪霊などを払い平和な世の中を築いていった土地だ。


このような土地に生まれたからこそなのかもしれない。


幼少期から霊を見ることができた俺は霊と人間の判別ができず霊に話しかけていた。

それにより独り言の多い奴で気味が悪いといじめられることはなかったが一人でいることが殆どだ。。


それでも両親である父 英男ひでお 母 鈴子すずこからはしっかりと愛情持って育てられた。

2人ともとてもやさしく、それでいて時に厳しくしてくれた。

自分が逆の立場ならこのようにはできなかった気がする。



中学生になったころ人間と霊の判別ができるようになり、周りが言う独り言はなくなった。

しかし、友人ができることは終始なかったのだった。


これは人間の怖いところで、周りが良くない噂を流すとそれが膨張してしまう。

ここまでならまだいいのだが、その噂を信じ自分で確かめることなくその人を評価してしまう。


そんな中学生活の中、家庭科の授業で自分の家系を調べることがあった。

埃の被った巻物を蔵から引っ張り出し机の上に広げ、その書かれていた人物に目を疑った。


安倍晴明あべの せいめい…」


思わずその時その名を呟いく。

すると、背後に煙を立て見知らぬ猫がその中から現れた。


「誰じゃ~わしゃを呼んだのは」


「・・・」

ぽかんと喋る白い猫を見つめる。


「おぬしか?わしゃの名を呼んだ奴は」


「えっと、安倍晴明さん?」


「如何にも!わしゃが安倍晴明じゃ」


「晴明さん。現状の説明をお願いします」


「簡単な話じゃ!わしゃの子孫の中で霊が見える奴が名前を呼んだ時に出てこれるように設定しておいたのじゃ!」


得意気に安倍晴明と名乗る猫は言った。

おそらく言っていること本当だろう。


「なんか電子機器のプログラムみたいすね」


「でんしきき?ぷろぐらむ?なんのことじゃ?これは陰陽の力じゃ」


「陰陽の力って便利ですね」

少し警戒しながら、言葉を選んだ。


「おぬし、名はなんという?」


「勝村 隆 17歳です」


「改めてわしゃは、晴明じゃ」


「こら、隆! 野良猫を家に上げないの!」


母の鈴子が猫の声が聞こえたのか部屋にやってきた。

猫を見ると優しく抱き上げ玄関外に優しく置いて扉を閉める。

一連の流れに呆気にとられ母を止めるのを忘れていた。


「おい! わしゃを中に入れろ~」

そう叫ぶ晴明の声は、母には届いている様子はない。

おそらくただの猫の鳴き声に聞こえるのだろう。


「お母さん。この猫、友達が家の都合で飼えなくなったみたいで……」

苦笑いを浮かべながら母に告げる。

苦しすぎる。

友人の一人もいない自分がこんな発言をすることがあるなんて。



「仕方ないわね~世話は自分でしっかりすることよ」

俺の暗い表情を汲んでか、渋々と言った感じで納得してくれた。



「ありがとう」



「とりあえず入ってください」


「何故わしゃがこんな仕打ちに遭わんとならんのじゃ!」


「やめ、やめてくださいよ!」

玄関に放り出され、ご立腹の晴明が俺に噛みついてきたのだ。


それからというもの俺の生活は騒がしいほどに賑やかに変化した。


喋る猫。

それも、あの有名な安倍晴明。


しかし現世に現れた晴明は、かつての知識を失っていた。

かつて晴明が躍動した時代と今の時代の相違。

それもあり様々な問題が晴明の前に立ちはだかった。

猫用のトイレに馴染めず人間用のトイレを使った結果、便器の中に転落。

猫用の餌が口に合わずリバース。




それでも晴明は必死にこの世界に馴染もうと、この時代の文字や言葉・文化を勉強していた。

その中で、猫じゃらしにより晴明と意気投合し名前で呼び合う仲にまで仲を深める。

猫じゃらしにじゃれている姿は、晴明という人物を忘れてしまうほどの愛くるしさだ。


それから数年後、安倍晴明は逆行性の健忘により忘れていたかつての知識を取り戻していった。


そしてついに今、俺と晴明の壊霊退治の物語が動き出す。







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