第2話 ヒントがいっぱい

 その日も答えがわからないまま自宅に帰り、いままでのヒントを全部思い出しながら悩み抜いたけど、結局なにもわからなかった。

 普通ならあれだけたくさんのヒントがあれば、ピンときてもよさそうなものだけど。考えるほどわからなくなり僕はだんだん不安になってきた。

 

 そして次の週になり、彼女はさらにヒントをくれた。


「今日はね、そろそろ当てて欲しいなって思うから、すごいヒントを出すね」「私の趣味は、その結果でいろいろ買い物ができるんだよ。父はコンビニでお弁当を買ったり、ガソリンを入れる時に使ったり、ほかにもいろいろね」「別に買い物ができるっていっても、怪しい投資とか、マルチ商法とか不正なものじゃないから安心して」「あと、これにはいろんなキャラクターとか風景あって種類も豊富だよ。中にはシンプルなものもあるし」「もう、わかっちゃったかな……?」

 

 いや、どうしょうもなく悲しいけど、ぜんぜんわからないよ……


 こんなモノが世の中にあるなら、もう知ってるはずだよ。知らないこと自体ありえないよ。そう心の中で叫びながら、僕はしばらく考え続けた。

 何かが変だ。なんとも言えない不安な気持ちになってきた。

 この趣味がわからないからといって、生きていくのに困るわけではないけど、この世界が自分の知らない世界のような気がしてきた。他にも微妙すぎて気がつかないだけで違うところがあるかもしれない。

 いま生きてる世界が不安定に思えて、世界の端々がぼやけていくような心細い気持ちになった。深刻そうに悩んでる僕を見て、彼女は親切にもまたヒントをくれた。


「この趣味で、前に外に持ち出すって言ったけど、持ち出す場所もいろいろ変えるよ。それも楽しい。だいたいは家のすぐ外なんだけど、時々気分を変えるために遠くに持って出たりすることもあるよ」「この趣味は、私は一つのやり方でやるけど、結果は自分で選べる場合と選べない場合があるよ」「選べれる時は、父が喜びそうなモノを選ぶし、選べなくてもだいたい数種類の中のどれかってことはわかるから、そんな不安はないけど」「あとこの趣味は時間もかからないし、マメな人なら問題ないんだけどな。男性ももっとしたらいいのにって思うよ」「どう?わかってきたかな?」

 

 もう、ギブアップしようかなぁ……ムリだよ……


 頭の中がウニのようにとろとろになっていくような気がした。まったくわからない。僕の不安はさらに大きくなっていった。

 

 結局、この日も答えがわからないまま自宅に帰った。この趣味は女性が多い。

 道具はカッターを使う。やってる時間が楽しい。

 夫婦や家族で競い合うこともある。結果の大きさや用途はいろいろ。

 食べられるモノもある。全国いろんな所でしてて大会とかもあり、その趣味の雑誌も出てる。水分を少しだけ使い、やった後は外に持ち出す。

 で、上司の男性がこっそり隠しながらする。なんだよそれ。

 結果としてコンビニとかで買い物できる。キャラクターものとか種類も豊富。

 で、結果が自分で選べない場合がある。気分を変えて遠くに持ち出すこともある。

 しかし、いろんなヒントたちが行き場もなく頭の中をグルグル回るばかり。


 これだけのヒントでわからない趣味があるなんてどう考えてもおかしい。

 やはりここはホントは僕の住んでる世界とは微妙に違うんだ。よく注意しないと気がつかないくらい微妙な違いがあるんだ。

 たしか、こういうのって並行世界っていうんだよな。僕はこの時、真面目にそう思った。でもこの迷える世界から抜け出す方法が一つある。

 彼女の趣味を教えてもらい、自分の知ってる趣味だと納得することだ。

 もし、答えを聞いてもまったくわからなかったら、その時は……どうしよう。

 でもあまり深刻に考えるのはよそう。

 

 僕は来週、また彼女に会った時、ギブアップして答えを聞くことに決めた。

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