ありえない趣味

外山 脩

第1話 彼女の趣味とは

 生きていると知らないことはたくさんある。

 その一つが、違う世界への入り口だとは誰も思わないだろう。

 僕の場合は、たまたま親しくなった女性の趣味を聞いたことが始まりだった。


 彼女と僕は同じ書道教室に通っていて、その中で20代の生徒は僕と彼女の二人だけだったこともあり、自然にいろいろと話すようになった。

 彼女は27歳。僕より2歳年下で物静かな見た目も清楚な癒し系。

 

 ある日僕が「書道の他になにか趣味はあるの?」って聞いてみると

「それは、ちょっと……」と彼女は困ったようにうつむいた。

 そんなに言にくい趣味なのかな。そう思うと僕は余計に聞きたくなった。 

 ムリに聞こうとしても、やはり言いにくそうなので、彼女の趣味を僕が当てたら教えてもらえるってことになり、はじめはありきたりな趣味を一通り答えたけど、なかなか当たらないので彼女はいろいろなヒントをくれた。

 家に帰っても僕はまとまりのない断片のようなヒントを何度も思い出していた。


「この趣味をしてる人は、特に女性が多いかな。30代が割合として多いかも」「私は自宅でしかしないけど、図書館とか喫茶店とか、コンビニのレジの近くや入口付近でしてる人もいたよ。電車の中でしてる女子高生ともかたまにいるし」とか「私は小学校5年生からしてるよ」「この趣味は全国の人がやってて大会とかもあるし、サークルとかもあるよ」とか「書店で毎月この趣味の雑誌もでて、私は定期購読してるよ。年間契約したらオマケがもらえるし。でもこの趣味をしない人にはいらないものだけどね」

 

 次々といろんなヒントをいわれたけど、僕にはまるっきり検討もつかなかった。

 彼女は以前お見合いをした時に、この趣味が原因で相手が引いてしまい、付き合いが自然消滅してしまったらしく、それも言いにくくなった理由らしい。

 たかだか趣味くらいで彼女のような素敵な女性と別れたりする男性がいるなんて信じられない話だった。 

 

 その後も悩み続けてる僕に、彼女はさらにいろいろなヒントをくれた。

「この趣味は、カッターとかハサミを使うときがあるよ」「あと、家族や夫婦でも競い合ったり、男性で同じ職場の50代の上司がこの趣味をしてて、終わるとこっそり自分の引き出しに隠すのを見たことあるよ。男性は大抵この趣味をしてることは隠したがるみたいね」「あと、この趣味をしてる芸能人も何人かいてテレビで見たことあるよ」 

 

 いったいなんだろう……まったくわからん……


 すごく答えが見えそうな気がしてきたけど、やはりこれだけではまだわからなかった。ペーパークラフトとか何かの工作かな。50代の上司が会社ではやらないよな。

 いままでのヒントを考えるとそんなありふれたものじゃない感じがする。

 ペーパークラフトはもちろん不正解だった。

 いろいろなヒントが増えることで僕の頭は混乱するばかりだった。

 とにかく何か細かい作業みたいだな。そこを重点的に考えよう。そうすればきっと答えにたどり着く。

 

 それから一週間悩んだけど結局彼女の趣味はわからず、次の書道教室の帰りに、すこし話を聞きたいといって彼女をお茶に誘った。

 コーヒーを片手に悩んでる僕に、彼女はまたヒントをくれた。


「この趣味をした結果は、いろんなモノがあって大きさも違うよ。私がいままでしたの結果の中で一番大きかったのはね、私の身長くらいで155センチもあるんだよ。それを見て父が「すごい!」って言ってたよ。父の好みとしては小さいモノのほうがいいみたい。大きいのは場所もとるし、使えないって言われちゃった。でもこの大きいのはすごくてね、今も家で毎日大活躍してるよ。多分まだ10年くらいは使えると思う」さらに「あとこの趣味は、ちょっとだけど水分が必要かな。1滴か2滴くらい。これは大ヒントだよ」「あと、この趣味をした後はできたものをすぐに外に持ち出すときもあるし、台所に数日くらい置いてから外に持っていくよ。置き場所は人によって違うよ」「最終的な結果はさっきの大きいモノのほかは食べられるのもだったり、日頃使うものだったりいろいろだよ」


 いや……たくさん出たんだけど……よけいわからん……


 しばらく考えたけど、僕の頭の中は混乱するばかり。しかし、こんな趣味ホントにあるのかな。

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