第十七話

更新が遅れて申し訳ありません。今度こそ、ここからfile1の完結に向かって走ります。最後までお付き合いいただけると幸いです

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「はぁ...」


 僕は部室からぼーっと窓の外を眺めていた。ザーッと静かな部室に雨音が響く。雨が降る日は気持ちがどうしてもマイナスになってしまう。心なしか、少し不安すら覚えてしまう。


「兄さん、ため息なんて吐いたら幸せが逃げるわよ?」


「別にいいじゃん。それに、悪いことだけじゃないんだよ。ため息を吐くとリラックスできるんだってさ」


 僕のその言葉を聞いた椿は、やれやれと首を振る。


「あのねぇ、今の兄さんには確かにリラックスは必要よ?でもね、ここでやるようなことでもないでしょうに。兄さんがそうやって落ち込んでると周りも暗い雰囲気になるんだから」


 僕は周りを見てみる。椿は少し顰めっ面をしながらこちらを見ている。美桜先輩は、さっきから下を向いてブツブツと何か言っている。雫はいつも通り本を読んでいた。


「見た感じ変わってるのは椿だけっぽいよ?」


「もぉ!兄さん、普段からもっとシャキッとしてよ」


「椿は逆にもっとリラックスした方がいいかもよ?少し肩に力を入れすぎだよ」


 ムキーッと椿が何度も地面を強く踏みつける。相当今のが頭にきたようだ。


「すみません、私先に帰ります。夕飯の支度もしなきゃ行けないので」


 ガタッと勢いよく立ち上がり、部室を出ようとする。


「あ、僕も行くよ」


「兄さんは来なくていい!」


 バタン!と勢いよく部室の扉が閉まり、早々に出て行ってしまった。


 あぁ、やってしまったなぁ。なんて思いながらまた窓の外を眺める。


 それからまた部室内は静寂に包まれる。カチッ、カチッと秒針の動く音、そして時折本を捲る音が聞こえて来る。


 それから少しすると、ガタッと椅子を引いて立つものがいた。


「椿さんも帰ってしまったことですし、私たちもそろそろ帰りますか」


 そう言って美桜先輩は自分のスクールバックを肩にかけて、そのままスタスタと出て行ってしまった。雫は立ち上がる事なく、まだそこに座っている。


「雫は帰らなくていいの?」


 僕の問いに、雫は一旦本を閉じてこちらを見る。


「大丈夫、家に両親はいない。私一人暮らしだから」


「え?そうだったの?」


 初耳だ。一年の時から付き合いがあったが、別にお互いの家に行くような関係ではなかった。それに、今のこの状況で一人暮らしとなると、少し心配にもなる。


「雫、一人で帰れる?」


 僕は心配になって声をかける。それに対し、雫は首を振る。帰えれないって言いたいんじゃなくて、やれやれといった感じだ。


「私はもう高二。この世界にも高二になって一人で帰れない人はほんの少ししかいないと思う」


「あ、そこはいるのね」


「ん、そこはいる。何らかの原因があれば一人では困難な人もいる」


「そうなんだね」


 雫はコクリと頷く。それからまた僕たちの間に静寂が訪れる。


 それから数秒としないうちに、雫は自分の席から立ち上がる。


「帰るの?」


 雫は無言で頷く。


 そのまま扉に向かって一直線に歩いていく。僕はその背中をただ見つめる。


 すると、扉を出ようというところで、雫がこちらを振り返る。


「言うの忘れてたけど、美桜先輩のこと、少し警戒しておいた方がいい」


「え、それはなんで?」


 雫は僕の問いには答えずに、そのまま部室を出て行ってしまった。


「どういうことなんだろ」


 僕の呟きは雨音によってかき消される。さっきまでは雨音によって脳内はクリアだった。だけど、今の頭の中は雫のさっきの言葉でいっぱいだ。


「美桜先輩のことを警戒しておいた方がいい。これはどう言うことなんだろう」


僕は自分の荷物をカバンに入れて、部室を後にした。

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