姿なきもの

Han Lu

 チリリン。

 音が聞こえた。

 小さな音だった。

 小さいけれどその音は、自分の足音に交じって、はっきりと耳に届いた。

 チリリン。

 歩くごとに、その音は足音を追いかけてきた。

 チリリン。チリリン。

 思わず立ち止まって後ろを振り返る。

 十一月半ばの午後五時過ぎ、すでに日は落ちて、街灯の明かりが等間隔に、薄闇に覆われた誰もいない道を照らしている。

「絵麻ちゃん、どうしたの?」

 背後の道を見つめていた絵麻は、はっと我に返って、声のした方へ振り向いた。

「大丈夫? 絵麻ちゃん」声の主が再び尋ねた。

「梅子ちゃん……」つぶやくように答えた絵麻の昏い瞳に、徐々に光が戻ってきた。「うん、たぶん」

 絵麻はまた背後を振り返った。

「何か、あるの?」梅子も絵麻の視線を追って背後に目を向けた。

「音が……」

「音?」

「たぶん、気のせい」首を振って、絵麻は梅子の手を握った。「行こう」

 手をつないだまま、ふたりは歩きだした。

「暗くなるの、早くなったね」

 梅子の言葉に、絵麻はうなずいた。

「だね。でも、よかった。梅子ちゃんと方角が同じで。この道、人通りが少ないから。嫌なの、ひとりで帰るの」

「うん。なるべく一緒に帰ろう」

 中学校を出て十分くらい歩いた交差点で、梅子は立ち止まった。

「じゃあね、絵麻ちゃん。また泊まりにきて」

「うん。梅子ちゃんも今度うちに来て。お母さんが、お礼したいって。おばあちゃんのお葬式に来てくれたから」

「わかった。今度、行くね」

 絵麻はうなずいて、ちらっと来た道を振り返ってから、歩き出した。

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