短編集積所
黒石九朗
C-Ca-001 お題:デート、平凡な話
静岡の街を、肩を並べて行く男女。
片方は三白眼に泣きぼくろ。もううんざりと言わんばかりの面持ちで山ほど本の詰まった紙袋を両手に提げる。
もう片方は黒い蛇のように揺れる長いポニーテール。鼻歌混じりでダンボール詰めの電子部品を脇に抱える。
「ったく、なんで休みの日もこんな大荷物を……」
「そりゃ
男のボヤキをぴしゃりと突き放す彼女の名は
両人が口をそろえて“腐れ縁”と称する関係は、物心がつく前から始まる。
実家が道を挟んだ向かいで、親同士の親交が深かったこともあってか、二人は幼馴染として関係を深めた。
かたや思慮深い本の虫、かたや動かないと死んでしまうわんぱく娘。そんな正反対の二人だったが、見えない“何か”が二人の仲を惹きつける。
小学校では何故かいつも同じクラス。揃って苗字が「か」で始まるせいで最初の学期は班まで一緒になる。
お陰でいつしか、二人は連れ立って行動するのが当たり前になり、近所の山へ遊びに行くのも、テレビゲームを攻略するのも、いつも一緒だった。
そんな関係が終わったのは中学生の頃。思春期に差し掛かった途端にぎくしゃくし始めた二人の関係は、高校受験であっさりと終わりを迎えた。
一人は市外の公立進学校へ電車通学。一人は地元名門私大の付属高校で寮生活。二人は住む場所も、見る世界も断絶してしまった。
もう二度と話すこともない。そう思っていた二人だったが、“腐れ縁”とはそんなにやわな物ではなかったようだ。
大学の入学式直後のオリエンテーション。学科ごとの集まりの中で二人は再会する。
諦めの境地と驚愕の顔。それが互いに見せた久しぶりの表情だった。
「そういやさ、」と歩が切り出す。「なんであんた
2年越しの疑問。凌は頬を赤らめ、答えを渋っていた。が、強めに脇を小突かれて、またあの頃と同じ諦めの顔を浮かべる。
「受かったところ、そこしかなかったんだよ」
「ダッセェ」
「うっせぇ」
答えとその返事も、二人がそれぞれに予想していたそのままだった。あまりにも思った通りだったので、二人は思わず声を上げて笑ってしまう。
2020/11/07 “#Fediverseワンドロワンライ” 参加作品
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