第8話 ジャパロボ8
「ふあ~あ! よく寝た。青い空! 澄んだ空気! なんて幸せなんだ!」
いつものように祐奈は仕事中に居眠りをしていて目が覚めた。
「祐奈教官、昼寝してサボってると綾幕僚長に告げ口しますよ。」
会議の準備に忙しい麻衣であった。
「それだけはご勘弁ください!? 神様! 仏様! 麻衣様!」
相変わらず綾幕僚長には頭が上がらない祐奈。
「確かに仕事量に対して、チーム祐奈の隊員数が少なすぎるんですよ。」
メカニックの久美も会議に呼ばれている。
「でも、そのおかげで緊急出動以外は学校が休みの週末と夏休みと冬休みだけしか出動しなくていいんですから。」
「まあまあ、我々は他の自衛官が土日に休んで家族団らんできるための、土日出撃部隊だからね。」
祐奈教官以外はパイロットは高校生何だからである。
「土日出撃部隊!? ダサい!」
「仕方がないじゃない。私たちは新人発掘オーディション部隊なんだから。」
「せめて超能力部隊とか、サイキック部隊とかカッコイイ呼び方にしてくださいよ。メカニックとして恥ずかしい!?」
新人類部隊はどこへ!? ニュータイプ部隊は使えない。
「春になったら麻理子は卒業で入隊してくれるんだから、それまで我慢しようね。アハッ!」
「それまで久美ちゃん・ジャパロボを改造しまくります。アハッ!」
笑って誤魔化す祐奈。
「さとみちゃんやすずちゃんも正式にチーム祐奈に入れちゃえばいいんじゃないですか?」
「娘たちはまだ高校生だから自衛隊のパイロット候補生として、学校が休みの時にアルバイトとして来てもらうつもりだよ。」
今後の活躍に期待が持てるチーム祐奈。
「祐奈教官。」
「なに?」
「うちに入隊希望者はいないんですか?」
「いるよ。」
国民的英雄の祐奈隊長の部隊に入隊希望者は殺到していた。
「なら面接して、採用しましょうよ。」
「ダメ。私のにわかファンばっかりで厳しい自衛官には向かない人ばっかりだよ。」
「祐奈教官も向いていないと思うのですが?」
「アハッ!」
しかし戦力にならないのではしょうがない。
「あ、一人いたよ。」
祐奈は履歴書を見せる。
「前田みなみ。パイロット希望。ジャパロボ操縦歴は3年。」
「スゴイ! いるじゃないですか! 逸材が! 祐奈教官! 採用しましょうよ!」
「ジャパロボのカスタマイズもできます!? 私の部下に欲しいです!」
麻衣と久美は興奮する。
「よく見て。こいつの所属先。」
「え?」
麻衣と久美は履歴書を見る。
「反大日本帝国同盟ジャパカイダ・・・・・・。」
「なんでこいつ所属先にテロリストの名前を書いているんだ!?」
なんとテロリストからの入隊希望だった。
「よく分からない。でも面白い。こいつに会ってみるか!」
「珍しい! 祐奈教官が食いついた!」
風雲急を告げる。
つづく。
「郵便です。」
「ご苦労様です。」
反大日本帝国同盟ジャパカイダの本部に郵便屋さんが来た。
「あ、みなみ様宛だ。みなみ様、郵便ですよ。」
「ありがとう。」
リーダーのみなみが郵便物を受け取る。
「誰からだろう? ん? んん!? キター!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大声を出して顔色を変えるみなみ。
「どうしたんですか!? みなみ様!?」
「ゴキブリめ! 成敗してやる!」
「事件ですか!? 事故ですか!?」
みなみの悲鳴を聞いて敦子、まゆ、由紀が駆けつける。
「騒がしい! 落ち着け! かまいたち!」
「よく言いますね。一番落ち着いてないのはみなみ様じゃないですか。」
「アハッ!」
笑って誤魔化すみなみ。
「これを見ろ!」
郵便物を敦子たちに見せるみなみ。
「面接の日程の通知ですね。アルバイトでもするんですか? みなみ様。」
「あのな。宛先を見ろ、宛先を。」
まゆは郵便物の宛先を見る。
「大日本帝国防衛省自衛隊所属チーム祐奈!?」
「なにー!?」
敦子たちは天地がひっくり返るほどぶったまげる。
「なぜ!? 敵の本拠地から返信が!?」
「しかも書類選考を合格している!?」
「ええーい!? 自衛隊は頭のおかしい奴の集まりなのか!?」
由紀たちは理解に苦しむ。
「これは罠だ。」
「罠!?」
「そうだ。私たちジャパカイダを壊滅しようと誘いだす罠に違いない。」
「さすが、みなみ様。相手の策略に気づくなんてカッコイイ。」
「それほどでも。」
祐奈が面白半分で書類選考を通過させただけだが、みなみは、それを罠と受け取るのが面白い。相手の罠にかかったフリをしてやろうじゃないか。敦子、まゆ、由紀。おまえたちは面接会場の周囲でジャパロボに乗って待機。いつでも私を助けられるように準備しておけ。」
「了解です。」
こうして面接当日のスケジュールも決まった。
「みなみ様。来ますかね? 広瀬祐奈は。」
「世界中に侵略戦争を仕掛け、何の罪もない人々を蹂躙した大日本帝国のエースパイロット、広瀬祐奈。こいつだけは絶対に許せない! 私が世界中の人々の悲しみと恨みを私が拭い去ってみせる!」
祐奈は大日本帝国に侵略された国々から憎しみの象徴として恨まれていた。
「それに来なくても、恐らくはチーム祐奈の隊員だろう。捕まえて捕虜にすれば私たちは優位に立てる。」
「さすが、みなみ様。恐らく隊長なので広瀬祐奈が来なかった時のことまで考えているんですね。実に素晴らしいです。」
「戦いとは二手三手先のことまで考えておくのだよ。ワッハッハー!」
そしてチーム祐奈とみなみは面接の日を迎えるのだった。
「広瀬祐奈、殺す!」
殺意の溢れるみなみであった。
つづく。
「なぜ面接会場がファミレスなんだ!?」
チーム祐奈と前田みなみの面接は防衛省ではなく、普通のファミレスで行われる。
「それはテロリストかもしれない人を防衛省に入れる訳には行かないでしょ。」
そこに祐奈、麻衣、久美の3人が現れる。
「ほ、ほ、本物だ!?」
みなみは大日本帝国の大人気スターの祐奈の登場に驚く。まさか面接に本人が来るとは思っていなかったからだ。
「私はおまけみたいなものだから、気楽にやってね。」
「は、はい。」
祐奈に緊張するみなみ。
「ごめんなさいね。こんな朝早くに。」
「いいえ、お忙しいから朝しか時間が取れなかったんですよね?」
「モーニングの時間だからよ。」
「はあ!?」
「久美ちゃん、ドリンクバーに行ってきます!」
「よろしくね。私と祐奈教官の分もね。」
「ラジャー!」
ファミレスで早朝の面接。その理由はファミレスのモーニングサービスの時間だった。
(なんだ!? この和やかな雰囲気は!? 罠ではなかったのか!?)
「ふう~。」
みなみは少し緊張がほぐれる。
「前田さんも行ってきていいわよ。ドリンクバー。」
「え!? いいんですか!?」
「いいんです。ほら、もう祐奈教官は寝てるし。」
「ええー!? 面接中に寝てる!?」
「zzz。」
いつでも、どこでも、どんな時も祐奈は良い子なのでよく眠る。
「これが!? 本物の眠り姫!?」
(なんなんだ!? この想像していたイメージと違いすぎる!? これが世界を恐怖のどん底に落とし込んだ大日本帝国のエースパイロットだというのか!?)
みなみは祐奈の想像と実物のギャップに戸惑う。
「それでは面接を始めます。」
「宜しくお願い致します。」
ここに大日本帝国所属のチーム祐奈と反大日本帝国同盟ジャパカイダのボスみなみとの非公式会談が始まる。
「まず、どうしてチーム祐奈に入ろうと思ったのか、志望動機をお聞かせください。」
「復讐するためです。」
「復讐!?」
「はい。私は姉を戦争で失いました。」
「お姉さんを。それはお気の毒に。」
「なぜ姉が亡くならなければいけなかったのか、なぜ姉が亡くなるような事態になったのかを考えました。その結果が自分に力が無かったからです。もし私に強い力があれば姉さんを失わずに済んだんだ!」
みなみの言葉には実感がこもっていた。
「これも全て、世界の均衡を破壊してしまった大日本帝国自衛隊のエースパイロット、広瀬祐奈のせいだ!」
「zzz。」
自分のことが言われているとも感じないで祐奈は寝むり続けている。
つづく。
「弱気者の痛みを教えてやる!」
みなみは寝ている広瀬祐奈に宣戦布告する。
「合格。」
「はい?」
「正義感が強くて素晴らしい! 私は気に入ったわ。」
「え? あの・・・・・・私の話を聞いていましたか?」
「聞いてて涙が出てきたわ。あなたはお姉さんを失って悲しかったのね。寂しかったのね。分かるわ。あなたの、その気持ち! 私も気が付いた時には仲間は全員いなくなっていたの!」
今明かされる麻衣の壮絶なる過去。
「それはおまえが100トン・サンマーで殴りまくるから、みんなが逃げ出したんだろうが。」
「アハッ!」
久美がチャチャを入れる。
「一人で寂しくしていた時に祐奈教官に拾ってもらったの。もし祐奈教官に出会っていなければ、今頃私はサンマ漁船に乗っていたでしょうね。」
哀愁の漂う麻衣。
「そんなことがあったなんて。」
(もしかして広瀬祐奈という人間は、そんなに悪い人間ではないのか?)
みなみの祐奈に対する偏見が薄れていく。
「次にチーム祐奈でメカニックを担当している久美ちゃんからの質問です。履歴書にジャパロボの操縦歴とカスタマイズができるとあったけど、今までの乗ったジャパロボの機体とカスタマイズの実験例を教えてください。」
「はい。今までに都庁01タイプに乗りました。カスタマイズは、ブレイン・ウェイブ・システムを改良したり、ジャパロボ・ビックの触手や高エネルギー砲を作成しました。」
「んん? それってどこかで聞いたような?」
「あれじゃない? 東京都ジャパロボ開発機関からジャパロボが強奪された事件がったじゃない。」
「ああ、そのジャパロボに迷惑な脳波システムが搭載されていて、世界中のブラックマーケットに技術が流出したってやつね。」
「そうそう。全国ジャパロボ大会の決勝戦のジャパロボ・ビックも脳波システムで無数の触手と高エネルギー砲を動かしていたっていう。あれよ。」
心当たりのある麻衣と久美。
「ん? どうして前田さんは日本帝国の秘密事項を知っているのかな?」
「だから私は東京都ジャパロボ開発機関からのジャパロボの強奪の実行犯、全国ジャパロボ大会に巨大ジャパロボ・ビックを元東京都知事大江百合子に提供したテロリスト集団、反大日本帝国同盟ジャパカイダのリーダー、前田みなみだと履歴書に書いたはずですが?」
みなみは口上を述べる。
「確かに履歴書に書いていた!?」
麻衣と久美はみなみの履歴書を思い出した。
「ギャグでなく本当だったのか!? どうしましょう!? 祐奈教官!?」
「zzz。」
「こんな時に寝ないでくださいよ!?」
どんな時でも眠れる祐奈であった。
つづく。
「こんな状況でも寝ているとは!? 私を舐めているのか!? それとも寝ていても私に勝てると余裕があるのか!?」
テロリストと告白しても眠り続ける祐奈に、みなみはプレッシャーを感じていた。
「zzz・・・・・・もう飲めません・・・・・・え!? つまみだしてくれるの・・・・・・すまんな大将・・・・・・ジュルジュル・・・・・・zzz。」
いつでも、どこでも、誰とでも眠れる快眠祐奈。
「本当に、こんな涎を垂らして寝言を言って寝ている女が、世界を恐怖に追いやった日本の地獄魔女なのか!?」
みなみは大日本帝国の世界征服は祐奈によって行われたと思っている。
「違うわよ。」
「なに!?」
「祐奈教官は寝ていただけよ。」
寝ていただけ。それが汚れない祐奈が眠り姫といわれる所以である。
「なんだと!?」
「大日本帝国による、ジャパロボ世界大戦が行われた時に使われたのは、祐奈教官の戦闘データよ!」
今明かされる衝撃の事実。
「戦闘データ!?」
「第2回全国ジャパロボ大会までの祐奈教官の戦闘データをコピーして、量産したジャパロボに搭載したのよ。だから全世界に祐奈教官並みの戦闘ができるジャパロボが大量に投入されたのよ。だから1週間で大日本帝国は全世界を支配することができたのよ!」
第3回全国ジャパロボ大会の開催に合わせて世間の注目を集め世界中の人々を油断させ、大会の開始と共に大日本帝国は世界に侵略戦争を仕掛けたのだった。
「祐奈教官は第3回ジャパロボ大会に出場していた! だから祐奈教官は悪くありません!」
「そ、そんな!? それでは私は何の罪もない、この人を恨み続けていたというのか!?」
眠り姫、祐奈。ジャパロボ界の生きる伝説。ジャパロボに関心のある者なら知らない者はいない憧れの存在。みなみも平和に生きている時は祐奈に憧れていた。しかし立場が悪くなり、テロリストになると自分の不幸は祐奈のせいだと、憧れは復讐のターゲットになっていた。
「あなたの誤解なんて優しいものよ。」
「なんだと!?」
「平和な世界を我が物にしようと世界戦争を仕掛けたのが誰だと思う?」
「なに!?」
「当時の防衛省ジャパロボ大臣、現大日本帝国の国王、森田皇帝よ。」
「大日本帝国の皇帝の名前ぐらい私だって知っている!」
「森田皇帝って、祐奈教官のお父さんなのよ。」
今明かされる祐奈の悲劇。
「バカな!? それでは父親が世界を欲するために娘のデータを培養して、世界を火の海にしたというのか!?」
「そうよ。知らない間に自分が世界中の人々を虐殺していたことを知った祐奈教官の悲しみは、自分勝手にテロ行為を行っているあなたには分からないでしょうね。」
「zzz。」
寝ている祐奈も涙を流す。
つづく。
「私は要らないの? 祐奈は要らない子なの? 私を捨てないで! お父さんー!!!!!!!!!!」
祐奈は悪夢を見る。それは父親に捨てられる夢だ。
「必要とされるのは、ジャパロボの優秀なパイロットとしての戦闘データを取るためのモルモットとしての自分か。」
回想が始まる。これは綾幕僚長が、まだ祐奈の教官であった時の話だ。
「zzz。」
祐奈は眠り続けている。
「まさか祐奈はんのお父さんが世界に侵略戦争を仕掛けるとは!?」
まだ祐奈のジャパロボのAIロボットの明治天皇は生きている。
「ただの負け組のゲーセンのオッサンやったのに出世したもんや。」
祐奈の父親の森田は、ただのゲームセンターのアーケードゲームを開発する倒産寸前の中小企業の社長だった。カーロボットゲーム「ジャパロボ」を開発しヒットし、日本政府に買収されジャパロボ大臣になった。
「権力を持つと人って変わってしまうんだろうね。」
そして第2回ジャパロボ大会が行われている頃には、空っぽのジャパロボの量産を富士の秘密工場で行っていた。もちろん世界を我が物とするためだ。
「全国ジャパロボ大会で祐奈はんは3連覇したけど、そんな喜びは一瞬で吹っ飛んでしもたわ。」
「そりゃあ、そうだろう。森田が大量の無人量産機に搭載されたAIのデータが娘の祐奈の戦闘データだからな。まったく残酷なことをしやがる。」
娘より世界征服を優先した父、現大日本帝国森田帝王。
「これより日本国は大日本帝国を名乗り、全世界を支配する! ワッハッハー!」
ジャパロボによる世界征服が達成されたのであった。
「なんだ!? この私に流れ込んでくる悲しみは!?」
(キャアアアアアアー!?)
(いや!? 死にたくないよ!?)
(どうして!? 私たちは何も悪いことをしていないのに!?)
戦争の悲しみが世界中から祐奈に注ぎ込まれる。
「それに・・・・・・憎しみ!? 私は何もしていないのに!?」
(許さないぞ! 大日本帝国!)
(森田祐奈! うちの娘を返せ!)
(うおおおおおおー!?)
そして戦争の悲劇は新たな負の感情を生み出す。
「嫌だ!? 嫌だ!? 来るな!? 私は何もしていない!? 私は悪くない!? 悪いのはお父さんだ!? ギャアアアアアアー!?」
精神が崩壊した祐奈は、その時から眠り続けているのだった。
「わてが祐奈はんの夢の世界に行きます。祐奈はんが怖い夢を見ないでいいように。」
「悪夢の精霊ナイトメア・システム!? 完成していたのか!?」
夢の変換装置である。
「祐奈はんには、寝相が悪くて破壊したと言っておいてや。この子を悲しませたくないんで。」
祐奈のジャパロボのAIロボットの明治天皇が姿を消した本当の理由であった。
つづく。
「はあ!?」
目覚めた祐奈には悲しみを思い出させない仕掛けが必要だった。
「おまえは今日から、この子のお母さんだ。」
綾教官から赤ん坊の女の子を手渡しされる。
「なんで私がシングルマザーにならなければいけないんですか!?」
「おまえの細胞から作った子供だからな。当然、おまえが育てるべきだ。」
赤ん坊は祐奈の細胞から作られた遺伝子操作された子供であった。
「いつの間に!?」
「おまえが寝過ぎなのだよ。逆らうのか? これは上官命令だ。命令に従えないのであれば、裸逆さ吊りでジャパロボに吊るすしかないな。」
「お許しください!? それだけはご勘弁を!? 私に人権はないんですか!?」
「ない。」
あっさりと言い放つ綾。
「この子は任せたからな。私に育児放棄の幼児虐待でおまえを逮捕させるなよ。」
綾は祐奈の元に赤ん坊を置いて去って行った。
「子育てなんかしたこともないのに、私にどうしろという!? おい、明治天皇、おまえが・・・・・・しまった!? 明治天皇は私の寝相が華麗過ぎて壊したんだった。」
今も明治天皇は祐奈の中で生き続けている。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
子供が泣き始めた。
「ウワアアアアアー!? お腹が空いたのかな!? 私は母乳なんかでないぞ!? 牛乳でも飲んでくれるのかな!?」
祐奈の育児が始まった。
「泣かないで!? 赤ちゃん!? ・・・・・・そうだ。この子の名前を決めなくっちゃ。」
その時、本棚に不思議の国のアリスがあった。
「アリスはそのまんまだから・・・・・・イリスにしよう。」
「おぎゃあ!」
「そうかそうか、おまえも名前が気に入ったか。わ~い。良かった。」
「おぎゃあ!」
「そうだ。名字も森田のままでは、この子も危険にさらされるかもしれない。いっそう、この機会に名字も変えるか。」
再び祐奈は本棚を見た。女優広瀬の写真集があった。
「よし。今日から私は広瀬祐奈だ。赤ちゃん、あなたの名前も広瀬イリスですよ。」
これが祐奈が森田から広瀬に名字を変えた経緯だった。
「おぎゃあ!」
「ワッハッハー!」
新しい家族ができて久しぶりに祐奈の顔に笑顔が戻った。
「お母さん、負けちゃったよ。」
(相手の優子はお母さんのチームの自衛隊パイロットだとは言えねえ!?)
第4回全国ジャパロボ大会で準優勝になったイリス。遺伝子操作ですくすくと1年で16才にまで成長していた。
「大丈夫よ。イリスはよく頑張ったわ。ご褒美を用意したのよ。」
「やったー! お母さん大好き!」
仲睦まじい親子である。
「はい! あなたの妹のさとみちゃんです!」
こうして妹のさとみは姉のイリスの準優勝の記念に誕生した。
「え!? マジ!?」
「イリスちゃんを育てていたら、楽しくてもう一人子供が欲しくなっちゃった。アハッ!」
「嘘でしょ!? お母さんが育児ノイローゼで私を育てられないっていうから、私は培養液に入って急速成長させられたんだからね!?」
不妊治療など必要ない科学力であった。
「zzz。」
「こら!? 寝るな!? お母さん!?」
寝て誤魔化す祐奈であった。
つづく。
「すごいな! 眠り姫! 私、大きくなったら祐奈ちゃんみたいにジャパロボのパイロットになる!」
「ズルい!? 結子お姉ちゃん!? 祐奈ちゃんになるのは私よ!」
これはみなみの亡くなった姉との幸せの記憶である。
「私、祐奈ちゃんファンクラブに入る!」
そしてジャパロボに興味がある人間は誰しも、時の大スター祐奈に憧れるのであった。
「お父さん!? お母さん!?」
大日本帝国が全世界に宣戦布告した。
「逃げろ! こっちに来るな! 結子! みなみ!」
その時、日本国も諸外国の多少の反撃にあった。
「嫌-!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
建物が攻撃され、その瓦礫の下敷きになったみなみの両親は亡くなった。
「お腹空いた・・・・・・。」
みなみと結子は両親を失い住むところも家賃が払えなくなり追い出されて路頭に迷う。
「どうしてみんな助けてくれないの? どうして大人は冷たいの?」
「・・・・・・。」
妹のみなみの素朴な質問に答えることができない結子。地方公共団体の事務所に行っても、住所が無いからと最後のセーフティーネットの生活保護を断られた。
「こんな世界は嫌だ。私は死にたい。お父さんとお母さんがいる天国に行きたい! 天国では美味しい物をたくさん食べて、誰も私たちをいじめないんだよ! もうこんな世界は嫌だ!」
孤児で難民となり公園で薄汚くホームレス生活を送っている前田姉妹。
「私、テロリストになる! 誰もこの歪んだ世界を変えてくれないのなら、自分で世界を変えるしかない!」
餓死寸前の姉、結子は大切な家族の妹のみなみを食べさせるために、手を悪に染めることを決めた。
「万引き、ひったくり、食い逃げ、置き引き、何でもやってやる!」
「お姉ちゃん!? そんなことをしたら警察に捕まっちゃうよ!?」
「法律なんてものは、時の権力者が自分たちにとって都合の良いように好き勝手決めたものだ。私たちのような弱者のことは考えてないんだよ。この世の中のルールじゃ、私たちは救われない。」
既得権益者が大嫌いになっている結子。
「嫌だよ!? 捕まったら私は一人ぼっちになっちゃうよ!? 結子お姉ちゃんがいないと私は生きていけないよ!?」
姉が大好きなみなみであった。
「大丈夫。私は必ず帰って来るから。絶対にみなみを一人にはしないよ。」
「うん。結子お姉ちゃん大好き。」
優しく微笑む結子とみなみ。
「待て!? 泥棒!?」
「捕まえて!? 万引きよ!?」
「金払え!? 食い逃げだ!?」
生きるために窃盗を繰り返した結子。
「美味しいね。お姉ちゃん。」
「いっぱい食べろ。みなみ。たくさんあるぞ。」
前田姉妹は健気に生きていく。
「みなみ、お姉ちゃんは立派なテロリストになってみせるぞ!」
「がんばって! 結子お姉ちゃん!」
これが反大日本帝国同盟ジャパカイダの始まりであった。
つづく。
「そんな!? バカな!? 私は何の罪もない祐奈さんを恨んで、復讐だと思いジャパロボを奪おうとして結子お姉ちゃんを失ったというのか!?」
憎しみの対象だった祐奈が復讐べき相手ではないと知ったみなみはショックで動揺していた。
「もう、あなたにも分かったはずよ。私たちに戦う理由はないのよ! 復讐するべき相手は祐奈教官じゃないわ! 本当に倒すべき敵がいるってことに!」
「本当に倒すべき敵は・・・・・・現大日本帝国の森田皇帝・・・・・・実の娘を世界征服の道具に利用した酷い男・・・・・・戦いを生み出す悪の権化。」
みなみにも分かっていた。
「いつも寝ながら祐奈教官はお父さんを倒す機会を待っているのよ。」
「なに!? 実の父親を倒すというのか!?」
「そうよ! 祐奈教官は自分の父親が世界の人々に酷いことをしたと心を痛めているのよ。これ以上、悲しみの連鎖が続かないようにするには、圧倒的な武力で恐怖支配しているお父さんを倒すしかないと心を決めたのよ!」
「zzz。」
こんな時でも祐奈は眠っている。
「みなみさん! あなたの力を貸してちょうだい! 世界から戦争を失くしたいという私たちの想いは同じはずよ!」
(どうする? この人達を・・・・・・祐奈さんを信じていいのか? もう一度だけ人を信じていいのか?)
みなみの心は揺れ動く。姉を失った悲しみと憧れの人だった祐奈との間で。
「みなみさん! 私たちと一緒に戦いましょう!」
「それは無理です。」
表情も目つきも雰囲気も一瞬で黒く変わってしまった。
「思いだけでは何もできない。力が無ければ。」
「みなみさん?」
「私は持っている。戦争を終わらせる力を!」
その時、空から1体のジャパロボが現れる。
「きゃあ!? 何!?」
「なんだ!? あの見たこともないジャパロボは!?」
「お姉ちゃんだよ。このジャパロボのAIロボットには私の残留思念、思い出から抽出した結子お姉ちゃんなの。」
「なんですって!?」
「そんなことが可能なのか!?」
みなみ専用ジャパロボ・AI結子お姉ちゃん搭載型である。性能は自衛隊でいえば05タイプ以上の性能は確実である。
「私には力がある。おまえたちなんかと・・・・・・う!? 痛い!? 頭が割れそうだ!?」
「どうした!? みなみの様子が変だ!?」
みなみはジャパロボに吸収され、飛んでこの場から去っていく。
「採用! みなみちゃんは面白採用だ! アハッ!」
その時、ジャパロボの飛び立つ大きな音で目が覚めた祐奈。
「・・・・・・。」
冷たい目線を向ける麻衣と久美。
「どうしたの!? 私が何か悪いことをした? 私はただ寝ていただけだよ。祐奈、悪くないもん。おやすみなさい。」
「寝ないでくださいー!」
相変わらずの祐奈であった。
つづく。
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