第8話戦争と戦争の間4

僕は自室で目を覚ました。ここは空母祥鳳の士官室。僕の部屋は本来、上級士官の使うものだ。それで僕の部屋は少し広い。中尉の僕が使わせてもらえる様な部屋では無いんだ。僕がこの部屋を使う事が出来るのは、僕が魔法兵の小隊長を兼ねているからだ。この部屋は魔法小隊の指揮所も兼ねているんだ。


僕は兵学校では航海科を学んだ。だから、祥鳳の先代の艦長は僕を航海士の様に扱った。結果的にそれは助かった。僕が祥鳳の指揮ができるのも、そのおかげだったからだ。


それにしても昨日はびっくりした。キュウが変態ドMだった事がわかった事だ。ホント、擬人化兵器って、ドMしかおらんのか? ていう疑問が浮かんだ。未だ3人しか召喚できていないけど、僕のレベルが上がると召喚できる人数が増えるんだ。僕のレベルは珊瑚海海戦前までレベ5だったけど、おそらく今はレベルアップしているだろう。僕のレベルは使い魔である擬人化兵器のレイ、キュウ、ユキの三人の戦闘の結果の経験値で上がる。レイは珊瑚海海戦でレベル5からレベル15まで進んだ。キュウとユキもレベル15だ。おそらく僕のレベルは15だろう。何故なら彼女達は僕のレベルより上にはいけないからだ。レイはあれだけ戦果を挙げたのに、まだレベル15なのは僕のレベル制限に引っかかったからだろう。


僕は今日は先ずレイ達の強化をしようと思った。レイ達義人化兵器を強くするにはレベル上げの他に装備の変更と進化という方法があるんだ。この魔法は使い魔である義人化兵器の主である僕だけができる。


「ステータス」


僕が魔法を唱えると目の前にゲームの様なステータスウィンドウが現れる。やはり僕のレベルは15になっていた。そして、最大魔力量も増えていた。最大魔力量は僕にとってもレイ達にとっても重要なんだ。使い魔のレイ達のエネルギー源は僕の魔力なんだ。僕の魔力が枯渇するとレイ達の魔力、エネルギー源を失い、空を時速750kmで飛ぶ事も、海を40ノットで疾走する事もできなくなり、ほぼ普通の人間になってしまう。レイ達は機銃弾を食らおうが、高角砲に被弾しようが魔力を消耗する事で防御できる。この世界の兵器で勝てる相手じゃないんだ。ただ、これは海軍の中では理解してもらえていない。僕の後ろ盾の軍令部総長でさえ、僕が謎の美少女義人化兵器を召喚でき、レイ達に多少の戦闘能力がある事を理解しているに過ぎない。僕がレイ達の能力を十分アピールしなかったのには理由がある。もし、海軍がレイ達の戦闘能力を知ったら、最前線に出されるだろう。だけど、レイ達は見た目同様、内面は女の子なんだ、変態だけど…彼女達を最前線には送りたくなかった。僕が海軍に従事しているのはあくまで生きる為だ。現代の2021年からこの世界に転生した僕は他に生きていく道が無かったんだ。戸籍も無く、突然、当時の海軍大臣の目の前に現れた僕は、自分の召喚士の能力と異世界人である事を理解してもらわないと、最悪、スパイ扱いで捕縛されそうだったんだ。


この世界は異世界だ。いや、おそらく僕が産まれた現代2021年より70年以上前の日本にそっくりの平行世界。いわゆるパラレルワールドじゃないかと思う。根拠は、例えば、第一航空戦隊の空母は赤城と加賀だった筈だが、この世界では赤城と天城なんだ。僕の前にいた世界の歴史では天城は関東大震災で損傷し、巡洋戦艦の天城から戦艦の加賀に航空母艦化が変更された。太平洋戦争時代の海軍のミリタリーお宅なら誰でも知っている事だ。しかし、この世界では、天城と加賀の造船所が逆だった。その為、天城は予定通り巡洋戦艦から航空母艦へと改装された。その他にも、日ソ不可侵条約において、日本はサハリンの油田の採掘権を放棄したが、この世界では辛抱強く交渉して採掘権を放棄しなかった。油はある程度国内で賄えるのだ。それなら米国との戦争はもう少し、慎重に考えれば良かったんじゃないかと思うが、新聞等を見ると、右翼思想まっしぐらで、強気の意見しかなかった。ある意味、日本人全員が論理的思考能力を失っていたんだと思う。つくづく島国根性は怖い、皆が右翼思想だと、誰一人それを否定しない。日本人は信号が赤でもみんなで渡れば怖くないというブラックジョークがあるが、あの真の意味が分かっている人は何人位いるだろうか?


僕は思考を又使い魔達に戻した。使い魔の召喚には魔力がいる。最大魔力を超える使い魔は召喚できない。例えば艦船の義人化兵器がユキしかいないのは、戦艦や空母を召喚できる魔力量がないからだ。航空機であるレイやキュウに比べて艦船のユキの召喚にはとてつもない魔力がいる。軽巡を召喚するには更に魔力がいる。今の僕はようやく軽巡の義人化兵器を召喚できそうだが、そんなに簡単に召喚できるものでもない。この召喚のシステム、限りなくゲームのガチャに近い。例えば艦上爆撃機枠のキュウを召喚する時、10回ガチャを引いて、11回目でようやく出てくれた。レイの時は一発で出たけど、キュウは11回目、ユキは7回目でようやくといったところだ。


僕はステータス画面でレイの進化を行った。レイ達義人化兵器の事はこの世界に僕を転生させた女神のおかげか、魔法の扱い方を何故か理解していた。レイは零式艦上戦闘機一一型から二一型へ進化した。レイのパラメータを見ると、速度や火力、魔力があがっていた。実際の一一型と二一型の違いはほとんどない、一一型は局地戦闘機として作られた為、着艦フックが無い事が相違点位だが、レイは大幅にステータスアップしていた。この辺は史実とは関係ないのだろう。僕にとっては嬉しい、レイが戦死なんてしたら、自分が許せない。レイ達は魔力が尽きて人間同様の時に被弾したり、激しい攻撃に会い、HPが0になるとLOSTする。LOSTは義人化兵器にとっては死と同じだ。二度と帰ってこないのだ。同じ個体は…


続いてキュウの進化を行う。キュウは九九式艦上爆撃機一一型から二二型へ進化した。ステータスも大幅に上がった。


「これでキュウの空戦能力も上がるな」


僕の心配はキュウの対空能力だった。僕はキュウ達を敵艦隊攻撃にだなんて使う気はない。いくらレイやキュウでも米空母の艦載機がうじゃうじゃいるところにたったの二人で突っ込ませたら、おそらく帰還は難しいだろう。もしかしたら、友軍と帯同する事は強いられる事はあるかもしれないが、現状未だ連合艦隊はレイやキュウの能力は知らない。当分とぼけるべきだろう。僕にとって連合艦隊よりレイやキュウ、ユキの方が大事なんだ。特にレイは僕の恋人なんだ。それはわかって欲しい。そもそも僕達がどんなに頑張っても米国に勝てると思えない。キュウだって、原爆を装備できる訳でもないし、そんな命令を出したくなどなかった。


最後にユキの進化を行う、ユキは駆逐艦雪風から駆逐艦雪風改一になった。ステータスが大幅に上がる。


「近接火力はほとんどチートだな」


僕は思わず呟いた。ユキの火力は雷撃ができない距離だと微々たるものだが、至近距離から雷撃すると戦艦以上の火力だ。それに本物の駆逐艦と違い、魔力が尽きるまで何度も魚雷を発射できる。しかも、ユキは電探も装備可能なんだ。未だレベルが低いけど、レベルが上がれば10回雷撃可能という事もあり得る。一人で、戦艦一部隊を葬る事も可能になるかもしれない。もっとも、至近距離に近ずく前に戦艦の主砲や福砲が着弾したら、ユキの命はないだろう。だからそんな戦いは命じたくない。現状、祥鳳の防空任務についてもらい続けるつもりだ。そう考えるとユキの防空能力が向上したのは嬉しい。


僕はレイ達の進化を終えると着替える為、ベッドから立ち上がって、ロッカーのドアをあけた。


「――――――~~~~ッ!!!!」


 びっくりした。ホントにビックリした。ロッカーを開けるとそこには女の子座りで座っていたユキがいた。全裸で……


ユキは僕と目が合うと、初めて笑顔を僕に向けた。とても素敵な笑顔だった。ユキはあんなに素敵な笑顔ができるんだ。ユキは言葉も少なく表情もほとんど変えない。だから、ユキが笑う処は初めて見た。


でもユキ、人のロッカーに全裸で忍びこんで、発見されるまでずっとそんな狭い処に座りこんでいるのだなんて、やっぱり、ユキも、変態……昔、新宿の駅のロッカーに全裸でずっと発見されるまで、全裸で中に居続けた変態がいると聞いた事がある。ユキはそういう人と同類なんだね?


それに、変態を暴露した時にこんなに素敵な笑顔するの止めて欲しいな。とても魅力的な笑顔が台無しだよ。

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