僕は君の世界になりたかった。
常闇の霊夜
それが出来ないのは僕が一番分かってるはずだった。
僕は生まれた。君は僕を産んで、目の前にいた。それは子供だった。
「出来た!よしロボット!動け!」
「了解しました」
「んもー。敬語とか使わなくていいよ!私は『』!これからよろしくね!」
僕は彼女を始めて見て、変な奴だと思った。まるで僕を一人の人間のように扱うからだ。
「それじゃあ……これになって!」
無邪気に彼女が渡してきたのは、ジェットコースターの写真だった。僕はどうやら写真を見ると、それを再現できる能力を持っているらしい。だから彼女を乗せて、僕は走る事にした。
「楽しいね!」
「……そうですか」
僕にはどこが楽しいか分からなかった。それでも、彼女と一緒にいるだけで胸の奥が温かくなっていった。その後も彼女といっぱい遊んだ。時には彼女がけがをしてしまうこともあったけど、その時は僕が直した。僕が壊れてしまっても、彼女が直してくれた。
「ねぇ『』」
「何ですか『』」
「……いつになったら外に出られるんだろうね」
「……それは分かりませんね」
ただ、彼女はどうやらこの場所に監禁されているようで、ここから出たことが無いのだという。変な奴がたまに入ってくるが、その時はいつも僕が追い返している。ただ一度だけ殺してしまう程に殴ったことがあった。彼女に対して罵倒を浴びせたからだ。でも彼女はそれを咎めた。
「いい?人間は友達だから、あんなことしちゃだめ!いい?」
「……ですが僕は『』があんな風に言われるのが耐えられません。……いっそ殺してしまえば……」
「駄目!絶対に駄目!……そうだ。じゃあ約束しよ?私が駄目って言ったら絶対にそれはしちゃいけない、って。約束」
「……分かりました」
そう言うと彼女は僕の指を持って指切りという物をしました。約束するときにはこれをしなくてはいけないとのことです。
「じゃああそぼ!」
「はい」
それでも、奴らは彼女へ罵倒を浴びせてきました。時には彼女を殴ろうとしたりもしました。僕はそれを止めたりもしましたが、殺しはしませんでした。彼女と約束したからです。
「……」
「そう言えば、『』って笑わないよね?何で?」
「ロボットですから」
「……ふーん……じゃあ私、絶対に『』を笑わせてあげる!約束!」
「……はい。分かりました」
彼女は感情と言うものを、その日以来教えようとしてきました。正直よくは分かりませんでしたが、何だかいい感じのものだという事がわかりました。そしてある日、僕は外に出ることが出来るようになりました。奴らがそう言ったのです。
「……絶対に帰ってきてね?」
「えぇ。約束です」
きっとその時の僕は、微笑みを彼女に浮かべていたのでしょう。そして僕は街に行って、沢山の食べ物を買いました。彼女が食べたいといっていた物も、沢山買いました。けど、彼女の部屋に戻っても、彼女は出てきませんでした。
「……?『』?『』!?」
慌てて部屋を探すと、そこには両手両足をバラバラにさせ、ゴミのようにベッドに寝かせられている彼女の姿がありました。彼女には他の人間の体液もかかっており、何があったのかは一目瞭然でした。
「『』!」
「……『』?いるの?」
「……『』……!はい……!」
「……ごめんね。約束。守れないみたい。本当に、ごめんね」
奴らは彼女を使うだけ使って、用が終わったらゴミのように捨てたのだ。最初から彼女は利用されていただけだったのだ。それに気が付いた瞬間、奴らがなぜ彼女に散々な事を言っていたのかを理解してしまった。そりゃするだろう。彼女の事など一切考えていないのだから。今日僕を街に行かせた理由は、邪魔だったから。
「……『』……約束を守ってくれるって言ったじゃないですか……!指切りも……もうできないじゃないですか……!」
僕は泣いた。ただひたすら泣いて、泣き続けた。涙が出るわけがないのに出続けた、そしてここで理解した。これが悲しみなのだろう。これが憎しみなのだろう。これが……怒りなのだろう。
「こんなものが感情なら……!これが苦しいのなら……!最初から欲してはいなかった!」
怒り。僕の中にはそれだけが渦を巻いていた。すると男が入ってきた。男は彼女に何かしたようだ。かかっていた体液と、この男のDNAが一致する。
「おっ糞ロボが帰ってきてんじゃんかよwwwどうした?守れなかったなぁwww」
「……」
もう。彼女との約束を守る必要はない。もう。彼女はいないのだから。どこにも。俺は、その男の頭を掴んだ。
「殺せるもんなら殺してみろよwwwどうせ無理だろうがなwww」
「わかった」
俺は迷わず男の口に照明弾を撃ちぬいた。
「は」
男の体は膨らみ、破裂した。血が体に着いた。彼女は何も言わない。男の頭を持ちあげると、まだ生きていた。
「あ……あ?何で?何で攻撃できるんだ?」
「……少なめの脳みそで考えてみな」
俺はそいつの頭を思いきり握り潰した。この世界の人間はちょっとやそっとでは死なない。よくは分からないがナノマシンを駆使した体らしく、多少のダメージでは死なずに生きているらしい。恐らくこいつも先程まで生きていたのだろう。……もう死んでいるが。
「……彼女はナノマシンは使っていない。人間だ」
僕は考えてみれば彼女以外の人間を知らなかった。それもそうだろう。彼女以外の人間は、人間ではないのだから。僕は彼女を連れてある場所に向かった。そこは唯一といっていい、花が咲いている場所であった。彼女が外に出れるようになったら、連れていこうと思っていたんだ。
「……起きてください『』……もう朝ですよ」
最後の僕の抵抗だった。けれど、もう二度と彼女が起きることは無かった。僕は死にたいと思った。彼女がいない世界で何をしろと言うのだ。俺は絶望に打ちひしがれ、それでもやるべきことを探した。そこで見つけた。俺がやりたいことを。
「……この世界がいけないんだ」
俺は彼女が元居た基地に戻った。人間が何人か俺に銃を向けたが、逆に銃弾で撃たれたのは奴らだった。しかし生きている。頭を撃ちぬき心臓を取り除いたにもかかわらず。恐らくこの世界には人間はもういないのだろう。分かっていたはずなのに。
「見つけた」
俺は遂に目的の物を見つけた。それは『核』と言われるものだった。写真を撮り、それを自分に纏わせる。強大なエネルギーである事が理解できた。前からこう言うエネルギーがある事を知っていた。俺は動くとエネルギーが補充されるから、必要なかったのだが、それでもこれを手にした意味がある。
「……」
襲い掛かってきた兵士に核の光を浴びせる。奴らは影になった。まるで蒸発したかのように消えると、その命を終えた。奴らを殺すにはこれしかない。だから俺はこれを手にしたのだ。ミサイルも起動させる。
「……皆殺しだ」
それから俺は、殺しまくった。誰だろうと構わず、無慈悲に殺して回った。偉そうな奴も、普通に生きている奴も、子供も、老人も、男も女も関係ない。ただひたすらに殺していった。この世界から生命反応が出なくなるまで、ずっと。
「……」
残ったのは、俺だけだった。だから俺も死のうとした。しかしできなかった。
「……『』……俺に生きろというのか……」
俺の体は動かなければエネルギーが無くなり死ぬはずだった。しかし俺は核エネルギーを使いすぎたようだ。既に体には核を生産する場所が出来てしまった。しかも廃棄する物は内部で使って、また核エネルギーへと変えるのだ。無限ループの完成である。周囲に影響を及ぼす訳でもなく、ただひたすら俺だけが生きるだけの装置。
「……殺すなと言われていたから……罰。何ですね」
俺は死ぬことを許されず、生きる意味も失った。この世界にも何もない。ただひたすら、生きるだけの存在。
「……これで良いのかもしれない」
罰だ。約束を破った罰。それがこれなのだろう。それであれば僕は何も言わない。ただこの世界で生きるだけだ。本当は、君の世界になりたかったのに。
……そして、二億年という月日がたった。俺はただ寝ているだけだった。昔は木々一本も生えない大地であったが、今は木が生え虫や鳥が飛んでいる。人も疎らだが生まれているようだ。……しかし、彼女は帰ってこない。だからひっそりと森の中で寝ていた。
「……」
そんなある日、俺の元に変な奴が来た。針が一本しかない懐中時計を持った、彼女と同じくらいの少年であった。ただ、手には穴が開いており、今まさに何かから逃げてきたような表情と姿であった。
「……」
どうでもよかった。でも、少年は俺に話しかけてきた。それは俺にとっては希望と言える物であった。
「おいお前」
「……なんだ」
「お前何かを失ったことがあるな。……それも世界で一番大切なものを」
「……だと言ったら」
「そいつ。どっかにいるかもしれねぇぞ」
その瞬間、俺の生きる意味が出来た。彼女がいるのであれば、探す必要がある。
「……本当か?」
「あぁ。つってもこの世界にはいねぇ。……異世界って奴だ。俺は別世界から来て、今仲間を集めてる。……そして、俺は俺と同じような奴と出会うように仕組まれた。だからお前の前に現れたんだ」
その日、俺と少年の旅が始まった。少年に名前を聞いた。
「あ?……『
「俺は……」
そうまで言って思い出せなかった。自分の名前も、彼女の名前も思い出せない。忘れてしまった。
「……よし、名前がないってんなら俺が名付けてやる……お前は……」
俺は今、彼女を探している。しかし彼女は、今だ見つからない。一体どこにいるのだろう。
……い、おい!『カルマ!』」
「……っと?」
「何寝てるんだお前!これから別世界に行くってのに……」
「すみません。……懐かしい記憶を思い出していたもので」
「え、ロボットも夢見るの?どんな記憶?」
「……とても昔の記憶でした。名前は思い出せませんでしたが」
「そうか。まぁいい着地に備えろよ!今から降りるんだからな」
俺は夢を見ていたらしい。夢というよりは昔の記憶だろう。そこでも自分の名前と彼女の名前は分からなかったが。それでもいい。会えばわかる。
「よし……んでこの星は何て名前だ?」
「この星はですね……」
今日、俺は地球に降り立ちます。彼女が望んだような、平和な星に。僕がなりたかったような世界であるこの場所に。
「ふんふふ~ん……ん?」
「どうしました博士」
「んー……何か懐かしい雰囲気を感じてね……」
「……泣いてます?」
「まさか!泣くわけないでしょ。……でもなんでだろ。なんで懐かしいって思ったんだろ……?」
「……そうですか……」
「まぁいいや!帰ろ!助手!」
きっといつか、出会えると信じているから。
僕は君の世界になりたかった。 常闇の霊夜 @kakinatireiya
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