第144話「倖村の真太」
着古した
だが、幼さの残るその少年の瞳には憎悪にも似た感情が宿り、
慶一郎が感じ取った少年の想いは単純な殺意ではなく、そして、怒りや憎しみだけでもなかった。
怒りや憎しみと云った負の感情に悲しみや憤りと云った感情が混じり合った複雑な想いがその視線に込められ、少年はただひたすらに慶一郎への敵意を示していた。
(この者は
自覚がない以上は自問自答をしたところでその
「
真太。
それは、持ち手と
「何でもクソもあるか!
「さんを付けなさい!」
「それ今云うことかよ!?」
「二人共、怒鳴りあっていては話が進まないので落ち着い…」
「
「お前は黙ってろ!」
慶一郎は二人を宥めようとしたが、取り付く島もなかった。
二人の問答は暫く続き、その問答の中で真太という名の少年が慶一郎に対する敵意を抱いた
(そうか、この者は
真太は
年齢は十三歳。
新たに村長になった早百合の一つ歳上であり兄妹の様な関係であった。しかし、その生き方は早百合とは正反対であり、真太は一刻も早く倖村を出て独り立ちしたいと願い続け、弱冠十一歳にして真太は養子になるのではなく仕官する事で武家となった。無論、仕官をするには幼い年齢だった為に仕官先の武家の子の傍仕えの小姓としての登用であったが、それは確かに仕官であった。
身分すら持たない真太が為した異例の仕官、その方法は強引且つ大胆なものであった。
潮の
この時、その狂言に現実味を与えたのは駆り出された破落戸の性悪さであった。表向きは真太に従順な素振りをしながらも破落戸にとって一連の計画は狂言などではなく、
そんな性悪な破落戸の思惑が真太の計画を後押しした。目の前で繰り広げられた
その仕官から既に二年程が経っていたが、これ迄の真太の行方は倖村の者も潮も知る事がなく、時折、村へ物資が届いている事でその生死が確認出来ていたのみだった。尚、この物資には真太の名が記されていたわけではないが、他の者が村へ物資を送る際には名を明かしている為、無名で届く物資の送り主が真太であると皆が気付いていた。
「このわからず屋が!皆がどれだけ心配したと思っているんだ!?特に
「知るか!
あのデカブツとは、
「貴様!その云い方は…うっ!?」
「ぐうっ!?…な、なんだこれは…!!?」
それは、慶一郎による威圧だった。
「その言葉は捨て置けないな…」
「け、
まるで突如発生した濃霧が辺りを包んだかの様にその場の空気が一変していた。
以前に似た様な事態を体感した早雪ですらも足が
「ぐ…なんだお前……オレと
真太は精一杯強がってその言葉を絞り出した。
だが、その実は真太の
「殺る気かだと?…
「ば、バカにすんな!こう見えてもオレは大陸で戦って来た
「そうか、戦人か。だが、俺にはお前が戦人とは思えんがな」
「なにいっ!?お前はオレを見下せるほど戦に行ったってのかよ!!」
「いや、戦の経験は唯一度しかない。それも戦と云えるか否もわからん」
慶一郎が云った戦の経験とは、水戸での一件の事である。
自分自身の為だけに戦うのではなく、他人の想いも背負った三人が水戸城へと奇襲を仕掛けたあの夜の
勝者ではなく、勝利者が生まれる事で初めて決着となるのが戦であり、あの日の慶一郎達は紛れもなく戦に勝利した。水戸に暮らす人々の想いを届けるという利を獲た。
「なら偉そうにすんな!戦人としてはオレの方が上だ!」
「…戦人に上も下もないと思うが、まあいいだろう。だが、戦とは百々の詰まりは人同士の
「ああそうだ!時には逃げる奴を殺せと命じられたよ!それが戦だ!」
「ならお前はそいつらを殺す前にそれ告げたのか?」
「うっ!!?そ、それは……」
「戦は殺死合。殺す前に殺しますと告げる馬鹿はいない。俺が殺る気ならお前はもう死んでいる」
この言葉の通り、慶一郎に殺意はなかった。しかし、慶一郎は
その殺気が自分自身には向けられていない事をわかっている早雪ですらも
殺意のない慶一郎が周囲を戦かせる程の殺気を纏った
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