第126話「再会」
「───という事です。何の連絡もなしに大坂へ来るという決断をしてしまい、申し訳ありません」
「それは構いません。
「
「はい。ここは
慶一郎の言葉を遮ったのは早雪だった。
思わぬ場所での再会に
「やっぱそうか…ちっ!俺が余計な事を云っちまったから
「…
「二人共、過ぎた時を悔やんでも仕方ありませんよ。問題は
「……はい。私はそれを伝える為にここへ来たのですから…」
(既に
慶一郎の問いに早雪は即座に答えた。
判断を委ねる。
それは即ち、自身なら真実を明かすが早雪ならどうするのかと訊いていたのである。
伝える為に来た。
早雪の
「……問題を悪化させておいて勝手な物云いかも知れねえが、無理に伝えるこたねえんじゃねえか?」
「なに?
「隠せなんて云ってねえだろ。真実を受け入れられるまで少しだけ待てって云ってんだよ」
「だからそれに何の意味がある!?誤魔化して待たせればここの者達が自然と
「そう熱くなるなよ
「当たり前だ!
「……わかるよ…」
喜助はそれ迄はずっと合わせ続けていた早雪の視線から目を逸らし、俯いた状態で静かに呟く様にそう云った。
「なにっ!?貴様!
「ああ…確かに今日会ったばかりの
「何故わかるというのだ!」
「…俺が
「!!!」
喜助は顔を上げて再び早雪の眼を見つめて云った。
早百合と同じ…
それは、赤子の時に
その理由とは…
『空と共に居たい』
その一心から喜助はずっと空の傍を離れなかった。
空が不在の間に里を
喜助はやや世間知らずでぶっきらぼうではあるものの、世間で生きる為の知恵があり、空譲りの武は余程の強者でなくては相手にもならない
だが、喜助は頑なに空の下を離れず、空が米沢付近にて旅を終えて里を
それでも喜助は里が襲撃されて子供達を拐かされ、その後に慶一郎達と出逢った事で空の下から巣立った。
そんな喜助にとって早百合は、性別は違えど
「そうか…いや、そうだったな。
「おジャマーっ!…じゃなかった。失礼致しますです。アタイ…じゃなくて。アタクシのおもてなしをどうかお受けになって頂きたくございますです」
早百合が畏まって部屋へと入ってきた。
声も掛けずに襖を開け放った早百合の手元には、早百合自身の手で村にある井戸から汲んだ水が入った水差しと、同じく早百合自身の手で村の周辺から採ってきた木の実が乗せられた盆があった。
慶一郎と喜助のみだった時の粗雑な言葉遣いと明らかに異なる早百合のあべこべな口調は、早雪がいる事を意識して丁寧語を心掛けようとしている証だった。
早百合は潮と共に何度も倖村を訪れていた早雪を潮同様に慕っている。その理由は、倖村には十代半ばから三十代の者が殆どいない為だった。
特に十代と二十代の女が倖村に長居した事がなく、身近にいる女は三十代後半から四十代以上の者ばかりであり、その倖村に暮らす早百合は、凡そ三年前から何度も村へ顔を出している早雪を一番身近にいて年齢が近い女性として憧れに近い感情を抱き、早雪の前に立つ時には必ず、早雪が倖村に来た時の穏やかで凛々しい姿と丁寧な口調を真似ようと心掛けていた。尚、倖村に若者がいない理由は潮の打ち出した方針による影響である。
潮は十歳未満の子供達が村へ住む事になった際には信頼の出来る引き取り先が見つかる迄は村に置き、その間に村に住む大人達から生きる
十代前半の者が村に来た場合はその生い立ちによって対応が異なるものの、基本的には潮の
十代半ばから三十代の者もまた十代前半の者と同様に潮の人脈で見つけた奉公先や仕事先を斡旋する事で自立へのきっかけを与えた。
そして、四十代から上の者達の場合は世の中の仕組みとして社会への復帰が儘ならない事が多い為、基本的には倖村で自給自足しながら永住するか、自立して生きられる術が見つかる迄は自由に住ませた。
潮はこの倖村で老若男女を問わず
その理想は、真田家の忠臣として仕えていた頃から死ぬ迄の間ずっと変わらず、潮は死ぬ迄に得た私財のほぼ全てをこの倖村の為に使い、関ケ原終戦の折に真田一族のほぼ全てが
真田の関係者で倖村の存在を知る者は、潮自身の他には潮の遣いとして村を訪れていた潮直属の人物のみだった。
だが、その潮は凡そ
この日、早雪は倖村の住人に対し、隠郷にいる真田の関係者にもまだ明かされていない潮の死を明かしに来た。真田の関係者に潮の死を明かしていない理由は潮の死が真田の将兵達に与える影響を鑑みた信繁の判断だが、その理由の中にはそれを明かす最良の機会を待つという策略が含まれていた。
最良の機会とは即ち、それを明かす事で将兵の士気が高められる瞬間という意味であり、無二の友を失った信繁が大将としての立場に徹した苦肉の決断だった。
この決断により、潮が死んだという事実は
この又兵衛の態度は冷徹に思えるが、又兵衛にとってこの態度こそが潮に対する最大の敬意であり、根っからの
「
早百合は水と木の実を客人である慶一郎と喜助に先に配り、その後で早雪にも配った。
早雪を視る早百合の眼は、姉の様に慕う早雪と会えた喜びに加えて早雪ならば潮に関する何らかの情報を持っているという期待感が滲み出た輝きを放っていた。
その眼を視た早雪は一瞬躊躇したが、意を決して口を開いた。
「
「実はな
「えっ!?」
「な…!?」
喜助は早雪が真実を明かそうとしたその言葉を遮り、早百合へ嘘を
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