第114話「死衆と死神」
「そんな事までして天下を欲したというのか
「あんまでけえ声出すな。お嬢ちゃんが気絶したらどうすんだ?」
「
義太夫は死衆の秘密に触れて家康への怒りを隠せず、
「……
「………」
姫子の言葉に又兵衛は押し黙った。
「
姫子は心配そうに又兵衛を視た。
その姫子の飾らぬ優しさに又兵衛は意を決した様に口開いた。
「実はな…俺様もガキの頃に一度
「なにっ!?」
「あなたが!?」
「待て
「ガキの頃の話だ。詳しくは覚えてねえよ。だが、俺様に残る朧気な記憶の中でこれだけははっきりと覚えてるぜ。
「地獄……!!」
姫子は地獄と聞いて息を呑んだ。たった半日前に自身に降りかかった悲劇、姫子にはその経験こそが地獄だが、目の前にいる又兵衛という男が語る地獄が果たしてどの様なものなのか、姫子には想像もつかなかった。
又兵衛ほどの
「地獄絵図か…それはそうと、救い出した影とはどういう事だ?姿は視なかったのか?」
「視なかったんじゃねえ、視えなかったんだよ。
「ほう、それほどの
「ああ。その影の奴がどっかに仕える侍なのか単なる武芸者なのか、その正体は一切知らねえが、ガキだった俺様はその影の様になりたくて強くなろうとした。だが、到底及ばねえよ。戦云々ではない単純な武であの影に匹敵するとすりゃあ、白い死神と
「
「ふっ…」
義太夫が割って入ったが、又兵衛は否定も肯定もせずにただ笑った。
笑った後で瞼を閉じ、僅かに間を置いてから又兵衛は再び口を開いた。
「とにかく、俺様は影に救われた。それからどう帰ったかの記憶はねえが気づいたら家で寝てた。
「
思わぬ人物の名が出た事に義太夫は驚いた。
「
「なあに、
「なに?俺様も知っているだと…おめえそりゃあ
「無論。
「なにっ!?あの白い死神と俺様を助けた影が
「むはは!云ってくれる。だが、我輩と
義太夫の云った通りである。
空身と名乗っていた頃の空は空虚の
だが、そんな空虚の只中にいた頃の空にも一つだけ目的があった。
それは…
「
「ではなぜだ?」
「
「なるほど。
「そんなとこだろうな。だが、
「目的?死神に目的が在ったというのか?」
「らしいな。その目的とは死衆を根絶やしにする事だとよ。それをする過程でたまたま俺様や他のガキ共を助ける結果になり、ついでに俺様を使ったっつーわけだ。尤も、これは全て
「むう…その場で刃向かった者は子供であろうとも
これもまた義太夫の云った通りであった。
空身は又兵衛が居たその場で少なくとも数十人の子供を殺している。その子供達は皆が死衆として死ぬ以外の生き方を知らず、
子供達を含めて空身はその場で百十余名を殺し、結果として又兵衛を含めた三十余名の子供達を救っている。
「だろうな……
「いや、
「は?なにバカなこと云ってんだ?この俺様ですら少なくとも二十年以上は
人が死ぬ所には闘争があり、闘争がある所には白い死神が現れる。
又兵衛自身は過去一度も対峙した事がないが、又兵衛の云う死神日和となった戦、即ち多数の死者を出した戦に空身は
それは、小田原征伐の様に大きな戦に限った話ではない…規模の大小を問わず歴史に刻まれた戦の多くに空身は参戦し、敵味方の区別は一切なく、自身へと向かってくる全ての者と闘争を行った。その凄まじさから空身の闘争は戦場であっても許されぬ殺戮行為だと云う者もいた。戦場で空身と出逢い、闘争を行った末に死んだ者達のほぼ全てが自ら選択して空身へ
だが、無数の死者を生み出した空身の行為の結果として救われた生者も多くいた。
そして、いつの頃からか空身は、僅かながらに情報を得た者達の語る身形の特徴と、その闘争の凄まじさに対する恐怖と畏怖が混じり合った白い死神という名で呼ばれ始めた。
「死神日和とは奇妙な物云いをする。関ケ原に
「やけに自身があるみてえだが、その情報は
「無論だ。お主は知らぬ様だが
「フフフ…そこのお二人さん。何やら
「なにっ!?」
「むうッ!!?」
又兵衛と義太夫、二人の会話に突然割って入った者がいた。
その
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