第68話「義太夫の想い」
悪党に襲われた村での一件から数刻後。
「…そうか。あれ程の実力者が負けたのか。俄には信じられんな」
「俺もだ。片腕でさえ圧倒的な強さなのに両腕が健在だった頃に負けたなんて信じられねえよ。だが、腕を無くしたのが負けた証なんだとよ」
「む…しかし、奴は生き残ったのだな?」
「ああ。
「むははは!死神に
「…もしも私との出逢いで
義太夫は嘗ての空、即ち
その理由をわからぬままに義太夫は屈辱に身を裂かれながらも生を得た。
しかし、その負けは義太夫の肉体ではなく
当時の義太夫にとって自らの武は
さらに、情を掛けられ、武士にとって誇り高い
侍として仕えていた頃の人脈と剣の
そして、義太夫はあの日、慶一郎と出逢った事で再び心に光が射し、それまで積み上げた侠客としての地位を捨てて仕官先を探す牢人となった。
空虚に包まれた義太夫を変えたその出逢いは
「おお、それもそうだ!
「…
慶一郎のその言葉によってその場の空気が緊張に包まれた。
その原因は義太夫である。
潮の死という言葉は義太夫にとって聞きたくない言葉であり、信じることの出来ない言葉だった。
「……もう一度、聞かせてもらおう。
「
「貴様!!我輩を謀るつもりか!?」
義太夫は慶一郎に怒りを向けた。それは怒りというよりは憤りに近かった。
胸に抱いたやり場のない想いが義太夫を怒鳴らせていた。
「
「黙れ小僧!我輩はこの男と話しておる!事もあろうに
「おっさん……」
その涙は
義太夫は
だが、義太夫はそれを認めたくなかった。
「
慶一郎は一度も亡くなったとは云わなかった。
亡くなるとは遠回しな言い方であると共に無くなる事を思わせる言葉である。
『死とは無くなる事ではない。死とは生を遺すものである』
慶一郎は自らが関わってきた者達の死からそう感じ始めていた。
父である
それだけではない。
死とは生きた証として何かを遺すもの。そう感じたからこそ慶一郎は亡くなったとは云わなかった。潮の死、即ち潮の生を濁したくなかった。
「貴様まだ云うか!!表で出よ!!武器を持って我輩に付いて参れ!!貴様のその性根叩き直してやる!!」
「おっさんやめろって!それはさすがに…くっ!?け、
義太夫の言葉に対し、慶一郎は荷物の中に隠しておいた刀を手にして席を立った。
小太刀を背負った義太夫と刀を手にした慶一郎、無言のまま店を出る二人が
そして、
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