第40話「豊臣慶一郎」
「
頭目に加え、さらに五人の男を斬り、残り三人となった山賊達を前にして慶一郎が云った。
「…どうしてだ?」
「私は少しだけこの者達と話がしたい。…いえ、私はこの者達と話しておかなくてはならない」
「あ?なんだそりゃ?お前なにを…」
話しておかなくてはならない。
慶一郎のこの言葉は鬼助だけでなく、三人の男達も全く意味がわからなかった。
「
そう云いながら慶一郎は鬼助と早雪に頭を下げた。
深々と頭を下げる慶一郎に鬼助はそれ以上は何も云えず、黙って従うしかなかった。
そして、早雪が口を開いた。
「…
「わかっています。この者達も私が…」
「………」
「………」
慶一郎と早雪は無言で互いを見合っていた。ほんの少しの間、二人は何も語らずに目を合わせていた。
「…
「無論です、
慶一郎と早雪は一瞬だけ微笑みを交わした。
それは感情による微笑みではなく、互いの心が通じ合った証の微笑みであった。
「…
「えっ!?あ…おう、わかった。だがその前にお前の怪我の手当てをもう一度やり直してからだ。お前が散々怒って無茶すっからさっきやった
「…すまない。その…怒りやすいのは性分なんだ、許してくれ」
「はは、別に構わねえよ。じゃあ
「いや、私も共に行く。私の手で矢を抜いてやりたい」
「そうか、わかった」
早雪と鬼助はそう云うと慶一郎と三人の男達を残してその場を離れた。
それから早雪と鬼助は
「…おいお前、何のつもりだ?お前とする話なんかなんもねえぞ?」
「そうだ。殺すならさっさと殺せ。俺達は
「頭も他の連中も
三人の男達は慶一郎に云った。
慶一郎は表情も変えずにそれを聞いていた。
そして、早雪と鬼助が家の中へと入ったのを確認してから口を開いた。
「あなた達はこの男と同じく元は豊臣の関係者なのですね?」
「………」
男達は何も答えなかった。
「
「………」
再び男達は沈黙によって応えた。
口では答えずとも、沈黙により応えていた。
「嘗ての豊臣家に仕えた三人の
それは、慶一郎自身が豊臣の血を継ぐ者であるという宣言だった。
本来、豊臣という姓は姓ではなく
豊臣氏は秀吉が帝より
姓を持たぬ者が多く居たこの時代、自ら宣言して異なる姓名を名乗ることは
豊臣慶一郎、この氏名を名乗ることの意味、それは単に名を名乗るだけの行為ではないのである。
豊臣を名乗ることは選ばれた者だけが可能なことであり、例え豊臣を下賜されていたとしても、秀吉から秀頼へと繋がる豊臣宗家との関係からそれを名乗ることをしないものであった。
史実として、豊臣氏を下賜されたものは多数いる。早雪の父である
慶一郎の放ったその言葉、慶一郎が自らを豊臣であると名乗ったその言葉は、三人の沈黙をより強くさせていた。
暫くの間、沈黙が辺りを包んだ。
そして、慶一郎は再びゆっくりと口を開いた。
「…私の言葉を信ずるか否かはあなた達に任せます。ただ、あなた達はもう生きることを許されていません。
慶一郎の言葉に男達は何も答えなかった。
「………当然か…何一つとして証がないのに私の話を、私自身を信じることは出来ないでしょう。…では、終わりにしましょう」
そう云いながら慶一郎が刀の柄を握った時だった。
「…お前の話を鵜呑みにして信じることは出来ぬ。だが、俺は信じてみたい」
「立花と云ったな?見たところ、お前はあの立花家の人間ではなさそうだが…そのお前が豊臣を名乗ること、それはお前自身が豊臣と関係を持つと考えていいのか?それともお前は
「仮に
男達は慶一郎に向けて
それは、男達が慶一郎に興味を持った証であり、慶一郎のことを受け入れた証であった。男達の言葉を聞いた慶一郎は、刀の柄から手を離してその問いに答え始めた。
「…私はあなたが云った立花家、
慶一郎は男達に云った。
慶一郎は男達に自らが秀吉の実子であると宣言した。
この場にその証となる物はなく、由縁も語らなかったが、慶一郎は真っ直ぐな言葉と曇り無き
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