第19話「父の話」
慶長十九年五月二十日未明。
「
「心配はいりません、
早雪の言葉に対して慶一郎はさも当然かの様に云った。
慶一郎の云った当人とは、山賊が正体不明の二つの影の主に斬殺された一件で早雪と慶一郎が助けた二人の男達のことである。
「それはそうですが、奴らの逃げた先に痕跡が残っているでしょうか?」
「痕跡が無くとも彼らの行き先を辿る事は可能です」
「
「
「
早雪は慶一郎の言葉の意味に気がついた。
「わかりました
「はい。矢を射ったならば矢筈の向く方向を辿れば
「
「雲や霞でありながら巨木ですか…確かに父はそんな感じかも知れません。
慶一郎と早雪は辺りが明るくなってから元を辿ることにした。元を辿るとは、殺された山賊達の
そして、二人は明るくなるまでの間、互いの父親から聞いた甚五郎と
それは、間接的とはいえ慶一郎にとって初めて聞く甚五郎を知る者の話であった。
(父上…私は父上を残してあの場から逃げたあの日から今まで多くの人を殺めて生き長らえて来ました。それが本当に正しかったのか否か今でもわかりません。…ですが、そうして生き長らてきた事で
『ふっ、それでいい。生きろ、
「…父上?」
慶一郎は、心の中で語りかけた甚五郎から返事をもらった気がした。その甚五郎の声は懐かしくもあり、初めて聞く様な気もした。
「どうかしましたか?
不意に父上という言葉を呟いた慶一郎に対して早雪が訊いていた。
「え?私が何か?」
「あ、いえ。何もないのであれば結構なのですが、確かに今…父上と呟きましたので」
「そうですか、私が父上と…」
慶一郎は自らが父上と呟いた事に気がついていなかった。
「ええ、確かに父上と云いました。…
「はい。父は死にました。今から四年前の十月の事です」
「四年前の十月…そうですか、
「
甚五郎が死んだ時期を聞いた早雪はどこか合点がいったという雰囲気だった。
そして、早雪は決心したかの様にゆっくりと口を開いた。
「
空は段々と瑠璃色に染まり始めていた。
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