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お昼をおごる、と言ったはいいものの、美味しい飲食店なんてフィジャが勤めているお店しかわたしは知らず、女の子に指定してもらうこととなった。今フィジャの店に行くのはちょっと気まずいというか。フィジャは料理人だからそうそうホールに出てくることはないかもしれないけれど。
行ってみたかった店、と言って連れられて来たのは随分と可愛らしい、女性が好き、というよりは女の子が好みそうなカフェだった。
適当に注文を済ませ、わたしは改めて彼女の顔を見た。
「改めて、わたし、マレーゼって言うの。この度は本当に助かりました!」
「あ、えっと、あの、ルー……じゃなくて、私、は、ルーネって言います。全然、ル、私、たいしたことしてなくて……。あ、でも、あんまり謙遜しても駄目なのかな。どうしよう、ううん……」
女の子――もとい、ルーネちゃんは視線を泳がせながらも自己紹介をしてくれた。後半はぼそぼそと独り言を言っていたが……考えていることが口に出るタイプというか、考えながら話すタイプというか。
はっきり聞き取りやすいわけではないが、かといって聞かせるつもりのない独り言にしてはちゃんと言葉がとれる。
「と、とにかく、無事でよかったです……」
最終的にそこへ落ち着いたらしい。
「失礼します、こちらサービスです」
ルーネちゃんと話していると、数分もしないうちにドリンクが運ばれてきた。サービス、と運ばれてきたのはレモン水である。一見すると分かりにくいが、中に浮いている氷が猫の顔の形をしていた。かわいいな。
「かっ、かわいい……っ!」
絞り出すような、もだえるような声に、ルーネちゃんを見てみれば、丸眼鏡のレンズ越しでも、目をきらきらと輝かせているのが分かる。店のチョイスからして、こういう感じのものが好きなんだろう。
しばらくうっとりとグラスを眺めていたルーネちゃんだったが、わたしの視線にハッと気が付いたようで慌てだした。
「す、すみません、つい……」
「え、ああ、ううん。こちらこそ、じっと見ちゃってごめんなさい。でも、確かに可愛いわよね、これ」
じっと見たくなってしまうのも分かる可愛さだ。スマホとかがあれば、パシャっと一枚撮りたくもなる。まあ、スマホがこの世界にあるのかは分からないけど。冷蔵庫等の家電製品があるのだからありそうなものではあるけど……。
わたしの「可愛いね」発言に、彼女の顔がパッと明るくなる。
「で! ……すよねっ。ここ、すごく可愛いって評判なんですけど、でも、ちょっと一人で入るには勇気がなくて……」
まあ、確かに、店内の雰囲気としては、一人で入るよりも複数人で入って楽しむような空気がある。女の子だったら一人でもそこまで浮かないだろうが、ルーネちゃんは性格的に気おくれしてしまうのだろう。
「でも、レイオンとグリスを誘うのも……周り女の子一杯だし……」
レイオン。グリス。誰だろう。兄弟か、それとも男友達か。名前的にも話しぶり的にも、女ではないだろう。
そんなことを思ったのがわたしの顔に出たのか、それとも、第三者の名前を出してしまったのに気が付いたのか、ルーネちゃんは「あっ」と声を上げた。
「えっと、あの、レイオンとグリスっていうのは、ルーネ……じゃなくて、私、私の夫たちの名前で……。結構ガタイがいいので、このお店にはあんまり合わないっていうか、誘うのも可哀そうっていうか、だからなかなかお店に来られなくて……」
「へー……夫。……夫、『たち』?」
まあガタイのいい男にはこの店はキツイだろうな、と考えていたら聞き流すところだった。
夫たち――たち。
ふわふわの髪に見え隠れする角ばかりに目がいって、全然気が付かなかったが、ルーネちゃんの首には首輪があり、チャームの宝石が二つ、きらめいていた。
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