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「ボクの――ボクたちのせいだよね。マレーゼが、こっちに呼ばれたら、君の両親は……。待望の子、だったんでしょ?」
体調不良で気が落ち込んでいていつもより涙腺が緩くなっているのか。フィジャの瞳は、今にも泣きそうなほど揺れていた。
それに関しては特に責めるつもりは、全くない。希望〈キリグラ〉はなんの予兆もない、本当に突発的なもので、ある意味災害と何ら代わりがない。
あの人たちだって、自らのエゴで『わたし』を自分たちの希望に巻き込んだのだ。どれだけ悲しもうと、文句は言えないはず。
……というかそもそも。
「ええと……両親はもう、亡くなっているから。その辺は大丈夫――っていう言い方もなんかアレだけど、問題はないよ」
小さな島で、海と近い生活をしているわたちたちシーバイズ人は、水難事故で亡くなることは、そう珍しくはない。
海のすぐそばで生きているから、海の恐ろしさは十分知っている。でも、日常を過ごしているうちに、ふっと気を抜く瞬間があって、その一瞬を海はさらってしまうのだ。
両親もまた、そのうちの人間だった、ということだ。
「そんなわけで、気にしなくても大丈夫だよ」
どちらかと言うと、両親亡き後、わたしの身柄を引き取ってくれた師匠の方が気にかかるけど、それは言わない。
フィジャに、無駄に罪悪感を抱かせる必要はないし、師匠は来る者拒まず去る者追わず、な性格だから、自分の弟子が増減することに余り関心がない。気に入った弟子の面倒は結構見るんだけど。
わたしは弟子の中では、プライベートでも仲がいい方だったから、多少は探してくれるかもしれないけど、最終的には他の弟子と同じ扱いになるだろう。
「なんか、変にしんみりさせてごめんね」
元より、フィジャの具合が悪いから、普段みたいに和気あいあい、という感じではなかったが、一気に空気が暗くなった気がする。
少しでも場の空気がよくなれば、とわざとらしいくらい明るい声で言ってみたのだが、逆効果だったらしい。余計に空気が沈んだ気がする。難しいな……。
わたし本人が全く気にしていないように見えるのが、余計に問題なんだろうか。
でも、一回異世界転生を経験してしまうとな……。こうやって、他人事のように諦めてしまうのが楽だと、学んでしまうのだが。
「……そんなに気になるなら、こっちに来てよかった、とわたしに思わせるくらい、惚れさせてよ」
なんて、冗談のつもりだったのだが、フィジャは随分と真剣な表情で頷いた。頑張るね、と。
冗談の内容が内容だし、冗談を本気で返されるのも、なんかこう……恥ずかしい。
「ま、まあ、今はなにより、体調を治すことに専念しよ?」
わたしは恥ずかしさと照れを隠すように、そう言った。
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